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翻訳の醍醐味

【ワークショップ】絵本翻訳ワークショップ/3回連続講座 その3
【日時】2024年6月30日 日曜日 15:30−17:30
【参加者】4名
【講師】ふしみみさを(英仏翻訳者)
【場所】埼玉県越谷市 越谷駅徒歩5分 釘清商店2階


 翻訳でいちばん時間をかけるのは……

今回は、カタリーナ・ ヴァルクス作 『Lisette's Lie』を
教材にした、3回連続講座の最終回。

 前回までに、文章を最後まで訳しているので、
今回は訳を磨き上げていく作業。

まさに「翻訳の醍醐味」と言える部分です。

いちばんおもしろく、同時に、
いちばんむずかしいとも言えます。

 

わたしが翻訳の仕事をしていて、
圧倒的に多く時間をかけるのも、ここです。

原文から離れ、自分の文章をよりよくしていく。

「よりよく」というのは、「上手」というのとはちょっと違って、
その作品の魅力、よさが、感じられるように、

より読者に届きやすくなるように、訳を洗練させていくのです。

そのためには、自分の訳を客観的に眺める、俯瞰した目も必要です。

わたしはこの段階までくると、もう原文は見ません。
そうしないと、どうしても翻訳調になってしまう。

ふだんぜったい自分が話さないような
つべこべした文章にならないように、
徹底して自分の訳文と向き合います。

そのうえで、どうしてもうまくいかないときのみ、
原文を読み直します。

 

個性を伸びやかに

 

とっても嬉しかったのが、参加したみなさんが、
本当にのびのびとしていたこと。

これまでの2回で、すでに各々の個性はくっきり出ていましたが、
全体を通して訳を何度も見直してきていただいたことにより、
さらに磨きがかかっています。

 たとえば、リゼッテが
「ねえ、ボビ。うそってついたことある?」とたずね、
ボビがそれに「すごいうそはないよ」と答える場面。

 「ほんとうに大きなうそ? それなら、ないよ」

「それって大きいの? 小さいの?」

「うそはついたことあるけど、大きいのはないなあ」

「ものすごーーいうそ?」

「ほんものの うそ?」

人前で訳を発表するなんて、ちょっと勇気がいるはずですが、
みなさん、とっても楽しそう。

自然とくすくす笑いが出たり、吹き出したり。
「なるほどー」と感心しあったり。

みんな、それぞれが悩んで、何度も直して、
言葉を選んでいますし、
悩むところは似ていたりしますから、

仲間の訳を聞くと、
「そうきたか!」と、とても参考になるのです。

そして何より気持ちがいいのが、
なにが「正しいか」ではなく、
それぞれの魅力がいちばん輝く場所を自然とめざしていること。

自分の考える魅力をめざして、自分らしく


「魅力」というのは、「自分が感じる、この本の魅力」です。

だから「正解」がない。

 

この「正解がないこと」が、猛烈に楽しいのです。
作品の魅力を、読者に伝えるお手伝いをするのが訳者。

だから、自分の技術を見せる必要もなく、
自分を主張する必要もない。

そして、みなさんの訳が磨かれていくのを見ていると、きまって、
魅力=自分らしさが
のびのびと出た時なのです。

 こういうのって、ものすごく気持ちがいい。

そして、みなさんの顔にも、それが出ていました。


それぞれの訳を聞きながら、参加者さんたちがぽろりと口にした感想は、

 「美しい。そしてていねいで、きれい」

「テンポとリズムがいい」

「本当の子どもが話しているみたい」

「素直でまっすぐ。わかりやすくて、流れがいい」

 などなど。

 

まさにお人柄が出ています。

そしておもしろいのは、この特徴や魅力に、
ご本人は気づいていないのです。

ご本人以外は、大きくうなずいているというのに。

 

そして、講座の感想は……

 

講座が終わったあと、参加のみなさんに、感想をお聞きしてみました。

いくつか、書きぬいてみますね。

「ふだんは自分が楽しむために絵本を読んでいますが、翻訳となると、読み手のことを思いながら、どう訳そうかと考えながら読むので、いつもとちがう読書を味わえました.」

 

「絵本の翻訳についての認識が、ずいぶん変わったと思います。原文のまま訳すのではないということ、登場人物たちのキャラクター設定から言葉遣いまで、訳者の性格もにじみてるものだと実感しました」

「翻訳絵本が好きなのは、その翻訳者さんの世界観が好きなんだということも、改めて思いました」

「絵本の文は短いのに、たくさんのことを表現することの難しさを改めて感じました」

「同じメンバーで3回だったので、それぞれの個性がより際立ち、身近に感じられるようになって楽しかったです」

 などなど。


例えば映画の吹き替えが、同じセリフでも、
声優さんによって必ず変わってしまうように、
訳者が違えば必ず訳文が違ってくる。

 

どれだけ誠実に向き合って、どれだけ自分が楽しんで、
どれだけその作品が好きで、どれだけ深く没頭しているか。

さらには、訳者がどんな性格でどんなものが好きで、
どんなふうに生きてきたか。

そんなもろもろが集まって、頭と身体を通って出てきたのが、
今回の訳だと思います。

 それぞれの訳文が愛おしく思えました。


参加してくださったみなさん、本当にありがとうございました。

今度はどんなことをやろうかなあと、わくわく考えています。

 (伏見)

ゆるく、そしてここちよく。
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