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小説みたいな現実って本当にある

「事実は小説より奇なり」という言葉があるが、人生を振り返るとごくまれに「事実が小説より奇」だったことがある。

いまでも「こんなことあるのか」と思ったのは、2006年の夏の甲子園の決勝戦である。
端正な顔立ちで「ハンカチ王子」として一躍有名になった斎藤佑樹擁する早稲田実業と、夏の甲子園三連覇のかかる田中将大擁する駒大苫小牧の試合だ。
もとよりメディアの報道が過熱して盛り上がっていたのだが、決勝戦は引き分け再試合となり、再試合となった決勝ではマウンドに斎藤投手が立ち、駒大苫小牧の最後のバッターが田中投手という展開は極めて劇的だった。
当時テレビを見て「これが歴史に残る試合なんだろうなあ」と思っていたが、あれから20年弱の月日が流れてもなお色褪せずに私の中に残っている。おそらく同世代のひとであれば記憶している人も多かろう。

これはテレビというスクリーンのなかでの出来事だが、実際に目の前に起きたことが「事実は小説より奇」だったこともある。
それは合唱祭の練習の話である。

合唱祭といえば、男子が適当に練習したり練習しなかったりして、合唱祭に熱心な女子や学級委員の女子が怒って「男子ちゃんと歌って!!」となり泣き出す、というのがフィクションで描かれがちだが、まさにこの現象が私の目の前で起こったことがある。

中学一年生か二年生のころだったか、Sという合唱祭実行委員の女子がいた。卒業アルバムの写真映りがやけに良く、男子からの人気も高かった。普段から前にでてぐいぐい活躍するタイプではないのだが、合唱祭の実行委員ということもあり、頑張ってクラスをとりまとめようと努力していた。
しかし、多くの男子生徒は練習をまじめにやらない。適当に歌うのであればまだしも、歌わずに仲良し同士でべらべらとしゃべりだす始末である。何度か歌っても練習にならず、ついにしびれを切らしたSは「みんな…ちゃんと歌ってよ…」と力なくいい、そのうち泣き出したことがあった。

私も含め中学生男子は知能が極めて低く人生経験も乏しいため、女子の涙を前にして涙を拭きにいけるヤツもおらず、なす術もない。おろおろしたまま男子には動揺が広がった。
そのときSと仲が良いNというイケイケの女子がSを慰めるなどしてそこではコトは収まったのだが、その様子を見ていた我々男子生徒は何か感じるものがあったのだろう、なんだかんだでちゃんと練習するようになったのである。

実に不思議なことが現実に起こるものだ。その引き金がどこにあるのかはわからないが、1人でいると人生は予定調和になりやすい。
いろいろな人がそこにいるときにはじめて不思議なことは起きるもので、こんな風に文章をしたためながらも「誰かに会うことで面白いことが起きやしないか」という助平心を胸に、街へと出てみるのである。

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