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男なら床屋に行け

髪を切る時、男性でも最近は美容院に行く人が多いようである。男性が化粧をする時代というから髪の毛も美容院できれいにしてもらう人が多いというのは大変に結構なことではあるのだが、せっかく男に生まれたのであればぜひ床屋に行くべきである。

床屋のいいところはたくさんある。
まず男性であれば放っておくとすぐ顔に髭が生えてしまうものだが、顔剃りをしてくれる。ついでに眉毛も剃ってくれるし、加えて、無駄話を一切しないので、異様に早いのもいいところだ。回転が早いので床屋はファミレスのように予約なしで入っても大体すぐにサービスが始まることが多い。
そして、床屋で最も優れているのが、前屈みで髪を洗うアレである。女性だと髪が長いのでこのスタイルで髪を洗うのはおすすめできないが、短髪の男性であれば容易に髪を洗える。美容室のように一度立ち歩いて移動なんかはしない。座っているところからすぐ前かがみになれば髪を洗えるのだ。髪を切ることと髪を洗うことのふたつが必要な空間であれほど合理的なつくりはほかにないだろう。

もっとも、これは裏を返せば細かい気づかいのない空間であるということでもある。
入り口付近ではFMラジオが流れているのに、店の奥からはテレビから全然違うバラエティ番組が流れているという調子である。なかなかカオスだが、まあそれはそれで良いかと思える人でないと床屋には向かない。あれこれいったが、要はいたずらに快適さや雰囲気などを追い求めず、合理性と早さを両立すると床屋が生まれるという話である。

このあいだ、久しぶりに幼年期に通っていた床屋に行った。「スーパーカット」という凄そうな店名なのだが、20年以上通っているのにいまだにどこにスーパーなのかよくわかっていない。
スーパーカットはなんかは上述したような典型的な床屋である。このあいだは店に入るや否や、腰の曲がったおじいちゃん店員が「すぐ切れますよ」と一言。促されるままに私は髪を切ってもらったので実質的な待ち時間は2秒くらいだった。

おじいちゃんはなかなかの手さばきであった。唯一気になったのは、おじいちゃんが自らの衰えを庇ってなのか力が異様に強かったことである。頭を洗うときとか顔を拭くときとか、とにかくガシガシされてしまう。たぶんシャワーの水圧が実家くらい弱かったので、頭を洗うときには何とかその水を頭につけようと頑張ってくれていたのだろうと勝手に忖度している。

あと髭を剃ってもらっているとき、私の肌を押さえるおじいちゃんの指に力が入り、そのうち私の口内にふつうに入ってしまっていた。私は気にしないのだが、初対面の人の口に手が入っちゃうのをおじいちゃんは嫌がるそぶりもない。あと髭剃りの途中でパッと目を開くと信じられないくらい天井が汚い。床屋なのに衛生観念がドンマイという感じではあるのだが、でもそれでいいやと思わせてくれるのがスーパーカットの魅力なのである。

そういえば、髪を切ってもらっているときに外人の客が入ってきた。席に案内されると彼は「HELLO」と言って席に座ったのだが、別のおじいちゃん店員は容赦なく「長さどうしますか?」と聞くストロングスタイルには痺れた。ここは日本なのだから日本語を話せ、インバウンド需要など知らん、髪を切りに来ているのだからどのくらいの髪の長さにするのかをはっきり言え、という姿勢が如実にうかがえ、国際化に翻弄されない日本男児の姿を見ることができたのも収穫だった。

そして驚くなかれ、床屋の最大の魅力は価格の安さである。「スーパーカット」は、これだけネタを提供してくれ、さらに髪も切ってくれるのに、2000円くらいなのだ。美容院であれば4000~5000円することも珍しくない(しかも顔そりなどは別料金)が、上記のエンタメも含めて2000円なのだ。
ここまで魅力的な床屋に行かない理由はあるまい。男に生まれたなら、床屋に行くべきである!

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