九月の読書小記録
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🐟️九月の三冊
私立五芒高校 恋する幽霊部員たち/谷口雅美
血まみれ美人、『お願いさん』の祠、『ポールさん』、呪いの恋人形──不思議な噂が絶えない高校を舞台にした高校生たちの群像劇。
まずとてもうれしかったのが表紙を開いたところの遊び紙!
児童文学やYA文学では特に「読むたのしみ」や「紙の本の魅力」を伝えたい!というつくり手の想いが伝わる工夫がたくさんされていて、そういうのを見ると本当に心が温まる。トレーシング遊び紙や箔押しが高価だと知った同人経験後の身では、なおさらだ。何より自分の心に飼っている女児がすごく喜ぶ。遊び紙は何枚あってもいいですからね〜🎵
内容としては群像劇、なかでも恋愛関係を中心に描かれている作品。だけどなかには「幼なじみで仲もいいけどお互いに恋愛感情はゼロ」という二人や、「憧れの先輩をめぐって切磋琢磨する工業化ボーイズ」なんかも登場するので、必ずしも恋愛一辺倒というわけではない。それよりも夢や好きなことに全力な高校生たちの姿が印象的で、読んでいて元気を貰える。
登場人物が多いので最初は名前を覚えるのが大変だったが、表紙の裏に名前とお顔のイラスト、性格が全員分載っているので心配無用。表紙裏と本文を行ったり来たりしながら読み進めていく感覚は、幼少期に海外児童文学(ハリーポッターとかね)を読んでいたときの記憶を呼び起こしてくれて、すごくいい読書体験だった。
スプートニクの恋人/村上春樹
高校生のころ「読書好きは村上春樹を読んでこそ一人前」だと思っていたのだが、いくら気合を入れてページをめくってもさっぱり理解できず、挫折した暗い思い出がある。『スプートニクの恋人』もその時に一度読んだことがある作品で、今回は時を経てのリベンジ読書となった。
全体を通して印象的だったのは、何かをほんとうに得るためには体感しなければならないということ。その過程で血が流されることは避けられない、避けてはならないのだということ。夢か現実かわからないような不思議な世界観のなかで、それだけは真実として強く感じられた。
正直に言えば、お恥ずかしいことに今回も内容を100%理解できたとはいえない。だけど肩の力を抜いて読んだことや、知識や雑学が少し増えていたことで、ずっと楽しんで読むことができた!
たとえば
という一節では、学部時代にミュージカル『RENT/レント』をきかっけに『ラ・ボエーム』を見たことがあったので手を叩いて笑えた(特に笑うようなシーンではないけど)。年を重ねたからこそ、これまでなんかお洒落なことはわかるが謎に満ちていた比喩のおもしろさをようやく楽しめるスタートラインに立てたのだと思う。
限られた世界でだけ通じる言語を手に入れたときの「わかる」よろこび──なんて言うとネットミームを乱れ打っていた10代を思い出してしまい、ハルキストの皆さんに申し訳ない──をたくさん感じることができて、自分なりの村上春樹作品の楽しみ方をひとつ掴めたような気がする。他の作品にも前向きにトライしてみたい。
いつも強くてカッコいい女の子/蓼内明子、岡田貴久子、村上しいこ、石井睦美、小手鞠るい
強くてかっこいい女の子たちがたくさん出てくる児童向けの短編集。
かっこいい女の子の話を読んだり観たりするのが凄く好きなのだけど、地球を救ったり、歌やダンスで世界を震わせたりするなんてこと、私にはできないよなあとさみしくなることもある。だけどこの短編集で女の子たちが「かっこよさ」を発揮するのは、間違ったバスに乗ってしまったり、妹(ちょっと訳アリな妹なのだけど)のために三輪車を走らせたり、何気ない場面であることが多い。日常のなかで、一歩だけ足を踏み出してみることが私にとってのかっこよさなのかなと思った。それなら私もできるかもしれない!「いつも」とまではいかなくても、「時々」は、強くてカッコいい女の子になりたい。
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九月を振り返ると、半分以上が短歌を詠めない期だった。
どうやら夏恒例のものらしく、特段慌てたり絶望したりということはないのだが、そうは言っても新人賞の締め切りが迫っているなかでもどかしい思いはあった。今できることをやるしかないなあ、と絞り出すように短歌を詠むとき、頼りになるのは知識や論理の部分。人生感覚派でここまで生きてきた身としては、自分のなかのそういう部分を認識する機会はこんなときにしか訪れないので、ちょっと面白い。とはいえ早く復調しますように!
お読みいただきありがとうございました🌙