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飯山線で冷静さの欠けたスタンプ押印




01,汽車の旅には本をお供に

『まもなく戸狩野沢温泉、戸狩野沢温泉。終点です。』

ワンマン運転特有の女性の機会音声が自分の降りる駅に到着することを放送している。
抱えて突っ伏していたリュックから顔をあげた。
難しい本の読み途中だったが旧字が多く思うように進まない。
そのせいかリュックに突っ伏して気づいたら目を瞑っていた。

(あぁ、ここも10分しか折り返しの時間無いから気持ち早めに押さないと…)

(戸狩野沢温泉駅は前も押したことあるけど、適当押し時代の印影しか持ってないから10分しっかり使って綺麗に押したいな)

早朝の長野駅ほど寒さに厳しさはなく、むしろ暖かく感じた。 あたりの風景も大阪や京都とは比べ物にならないくらいの自然の豊かさだ。
キハ110のエンジン音が静かな構内で唸っている。 構内踏切をわたり駅舎に入る。 改札はまだ人のいない時間帯でその先にある駅スタンプ目がけて一直線に進んだ。

(汽車の時刻は8:22だったよな、一応確認しておこう)

ロングコートのポケットの中を探った。 あれ?ない。 口は2つしかないから絶対にここにあるはず。
となると車内に忘れたか。
前の駅から乗った時には持ってたからほぼ確実に車内だ。 だが取りに帰る時間が惜しいしまだ時間は7分くらいあるから一旦スタンプを押そう。
それに運転手さんが折り返し車内循環で回収している可能性が高い。 しかし状況は理解していたものの、押した印影にはその冷静さの欠片も感じられない見苦しい出来合いだった。
印材はアカネ柘の天丸と呼ばれる形。 オレンジゴムが使用されている。
長野支社印特有の映りにくく押しにくいアレだ。

(なんてこった、全然まともに押せないではないか!)

仕方がない、もう1枚だけ押したら聞きに行こう。 案の定綺麗とは言い難い出来になった。

02,もうちょっとうまい説明の仕方があっただろうに


車内に戻って自分が座ってた(寝てた)場所を見返した。 やはりないな。 持っているとしたら運転手さんか。
「すみません、車内にスマホ落ちてませんでしたか?」
「スマホ、、、どのようなケースでしたか?特徴を教えていただけますか?」 「えっと、スタンプがデザインされたスマホケースです!!」
もうちょっとわかりやすい表現あっただろってちょっと思った。
「これですか?」 そう言って黒いカバンの中から自分がさっきまで持ってたスマホが姿を表した。 「それです!」
「よかった、長野まで持っていくところでした。当駅で下車されたんですか?」
「はい、スタンプ押して折り返しで飯山まで乗るつもりでした。フリーきっぷを使っているので。」 そう言ってケースのポケットにしまってあった切符を見せた。
さて、長野駅で電車の時間をミスしてやむなく新幹線課金する羽目になったおでかけだがなんと危なっかしいスタートダッシュだろうか。
とは言いつつ、ここ3,4か月やり取りをしている人からも予想通り連絡が来て3週間前の大阪ぶりに会えるだろう。行程は(一方的に)送ってあるからそこから夜どう動くかを話し合うだろう。
聞こうと思ってメモに書き留めた質問達は果たして答えを得られるのだろうか…。
やけに他人事だって? それは人間の個性と考え方、捉え方の問題よ。
とりあえず返信しなきゃ。

昔の車掌車を改造して待合室になっている信濃平駅。


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