
季節を感じる和紙づくりの贅沢なひと時
埼玉県比企郡小川町。
ここは県内でも「和紙のふるさと」として知られる地。
僕は近郊の行田市生まれなので、幼少期に学校でも子ども会でも紙漉き体験に来ていた記憶があった。
でも、移住前に和紙づくりの最初の作業、かつては町のいたるところでされていた冬の風物詩でもある光景「楮かしき・楮皮むき」という大切な作業があることを知った。
ここから1年の和紙づくりが始まる
流し漉きでの和紙づくりの工程は、大きく13工程。
① 楮きり→ ② 楮かしき→ ③ 楮むき→ ④ 楮ひき→ ⑤ 楮煮→ ⑥ 楮さらし→ ⑦ ちりとり→ ⑧ 楮打ち→ ⑨ ビーター→ ⑩ とろ叩き→ ⑪ 紙漉き→ ⑫ 紙絞り→ ⑬ 紙干し
この工程については、追々ご紹介するなり、小川町にお越しいただければ和紙体験学習センターやパンフレットなどで知ることができます。

さて・・・皆さんが良く写真や動画で知っている和紙の作業は⑪ 紙漉きという工程。でも、そこに至るまでには10もの工程がされているのです。
例年、年明け頃から作業されるのが「楮かしき」「楮むき」なのです。
いうなれば、1年における和紙づくりの最初の作業。
ここから、和紙づくりが始まるのです。
※楮(こうぞ)というのは、和紙の原料となる桑科の植物で、この幹の皮が和紙の繊維・材料となる。
小川町では、この楮(こうぞ)のことを方言で『かず』と呼びます。
「楮かしき」を見学、そして「楮むき」を体験
今年も1月第2週目の土・日でこの楮かしき・楮むき体験が和紙体験学習センターで行われ、その体験会に参加してきました。(実は今年で3年目)
現地に到着すると、既に「かしき」はされており、冬の澄んだ青空に白い湯気が立ち込めていました。
芋を蒸かした時のような匂い、香り・・・これもまた独特の存在感。
まさに五感で感じ取れる風物詩!
ー 楮かしきは、90cmに切り揃えた楮を大きな釜で蒸す作業。
量にもよりますが3~4時間ほどかかる作業。
なので朝11時からの体験会分は、朝7時頃に火入れ・・・



蒸し上がった楮を熱いうちに皮むきしていきます。
3年連続で晴天に恵まれていますが、とはいえ…小川の冬はさむい(涙)
この蒸し上がった楮はあたたかい。
ちょっとほっこりします。(カイロのようや〜、ぬっくいよ)
太い方を上にして持ち、上部の皮を捻ると、「裂け目」ができます。
その裂け目を掴んで、楮の芯の部分を一気に剥がしていきます。
これが、にゅる〜⁉スル〜⁉といった感じで剝けるのです。
キモチいいーーー!!
(ちょっと昔、裂けるチーズを裂いていくような剥がし感)
1年目は、この感覚に手こずりましたが…
3年目になると・・・ウフフ(ベテランボランティア?(笑))
慣れるとどんどん、作業がスピードUP!カラダが火照るくらい。
作業は、体験会参加者も結構来てくださり、1時間ほどで予定量が終了しました。

海外から来日した造形アーティストさんもご一緒に!
今年の「楮かしき・楮むき」では、うれしいことがありました。
海外で、木版画を行っているアーティストさん、舞台美術などで彫刻や造形作家されているアーティストさんが、和紙が好きで、和紙づくりの工程を体験したいと参加してくださいました。
(このアーティストさんたちは前日に紙漉きも体験)

日本人ですら知らないこの工程を、体験したいと来日し、参加してくれたことに、和紙の産業文化としての価値を再認識させてもらえました。
体験後、わずかな時間でしたが、交流させてもらい、作品を見せてもらったり、どんな活動をしているのかを教えてもらったり・・・
これがまたインスパイア!刺激になりました。
生産地だからこその風景 ― 寒い冬を一層身近に感じる
小川町では、楮を毎年育てています。
(とは言っても、全体の生産量を賄えるほではないのですが・・・)
かつては、多くの楮農家さんも居て、育て、楮きりをして、かしきや皮むきをしていたそうです。
3年前、初めて参加した際に、おばあちゃん、おじいちゃんたちが「子どもの頃、よく家の手伝いでやってたよ〜」とお話してくれました。
約60年くらい前までは、小川町でも多くの家が、和紙づくりに関わっていたんですね。
和紙づくりをしていても、楮を生産していないところもあり、
こうした「楮かしき・楮むき」の作業を間近で見て、体験できるのは生産しているからこそ。
こんな貴重なことは、めったにないことなのよ。
「時代が違うから・・・」という一言では、片づけたくない・・・。
この土地の自然や風土、産業として根付いた文化に少しでも関心興味を持ってもらえれば・・・
だからこそ、海外の方が来てくださったことに、「ウルっ(涙)」と思ってしまった。
昔であれば、冬の青空に家々で「かしき」した湯気があがり、冬の風物詩としての光景があたり前のように見られたことでしょう。
しかし、現在はその光景すら貴重。
季節は、気温やカレンダーだけでなく、まちの日常の姿からも感じられる…
「楮かしき・楮むき」を通じ、冬という季節をより強く感じられる贅沢さ。
これも、小川町の魅力のひとつ。
残していかないといけないし、紡いでいきたい姿です。