天ぷら くすのき(橋本) 2024.10
はじめに
東京四ツ谷にある天ぷら屋「天ぷらくすのき」に参りました。二番手の橋本さんによる、ショートコースになります。
勝手に評価!
総合評価:4.1 凄く良い!
料理・味:4.5
サービス:4.6
雰囲気:4.6
コスパ:3.6
実際に食べたもの
コース
冷やされたことにより、舞茸にはぐっと香りと旨味が詰まっています。
上にかかっているのは、舞茸の摺り流しに出汁を加えたもの。出汁によって、丸みと柔らかさが加わります。
ご説明と共に、本日ご提供いただく食材をお見せいただきました。
コースで供される天ぷらは10品です。
車海老は2種類の味付けで頂きます。
始めは塩で。
まず、衣が驚くほどに薄くて繊細。
生ならではのプリッとした食感と、加熱によるふわっと味わいが広がる感覚、それぞれの良さが一気に楽しめます。
恐らく、塩は営業に合わせて炒っているのかな?
まるで粉雪のような繊細な口当たりと、優しいアクセントを加えます。
次は醤油の香りと共に。
醤油は刷毛を使って、点で付けていらっしゃいます。
これによって、衣の食感や素材の味わいを阻害することなく、ほのかな香ばしさとコクのアクセントが加わります。
写真のように、天ぷらは全て手渡し。
どれだけ優しくお持ちでいらっしゃるか、伝わりますでしょうか?
また、粉落としする際も、振動を極力少なくするかのように、柔らかく粉箸を当てていらっしゃいました。
これによって、繊細な衣は僅かな傷もなく調理され、届けられます。
海老の身を頂いた後は、頭を2尾分。
先程に比べて、じっくりと揚げられております。
ぎゅううと濃縮された、車海老の華やかな旨味と香ばしさが花開きます。
中には海老味噌も潜ませており、徐々に海老頭の旨味や香ばしさをまろやかに包み込む。
この味わいの移ろいが、忘れられない。
先ほどの車海老に比べて、やや厚めの衣に包まれています。
お聞きした所、何と食材ごとに衣を使い分けていらっしゃるそう!!このことで、素材よりも「素材らしさ」を引き出しているのだとか。
一口頂くと、その言葉を身をもって体感できます。
まず、生よりも瑞々しいのでは?と思うほどに、水分が保たれている。
そして、甘みの中にほんのりと緑の青っぽい香りを含んだ味わいが、弾けるように広がります。
ふつふつと感動が湧き上がる一品でした。
ふわっと軽やかでありつつ、しっとり水分が保たれている、絶妙な火入れ。
まるで今まで空気に触れたことがないほどに透き通った甘みのある脂と、湧水のごとく透明感あるエキス。川のように、淀みなく流れます。
凄くシンプルな造りで、口の滞在時間も数秒程度。なのですが、五感が、脳が、ガンガンと刺激されるような一品。
女性の親指の爪はあるかな?大ぶりな銀杏です。
ほっくりとした口当たりの後に、衣の香ばしさと丸みを持った青い香りがほのかに舞う。そして、瑞々しさの中に土の名残りを感じる甘みが柔らかに広がります。
揚げた後に、蒸し器を使って加熱を加えています。先程のマナガツオよりも、ふんわりとした口当たり。
そして、言わずもがな、ほろほろと繊維が崩れていくような感覚。
ただ、若干の魚臭さを感じたのは、少々気になりました。
車海老同様、塩と醤油の香りと、2種類の味付けで。
ジューシーなエキスと、舞茸らしいコリコリとした食感。そして、最後に舞茸の濃縮した香りがぷわぁっと華やかに立ち、鼻から抜けます。
旨味や香りの存在感はあるのに、最後はエレガントで軽やか。
見た目からでも分かる、濃密さ。
とろとろな口当たりは、繊維の「せ」の字も感じません。そして、蜜のような熟された甘み。
カボチャ特有の、土の中にほんのりと酸を感じるような、スパイスが合わさったような香りが滑らかに広がります。
穴子は2種類のスタイルで。
まずは尾の身、背の部分を。醤油の香りをつけて供されます。
透き通ったエキスの流れが、マナガツオよりは緩やかに、さらりさらりと感じられます。
さっくりと仕上がったクリスピーな衣と、唇で噛めるでは?と思うほどに繊細な身とのコントラスト。
次は腹身の部位を。
腹身には、エキスと共にほのかな甘みのある脂が加わります。
合わせるのは、天つゆで炊いた大根おろし。タレの味わいを大根おろしによって中和、間接的に届けることで、腹身の甘みもしっかり味わえます。
海の甘み、大地の甘み、それぞれが互いを優しく包み込むような感覚。
同じ個体でも、こんなに味わいに違いがあるとは…
非常に贅沢で、学びある食べ比べでした!
追加
この日の追加メニュー。
筆者は香茸、カラスミに加えて、コース内で頂いたマナガツオを追加しました。
驚くほどにしっとりと仕上がったカラスミ。
噛む度に、カラスミのまろやかで濃厚なコクと塩気がどんどん深く広く溢れ、留まる所を知りません。まるで豊かな海の奥底へと進んでいくかのよう。
そして、そんな余韻をじんわりと楽しむのも、また幸せ。
あの感覚にもう一度浸りたくて、おかわり。
ひとくちサイズの身に、豊かな生命力と繊細な甘みが詰まっています。
揚げ物とは思えない、寧ろ口の中やお腹が洗われているかと錯覚するほど、透き通っています。
名前の通り、肥沃な土から吸収したミネラルが絡み合った、豊かな香りが堪能できます。
ふわぁっと球体を帯びて花開く椎茸とは異なり、上から雫を落とした際の波紋のようにすぅーと横に広がるイメージです。
そして、肉厚でぷりっとしつつ柔らかな身からは、ぎゅっと詰まったエキスが流れます。
コース(続き)
締めに合わせて炊かれたお米。
バラ天丼で頂きます。
清らかなミネラルの香りと旨味がふわぁっと爽やかに広がります。
磯の味わいは感じつつも、変な臭みや食事を覆い被すような過剰さはなくて、染み染みと胃袋を温めてくれます。
芝海老、舞茸、香茸、いんげんをバラバラに崩して揚げています。
タレをかけたご飯に乗せた後に、仕上げにタレをもう1掛け。
まず、ご飯だけでも別格。
ふっくらと炊かれたご飯。まるで秋空に舞う紅葉のように、はらりはらりと口に広がります。
コクと甘みと塩と香ばしさ、それぞれが柔らかく仕上がったタレがふんわりと絡むことで、世界一軽やかな炊き込みご飯を食べているような感覚です。(つまり、これだけで完全なご馳走なのです)
バラ天は最初はさっくりとした衣。それぞれの食感や味わいを単体で楽しんだり、合わせて頂くことで香りの組み合わせを楽しんだり。
時間が経つと衣にタレが染み込み、深みが増す。ぎゅっぎゅっと、身が無くなるギリギリまで噛み締めたくなります。
食べ疲れは全くないのに、満足感のある一品です。
桃のシャーベットに、桃のコンポートなど、桃をふんだんに使用したデザート。
桃のフレッシュな果肉感、ピュアな甘み、まろやかさ、桃の良さがふんだんに詰まっていました。
良いところは包み込み守り、余分なところは逃がす。そのことで、食べ手が口にした時に一番の魅力が発揮される。
食材の真価はどこにあるのか、どうやって引き出せるのか。揚げの温度や時間は勿論、衣の濃度、味付けの程度、ミリ単位の細やかな技巧があるからこそ成立する品々。
天ぷらという調理のポテンシャルの高さ、それ故の属人性の高さを、ひしひしと感じられました。
サービス
高橋さんの凛とした立ち振舞いと温かいお人柄に、感服いたしました。
天ぷらが冷めないように適切な折を見て、追加で調理方法や食材に関するご説明をいただいたり、心地良く過ごせるようにと我々を含めたゲストに質問やお話も振ってくだったり。
調理への目配りは勿論、ゲストにも逐次きめ細やかにご配慮いただき、頭が上がりません。
お値段
コース(税込18,700円)×2、グラスシャンパン×2、追加を含めて、66,350円/2名でした。
まとめ
食べた傍から恋しくなってしまうほどに、豊かな、でも軽やかで繊細な味わい。
実を申し上げますと、これまで天ぷらは好んで伺ってこなかったのですが、今回の訪問を通じてもっと頂きたい!という思いが膨らんでまいりました。
年内、12月までには中目黒店をオープンされるとのことで(橋本さんとくすのき名古屋の市原さんが揚げ手)、こちらへも伺えると嬉しいです。