勧善懲悪
※児童虐待 暴力 殺人表現
―—僕らは臆病だった。
臆病故に、そうするしかなかったのだ。
「ねぇ、本とうに?」
「もちろん。」
ひそひそ話はシャベルを地面に刺す音で遮られた。
傷が痛む。その度フラッシュバックを起こしかける。
「手伝ってよ。」
「…うん。」
置かれたノートが汚れた。
君と、服の朱だけが、鮮やかに映っている。
シャベルは一つだけだった。
雨に濡れた土は重たくて、どこか暖かい。
もう、怯えなくていいから。
「…ッねえ、やっぱやめよう?」
「だめだよ。またぶたれてもいいの?」
「それは、それは…やだけどさ、」
シャベルをやっとの思いで作った穴に被せた。
自分の服の朱は、もう取れない。どこにも移らない。
「大じょう夫、もうおこられないんだよ」
「…本とう?」
「お兄ちゃんが守るからな。」
くぐもった声は不安げで、そっと離れると寂しそうな顔をした。
「こっちに持って来れる?」
「うん、」
引き摺る音が木々に反響した。
ようやく捕まえたそれをさらに引き寄せると、落ちて鈍い音を出す。
これで、いい。いいんだ。
「ねぇ…ママ、どうなるの?」
「…ママはね、行方不明になったんだよ。ぼくらは、何も知らない。ママはぼくらを置いて出て行って、それからは知らない。いい?」
「わかった。」
ぱらぱらとかかっていく土が、顔を隠す。
もう二度と見なくてもいい、その顔を。
「ねぇおにいちゃん。ほんとにおこられないの?」
「うん、ぼくらは悪くないよ。」
「人ころしちゃだめなんじゃないの?」
「…それは、だめなことだけど。」
「…ねぇ、」
「わかってる、わかってるから。」
わかってるから、言わないで。