無題
僕は1人では生きていけなかった。
いつだって誰かの背中を追いかけた。
今日だって、多分知ってる人がいなかったら来なかったんだ。
賑やかで、人がいっぱいの校舎を、半年ぶりに眺めた。
たった6ヶ月で、人は変わるもので。
3年間通い慣れたはずのそこはまるで知らない場所になっていた。
いや、正確には、場所が変わったんじゃなくて、
…いる人が変わっただけなんだろうな。
私も含め、人間が変わっただけ。
階段を1段登る度、在り来りな言い方だけど、思い出がよみがえってくるのだ。
この階段を、初めてスーツで昇った時。
先輩の卒業式に、そのスーツで駆け回った時。
後輩の入学式に、また同じスーツで、同じように。
そしていつの間にか、自分が卒業する側に。
人生で初めて、袴を着たあの夢のような時間が、遠い遠い昔のような気がして。
その記憶を、この校舎は覚えていない気がした。
100年のうちの1人なんて、覚えていないだろう、と。
貼ってあるポスターだって、いい加減開催日は過ぎてるだろうに、誰も気にとめずそこにあるだけ。
それすら懐古の念をわかせる。
それ違った顔も知らぬ後輩の中に、いつかの日の私がいた気がした。
多分、気のせいだ。
いや、私はそんなとこにいなかったんだ。それは理想を押し付けただけなのだ。
教室の場所も、展示も、喧しさも変わらない。
それでも、ちょっと迷った。
あぁ、私はここを出ていってしまったんだなと思った。
『このままこのクラスが永遠に続く気がしていた』
それはいつかの私自身の言葉だ。
我ながら、全く自分の質というものを理解している発言だと思った。
後悔した。
あの日、最後にみんなに会った日。
もっと、たくさん色んな人と話したかった。そういう人と、後からでも連絡をとればよかったのだ、と。
半年も経てば、もう新しい人脈ができて私は誰かの過去の人間に過ぎないのに。
それを忘れた愚か者だ、と。
同時に、結局自分はその程度であるとも思った。
そんな気はしていた。
結局、連絡を貰えるほどの人間関係を築けた訳では無いのだ。
わかっていたとも。
みんな、わたしも、今を生きているのだ。
校門を出て、校舎を振り返った。
見下ろされている気がした。
毎日通ったこの場所に、初めて意思を感じたというべきか。
無機物に意思があるかと言われれば無いとは思っているけれど、それでも。
たぶん、こういう時しか来ないけれど、それでも。
僕は、忘れないんだと思う。