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評価経済社会の、コミュニケーション設計モデル「AMEES(エイミーズ)」

こんにちは、“映画おばけ” です。

普段は、企業様の広告コミュニケーションや、プロモーションを企画したり、サポートするお仕事をさせて頂いてます。

映画や音楽、漫画やアニメといったエンタメ商材に関しては、かれこれ10年近くに渡り、様々な作品を世に伝え広めることに携わってきました。

今回のnoteでは、私が自らの仕事で用いているコミュニケーションプランニングのフレームワーク「AMEES(エイミーズ)」を、備忘録をかねて紹介させて頂きます。

AMEES(エイミーズ)とは

Awareness  (遭遇認知)
Motivation   (意欲合致)
Endorsment(安心保証)
Experience  (経験価値)
Share     (共有内面化)

〜の略で、評価経済社会のコミュニケーション設計モデルとして、私なりに既存のフレームワークを整理・アップデートしたものです。

消費生活者の購買行動モデルのこれまで

少し前置きになりますが、マーケティングに関わる方であれば、購買行動モデルという名で「AIDMA」や「AISAS」をご存知と思います。

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AIDMAは、消費者が商品をはじめて知り、購入にいたるまでの心理プロセスを「Attention(注意)」「Interest(興味)」「Desire(欲求)」「Memory(記憶)」「Action(行動)」の5つに整理し、その頭文字をとって、1920年代に米国のサミュエル・ローランド・ホールによって提唱されます。

一方AISASは、2005年に電通さんが提唱したもので、インターネットが普及し、検索やクチコミという概念が生まれて以降の購買行動モデルとして、AIDMAの「Desire(欲求)」と「Memory(記憶)」を「Search(検索)」に置き換え「Action(購買)」の後に「Shere(共有)」が追加されます。

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またSNS時代へと移行すると、同じく電通さんから提唱される「SIPS」(2011年)や、コンテンツ・マーケティング時代への適応を目指した「DECAX」(2015年)が提唱されるなど、購買行動モデルは時代によって様々な言い換え、アップデートがされてきました。

最近では、けんすうさんの提唱する「DRESS」や、

飯髙悠太さんの提唱する「ULSSAS」なんかも。

各プレイヤー、フィールド毎で提唱されるモデルが色々ありますが、その一方、AISAS以降はあまり一般化・標準化されない印象です。

これは「AIDMA」や「AISAS」のフレームワークが、今尚使える優れた「普遍性」を宿しているということ、

また、テクノロジーとコミュニケーション環境が著しい速さで「分散化・多様化・多方向化」しているため、なかなか一つのフレームワークに定着することが難しいのだと思います。

そして、この「分散化・多様化・多方向化」は、マス・マーケティング、ソーシャルメディア・マーケティング、コンテンツ・マーケティング等、それぞれのマーケターの主戦場の多様化と同義です。

其々の担当者が扱う商材や、得意なマーケ領域によって「これがいい」とされるフレームワークは微妙に異なりますし、バイアスやポジショントークも混ざって、個別に、様々に、推奨提唱がされてるイメージです。

そのため、マーケティングコミュニケーションの仕事に従事する身としては「自分の主戦場で使える、自分に最適化したフレームワークを持つのが良いのだろう」と考え至り。

私なりに、勝手が良い(汎用性もある)モデルとして、プランニング作業で使っているのが「AMEES(エイミーズ)」というわけです。

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「AMEES(エイミーズ)」で、踏まえたこと

まず第1に「AMEES」は「購買行動モデル」ではありません。

この種のフレームワークが、これまで「消費者行動モデル」や「消費者購買モデル」と呼ばれてきましたが、私自身の違和感として、消費生活者の「行動」や「購買」をモデル化し、フレームワークにはめよう、動かそうという態度は、上から目線でなんだか好きになれません。

そのため「AMEES」は、ターゲットから獲得したい「反応」と、そのために「設計すべきコミュニケーション」を整理・補助するフレームワーク、と位置付けています。

第2に「AMEES」は、私たちを取りまく「評価経済社会」と「信用経済社会」に焦点を当てた、コミュニケーションフレームワークです。

詳細な説明は割愛しますが、ざっくり「評価経済」とは、1億円持ってる人が凄い〜とされる既存の「貨幣経済」的価値観ではなく、TwitterやInstagramのフォロワーが100万人いる人のほうが凄い(より経済価値を持てる)社会のことです。

「いいね!」や「フォロー」「PV」や「再生数」「チャンネル登録数」といった周囲からの評価を仲介に、ヒト・モノ・サービス・お金が集まること、お金が評価に従属する経済社会と言えますね。

これまで以上に個人が発信・求心力を持てるのが特徴で、評価の累積は、やがて「信用」へと変わります。

「信用」、つまりブランドが経済活動の中で大きな役割を持つようになるのが「信用経済」です。(流行りのオンラインサロンとか、まさにこれに該当しますね)

キンコン西野さんは、さらにその先に「キャラ経済」がある、という持論も展開されてますが、これも広義の「信用経済」に類するものです。

そんな「評価経済社会」(以降)のコミュニケーションプランニングで「AMEES」は活用できると思ってます。

前置きが長くなりましたが、以下、順に説明します。

・Awareness  (遭遇認知)
・Motivation   (意欲合致)
・Endorsment(安心保証)
・Experience  (経験価値)
・Share     (共有内面化)

まずは、

Awareness  (遭遇認知)

最初に獲得したいのは〈認知〉で、そのための最適な「タッチポイント」を設計するフェーズです。

認知というと、一義的には旧来のマス・マーケティング的な「どれだけ知ってもらえるか、接触したか、露出したか」が大事な指標となる、プッシュ・アテンション獲得型のキャンペーンやコミュニケーションも、あるかもしれません。

他方で、消費者が自分の興味があるコンテンツを「発見」する、コンテンツ・マーケティング的プル型の発想が主流となりつつある現在。

このフェーズでは、目標とするKPI「認知度・認知量」の獲得に向けて「どうやってターゲットと商材・情報が遭遇するか」という、文脈込みの最適な認知経路(タッチポイント)の設計が必要となります。

例えば、
・流行ってる感伴う、遭遇か
・洗練された感のある遭遇か、それともカジュアルな遭遇か
・穏やかさや、安心感を伴う遭遇か
・アクティブで、驚きを伴う遭遇か

ターゲットの生活動線・行動習慣上で、違和感ない「遭遇」をつくることを念頭に「遭遇経路」と「必要接触量」を計算する、メディアプランニングのスキルが、プランナーには求められると思います。

この意味で、本フレームワークでAwareness は、ただの認知ではなく「遭遇認知」という言葉が適当だと考えています。


続いて、

Motivation(意欲合致)

次に獲得したい反応は〈意欲〉で、相手との「マッチングポイント」を設計するフェーズです。

こちらからのコミュニケーションに、相手が無意識にでも自分の原体験を照らし合わせ、「なんか気になる(この情報、わたしとのマッチングが高いかも…)」と、“自分事”の情報処理をしてもらう必要があります。

この「Motivation」のフェーズで、ターゲットの顕在化された、或いは無意識で言語化されていないアンテナに引っかかるための〈興味・関心・意欲のマッチングポイント〉を発見し「Awareness」のプランニングで適切に届ける、といったことが必要なのですが、

この「Motivation」のプランニングがカバーする範囲は、マーケティングの原点的な洗い出し作業を含めて、かなり広いと言えます。

例えば〈マッチング要素の発掘〉のため、改めてターゲットの問題意識やインサイトを捉えた商材の機能やコアバリュー、利用シーン、共感するメッセージを精査することに始まり。

ターゲットが興味・関心を向けているカルチャーやトレンドは、その文脈で商材がマッチングする要素がないかの検証なんかも。

はたまた、より瞬発的な意欲も喚起するため、シズルワード(最新、安い、うまい、最速、限定、特別等)の使い方検証など。

これらの作業を通じて抽出される、ターゲットの「Motivation」を高める、様々な〈合致要素やキーワード〉は、広告キャンペーンの切り口・コンセプトの原型となったり、各種コピー開発他、広告クリエイティブ作業に繋がったり、SEO ・SEM ・SNS広告で興味・関連キーワードの設定に活用したりと、アウトプットは多岐に渡ります。

この「Motivation」設計は、ターゲットの〈自発的動機〉のプランニングにも言い換えられるのですが、他方で、こちらの投げかけるコミュニケーションに対して主体(主観)的な自己評価のみで、消費・購買といったアクションを起こしてくれる生活者は、多くありません。

そこで、

Endorsment(安心保証)


ここで獲得したい反応は〈安心〉で、信頼や保証をもたらすお墨付き(
オピニオン)を設計するフェーズです。

「Motivation」が自発的動機のプランニングであるのに対して、「Endorsment」は外発的動機のプランニングといえます。

ターゲットから「どうも、この情報は、わたしが一定の信憑性を感じる“あの人”も良いと言ってるし、間違いなさそう(失敗しなそう)」といった、“他者評価・他社体験”からくる安心・信頼を感じてもらうための、コミュニケーションプランニングが必要です。

また、この「安心感」や「信頼感」の置き所は、ターゲットによってばらつきもあるため、それを踏まえることも大切です。

電通メディアイノベーションラボの〈10代から60代までの世代別「利用メディア」の調査〉によれば、10代がもっとも利用するメディアは「SNS・ブログ」で、さらにその内訳を見ると「友人・知人のSNS投稿やブログ」「有名人のSNS投稿やブログ」への依存が高く、もっとも影響を及ぼすメディアとレポートされています。

このように、SNS等を通じたソーシャルグラフ・インタレストグラフ上で、フォローしているインフルエンサーや友人、または専門メディアのレビューから、情報の確かさ・安心感をキャッチする人もいれば、

はたまた、不特定多数の「世の中」や「世間」といった、マス単位の流行や現象感など、より抽象度の高い「みんなの話題」であることに、集団心理的な安心感や、気になるアンテナが働く人もいるでしょう。

この「Endorsment」は、評価経済・信用経済社会のマーケティング・コミュニケーションでは、特に重視・注目される領域ですが、一歩設計を間違えると「アナ雪2のステマ騒ぎ」のような、炎上・ブランド毀損に、容易に繋がります。ここでのプランニングは、常に「透明性」とセットが基本です。

そして情報に対して興味や意欲の合致と、他者評価や客観的な裏付けを得て、ようやく消費生活者は、

Experience(経験価値)

に至ります。

獲得したい反応は〈感動〉で、「経験価値」を設計するフェーズです。

その体験は、消費生活者の「欲求」を満すものとなっているのか。消費生活者はどんな文脈で、どのような経験をし、どのようなパターンの「感動」を獲得するのか。

貨幣経済的な価値観が薄まった現在、モノより思い出の「コト消費」経済が提唱されて久しいですが、いかに体験として自然で、優れていて、感動できるかの設計が、このフェーズでは重要視されます。

以前このnoteでは、シュミット提唱の「経験価値マーケティング」の延長にある「感動のSTAR分析」(著:前野隆司)について、備忘録をしました。

STAR(スター)分析は、消費者との間に、どのような感動獲得傾向や感動獲得チャンスがあるのかを推定・整理活用するのに、有用なフレームワークです。

感動を構成する経験事象は、大きく「SENCE」「THINK」「ACT」「RELATE」の4つに分類されます。

★感動のSTAR(スター)分析
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1.SENCE
=五感の拡張に由来する感動

【感動を獲得する対象】
美、音、味、
匂い、触り心地、心地よさ
(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚等の刺激)

【形容される表現】
きれい、おいしい、気持ちいい
いい匂い、すっきり、さっぱり

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2.THINK
=知見の拡張に由来する、感動

【感動を獲得する対象】
理解、納得、
発見、圧倒、啓蒙

【形容される表現】
わかった、そうなんだ、なるほど、知らなかった
ふむふむ、すごい、へぇー、めずらしい、おもしろい

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3.ACT
=体験(経験)の拡張に由来する、感動

【感動獲得の対象】
努力、上達、進歩、達成、勝利
特別-優待感、遭遇、幸運、
期待、緊張(緊張と緩和)

【形容される表現】
できた、やった、よっしゃ、よかった、すごい
ドキドキ、ハラハラ、ワクワク
おかしいw、ウケるw、なんでw、んなアホなw

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4.RELATE
=「関係性の拡張に由来する、感動」

【感動獲得の対象】
愛、絆、繋がり、優しさ、愛着、
共感、一体感、感謝、承認、尊敬

【形容される表現】
好き、ありがとう、どういたしまして、
私も、うんうん、だよね、えっへん、どや、
良かったね、おめでとう
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商材やブランドが提供する「Experience」が、消費生活者のどんな「欲求」に応え、どんな「感動」獲得をもたらすのか。STAR分析のフレームワークを用いて、点検が可能です。

もし、今ひとつ「欲求」を十分に満たせていないのであれば、その体験は、まだまだフォローアップ(施策でカバー)する余地があるということです。

その「感動」を、どう最大化させられるか、深層心理に深く刻んでもらうには何をすべきか、というコミュニケーションプランニングが必要です。そして特筆すべきは、感動獲得パターンの「4.RELATE」の重要性です。

欲求が満たされ、体験が極まると、消費生活者は「商材と自分の一体感=この企業やブランドは自分をわかってくれてる」という、関係性の拡張に由来する感動を覚えます。

そしてそれは、

Share(共有内面化)

へと、繋がります。

ここで獲得したいターゲットの反応は〈共有伝播〉で、そのための意欲・環境を設計するフェーズです。

基本的には、体験・経験・感動を通じて高まった、ターゲットの「誰かに伝えたい」という、新たな”伝播欲求”にきちんと出口をつくり、それに応えるプランニングが必要となります。

「Experience」のフェーズで、経験価値を高めたターゲットは、その商品やブランドを「自分ごと」に思い、それを誰かに伝えたいと、SNSやブログへ感動・体験を綴ります。

そして、このアウトプットを通じて、より一層「自分ごと化」は進み、さらには商品やブランドの「ファン化・内面化」が進められます。

体験後の”伝播欲求”に出口をつくるという点では、ベタではありますが、様々な「インスタ映えフォトスポット」や「感想投稿キャンペーン」等は有効ですし、SNSへの投稿に、商品やブランド側からリツイートやいいね!等でリアクションし、”伝播欲求”に応えてあげること等も大切です。

また、これは実際に消費生活者の心が動き、内発的なモチベーションで「Share」が行われるパターンですが、

たとえば「Experience」のフェーズでの体験・経験が、あまり芯を食わず、結果「雰囲気消費」になったたとしても「こんなトレンドに乗っかってきたよ」といった格好で、とりあえず「Share」ができれば評価経済的な文脈においては、他者評価の獲得や、承認欲求を満たすことに繋がります。

したがって「Share」の意欲や環境を整備することは、商品やブランドの長期的な資産づくりという視点でも、短期的な口コミ獲得という意味においても重要と言え、評価経済以降の商品・ブランドは、シェア・フレンドリーであることが求められると言えます。

・Awareness  (遭遇認知)
・Motivation   (意欲合致)
・Endorsment(安心保証)
・Experience  (経験価値)
・Share     (共有内面化)

以上が「評価・信用経済社会」(以降)のコミュニケーション・プランニングを補助するフレームワーク、「AMEES(エイミーズ)」の紹介でした。

おまけ → Trust(信頼運用

最後に少し余談です。

もし「AMEES」がうまく機能すれば、ブランドや商品は、消費生活者から「こいつは信じられるぞ」と、信頼・安心・実績を獲得し、その後はSNSのフォローや、ファンコミュニティの一員化、有料会員化といった、新たな信頼関係の構築・運用が始まります。

そこで「AMEES」は、「T」という尻尾がくっつくと思ってます。

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「T」とは、「Trust」=信頼運用という概念です。

・Awareness  (遭遇認知)
・Motivation   (意欲合致)
・Endorsment(安心保証)
・Experience  (経験価値)
・Share     (共有内面化)
---------------------------
・Trust            (信頼運用)

ブランドや商品の側は「特別・優待感」といった顧客ケアや継続的コミュニケーションで、消費生活者側からの評価を積み立てていく、信頼運用フェーズへと移行します。 

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以「Experience」→「Share」→「Trust」を繰り返し、より一層関係性を深めていきながら、信頼・ブランドという名の資産を運用しつつ、ファン化・共犯関係化を、信用経済社会を背景に進めていくイメージです。

以上、長文乱文となってしまいましたが、今回はコミュニケーション設計モデル「AMEES(エイミーズ)」についてでした。

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