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#幻想小説

桜の頃

桜の頃

 はらはら散る桜の花びら。私の意識は朦朧としている。現世か幻かわからない。もう私の命は風前の灯。この時期で良かった。かの人に一目会ってこの世を去りたいもの。何もなさず、何も残さなかった私の唯一の執着。

 かの人に会ったのは、物心ついた頃だった。私の家には桜の木があった。私は、その下で桜の花びらを集めていた。桜の毛氈。花びらは柔らかく、淡雪のよう。夢中になって拾っていた。さあっと吹く風。舞い上がる

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