昨年のひとり旅を振り返るー24冬
1年かけてうちの大学にある全診療科をまわる実習がようやく終わった。わたしは20:00からベッドの上で本を読んでいた。今夜は学校近くの飲み屋街でいろんな班が打ち上げをしていたが、われわれは既に火曜日の時点で打ち上げていたため、わたしは静かな夜をすごしていた。
手に取った本は、夏ごろ購入したもののまだ一文字も読んでいなかった『六月のぶりぶりぎっちょう』。変なタイトルだとお思いだろうが、わたしはこの作者である万城目学さんの作品が高校生のときからだいすきだ。
おもえば、昨年の12月も万城目さんの本を読んでいた。そのときは『八月の御所グラウンド』で、今回読んだ『六月のぶりぶりぎっちょう』の前作である。
それは、万城目さんの本に出てくる関西の場所を一気にめぐるという、一週間の一人旅を敢行するための予習だった。日程を決めたのは、いま住んでいるところに12月の真ん中にいなければいけなかったからだ。昨年は冬休みに入るのが早かったが、部活の追い出しコンパの日程の関係で、すぐに実家に帰省するわけにいかなかった。それでも、追いコンまで暇な日が10日近くあり、アルバイトをしていなかったわたしは「10日も予定なく過ごせるわけがない」と思い、旅に出てみようと思い立った。せっかく一週間も出かけるのでテーマが欲しかったのだけれど、そこで思いついたのは「万城目さんのお話に出てくる場所めぐり」。そして、なぜ一人旅なのかと言えば、この気持ちをわかってくれるひとを見つけるのが大変だとおもったからだ。
前述の通りわたしは万城目ファンで、特別すきな作品も、実はそんなにすきじゃない作品もあるんだけど、比較的本はお家にそろえている。高校生の時から繰り返し読んだものもたくさんあって、かなり細かく覚えている作品もある。こういう話ができるのは、正直母くらいで、ただ母はわたしの地元でお仕事をしているので、わたしとおなじ熱量で語れるひとは身近にいないだろうとおもったのだ。だから、一人旅を選んだ。そのほうが、思いっきりまわれるに違いないという確信があった。
一人旅に出る直前で読んでいたのが『八月の御所グラウンド』。これは確か昨年に発刊されたもので、今回同様手に入れたものの全然読めていなかったのだけど、「万城目めぐり」をするなら読んでおかなきゃ!とおもって、出発前日の夜、必死に読んだ。
一人旅は昨年の12月15日から12月21日までのまる一週間。実はその後、今年の1月17日に万城目さんは直木賞を受賞することになる。でも、『八月の御所グラウンド』を読んでいたわたしは、そんなことを想像もしていなかった。
旅程を決めたのがいつだったかは正直もう記憶にないが、七日間をどのように満喫するかが自分にゆだねられているのがたまらなく心地よく、すこしプレッシャーでもありながら、好き勝手予定を決められる権利を手に入れて、すこし大人になった気がした。
ああそうだ、「青春18きっぷ」を使おうとしていたんだった。今年からルールが変わったようで、有識者からはいろんな意見が出ているようだが、そのころは5日分を一人で分けてもいいし、1日で5人使ってもよかった。連続しない5日でもよかった。これをうまく活用して、遠くまで行ってみようと思ったのだった。
旅の最大の目標は城崎温泉に行くことだった。なぜなら、『城崎裁判』という本を手に入れたかったのだ。城崎温泉でしか買えない万城目さんの本があるらしいという情報をどこからか手に入れ、それは絶対、無くなる前に買いに行かねばという思いがあった。
志賀直哉の『城の崎にて』を読んだのはおそらく高校生の国語の授業で、内容はほとんど忘れてしまった。一人旅を終え、追いコンも無事に出席して、実家に帰省した際に高校の時の国語の教科書が残っていないか母に訊いたが、さすがにもう残っていなかった。家の近所の図書館に行こうにも、世の中はもう年末年始で開いておらず、そのままなあなあになって、今日まで来ている。よくないね。今年こそ、年末年始よりも随分早めに帰省するので、『城の崎にて』を探してみようかしら。
とにかく、わたしはその『城崎裁判』なる万城目さんの創作物を手に入れるために、それだけを目標にすべての旅程を組んだ。
旅のスタートは神戸空港。旅行を決めた時点でとれるチケットのうち、安くてどこに行くにも便利そうだったので選ばれたのが神戸だった。
そこから、関西全体をみわたす地図を印刷し、各都道府県に散らばった「万城目めぐり」の場所を書き込んでいった。当時、2023年ながらわたしはまだグーグルマップのピン止め機能に出会っておらず、こんなにもアナログなやり方で位置関係を把握していたけれど、グーグルマップに出会っていればもうすこし時間短縮につながったかとおもう。それは反省点。
場所は、兵庫、京都、大阪、奈良の2府2県にわたっていた。たぶん。わたしが調べられる限りの場所すらこんなにも広範囲を行かなきゃいけないのかと、最初はどきどきしたが、めぐりかたを考えれば無理じゃないし、大丈夫だと自分に言い聞かせて、乗る電車と行く場所を細かく決め始めた。
一度だけインターネットに、わたしと同じようなことをしている人がいないか検索してみたけれど、万城目ファンに「聖地巡り」系はあまりいないらしく、もしくはネットに書くような人はいないらしく、全然参考にできるひとはいなかった。すべて、ほんとうに自力で考えなければならなかった。
それでも、府県をめぐる順番さえ決めればホテルを取ることは比較的容易なので、あとは細かいところをつめていくだけだった。
12月14日、わたしは「万城目めぐり」を控え、ただし最後まで残していた『八月の御所グラウンド』を読んで、そこに出てくる場所をあわてて旅程表に書き加えて、一人暮らしの家の床に就いた。
実習最後のまとめの際、担当してくれたK先生はおもしろかったモンゴルでの学会の話をしてくれた。いま万城目さんのツイッターを覗いたら、数日前にモンゴルの何かについてつぶやいていた。覗いただけなので、それがプラスなのかマイナスなのか、内容はよくわかってないけど、なぜかモンゴルにも少しだけ縁を感じる。いつか、行ってみたいね。
すこしだけ振り返るつもりが、一年前の記憶を遡ろうとするとたくさんの思い出がよみがえってくる。わたしの頭も、まだ捨てたもんじゃない。眠くなったので、いったん休憩。明日から冬休みになるので、ひとり旅をふりかえるnoteをいくつか載せて、今年(一人旅は去年の話だけどね)を締めくくろうかしら。