雨の夢
今週はその姿をまるで見せない太陽。
雨がなくとも、空はグレーでどことなく濡れた空気が肌にまとわりつく。
仕事中にふと外に目をやると黒く染まるアスファルトで雨を知る。
今日は少し残業になり、電車の接続の兼ね合いもあり一人残っていた。
乗ろうとしていたバスの時間が迫り、帰ろうとした時に取引先から電話があり、書類の不備があったので今日中に来るようにとのことだった。
場所が場所だったので、社用車を使って出かけることにした。
雨に気づいた頃よりも断続的に激しくなっていた雨の中、車を走らせた。
オレンジの街灯とトンネルを潜り抜ける途中で思い出すあのシーン。
ナラタージュでもこの配色のシーンがあったな、と。
詳しくは書かないようにするが、タクシーの窓から破られた手紙が風に舞っていく時の風景、主人公・泉が恩師・葉山の元へ「あなたに呼ばれたような気がして」と駆けていくシーン、映画館のシーンもそうだったかもしれないと。
そして徐に思い出す、この映画を見たときの記憶。
この映画を見たのは、当時付き合っていた頃の彼氏ではなく、なぜか私のことを気に入ってくれていた一つ上の他学科の男の子とだった。
二人で度々食事に行ったり、出掛けたことがあった。
その際にこの映画を見ようということになった。
鑑賞中、手を重ねていた気がするけどそれは一線を越してしまうことを子供でも大人でもなかった私でもなんとなく悟っていたからそんなことはしなかったような気もする。もう、忘れてしまったけど。
この作品のキャッチコピーが
「あなたは1番好きだった人を思い出す」だった。
二人で同じ作品を見ていたはずなのに、私の中は『私の一番好きだった人って誰だろう』ということで頭がいっぱいだった。
幼稚園の時の初恋だった幼なじみのお兄ちゃんでもなく、ほんの少しの期間だけ付き合った彼氏でもなく、結構長い期間好きだったあの人でもない・・・
その時、当時付き合っていた彼氏もその「一番好き」かと問われればそうでもないことに気付いてしまったのだ。
キャッチコピーひとつで自分の残酷さに気付かされた。
結局いつもこれ以上の思い出なんて、これ以上の恋なんてと思ったところで私はすぐ違う ”かっこいい”とか ”いいかも”とか ”好きになってくれないかな”と思ってしまう。
好意を向けられていることに気づくと嫌になってしまうくせに。
そしてこの映画でもうひとつ印象的なのが「雨」
冒頭で主人公・泉の「雨が降るたびにあなたを思い出す」という台詞。
この台詞が印象づけるように物語が大きく動くのは雨が降っているシーン、もしくは水が使われているシーン。
雨は何か人を狂わせるというか動かす力があるのだろうか。私はこの映画を見て「雨って人を惑わせるな」と感じた。
そんなことを思い出しているうちに到着した取引先。
用事はすぐに済むと見越して、道脇に車を停めた。
雨を凌ぐ屋根もなく、受付まで走った。
受付から書類提出する場所へはまた外を通らなければならず、案内してくれた男性職員の後を下を向き、雨を避けながらついていく。彼は私の前を歩きながら「雨すごいなあ」と呟いていた。
書類を提出し、また男性職員の後をついて受付まで戻ろうとするとさらに激しくなる雨。
「雨、すごいですね。もう梅雨かと思うくらいです。苦手な季節だなあ」と今度は私に言葉を向けてくれた。
『もう西日本の方では梅雨入りですよね、湿気もすごくて私も苦手です。』と返した。
受付に戻り、ペンを返した時に差し出した手を男性職員が私の手ごと包み込んだ。
私も彼も気づかない振りをした。
久々に男性と話したり、事故とはいえ、手を包み込まれたことで私の気持ちは少し舞い上がってしまっていた。
だけど、会社に戻り、やっと帰路に着く頃には彼の顔もすっかり思い出せなくなってしまっていた。
やはり、雨というイレギュラーなシチュエーションに惑わされていたのかもしれない。
あれは雨が見せてくれた夢だったのかもしれない。
(Photo by debupinoko、Thanks!)
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