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おぼえてるよ

それは着任して2か月か、3か月経った時のことだ。専門学校の司書になったはいいものの、右も左もわからず、在校生から図書館のルールを聞いて「は~」と納得し、アルバイトの子に配架や装備を教えてもらうような日々だった。

入学したてのやんちゃ男子たちがいて、グループで来たら、わーわー騒いで先生の悪口を言ったり、アルバイトの面接を飛んだ(飛ぶな)など、まぁたわいのない話をしては、本も借りずに帰っていくが、週に2~3回は来ていたように思う。

その中の一人が、いつもはグループで来るのに、時折一人で来ることがあった。理由は「寝坊した」だの、「授業の時間を間違えた」だの色々だったが、遅刻して途中から授業を受けるのも、完全スキップして友達に授業範囲を聞くのも、自己判断だと思い特に叱らず放っておいた。

そんな事が数回繰り返されたある日、帰り際に
「先生、俺が卒業するまで辞めんといてな」
と言って去っていった。
着任したばかりだし、辞めたいなんて話もしていないけれど、その後色々あった時に支えになったのがその言葉だった。

沢山の卒業生を見送って、その後もたまに似たような事を言ってくれる男子がいる。本人は言ったことさえ覚えていないかもしれないけれど、私は覚えてるよ。そうやって今日も図書室のドアを開ける。

#やさしさを感じた言葉 #司書 #本

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