定義から読み解くワークモチベーション向上の方法
最近、お仕事関係でワークモチベーションに関してお話する機会を頂いたので、再勉強。備忘録的に要点だけまとめ。
※勉強した結果のメモなので、持論を含みます。もしかすると思い違いなどを含む可能性もあります。
1.ワークモチベーションの定義
Kanferによる1990年の記事1)やMitchellの1997年の論文2)によれば、ワークモチベーションは「目標に向けて行動を方向づけ,活性化し,そして維持する心理的プロセス」と定義され、方向性(目的や方法の明確さ)、強度(その行動に対する努力・意識の高さ)、持続性(その行動にかける時間)という要素を持っているとされている。
この定義はワークモチベーションに関する理論を踏まえてなされたもので、おそらくはこの記事を書いている現在も古すぎるということはないはず。
※以下、文中でモチベーションと書いたものはワークモチベーションを指す。
2.定義や要素からわかること
①ワークモチベーションはプロセス。
日常の中ではモチベーションがあたかも行動を引き起こすためのエネルギーのように捉えられている節があるが、これは誤解と思われる。
モチベーションという形のないエネルギーがどこかにあって、それがある人は積極的に行動ができて、それが足りないとだらだらしてしまうという認識は、間違い。
つまりこういうこと↓
✕ モチベーション→行動
〇 (方向性→)行動(×強度×持続性)→行動の強化・持続
※()部分がモチベーションというプロセス
この時行動に費やされる努力や時間(強度・持続性)、行動目的など(方向性)が充実している状態を「モチベーションが高い」と表現する。
※もしかすると高い・低いという表現も誤用かもしれない。プロセス(過程)であることを踏まえると、「あるorない」、「充実or空疎」とか「しっかりしているorしていない」とかの表現が適切かも。
そもそも心理学分野では行動を誘発するエネルギーの存在は明示されていないように思われる。つまり何が言いたいかというと、行動を始めるために何らかのエネルギーが必要と考えること自体が間違いではないか、ということ。
これに関しては2008年に、東京大学大学院薬学系研究科教授で脳科学分野でも活躍されている池谷裕二さんがベネッセの記事で「やる気は脳ではなく体や環境から生まれる」とおっしゃっていたのが印象的。
ということで、そんな都合の良いエネルギーなんて存在しないと仮定する。
3.モチベーションを向上させるには
再び先ほどの概要を確認(重要なので)。
(方向性→)行動(×強度×持続性)→行動の強化・持続
※()部分がモチベーションというプロセス
モチベーションの向上とは、つまり方向性、強度、持続性の強化を指す。
強度は努力と意識の高さであり、持続性は投入した時間なので、能力を高める努力と時間の投入はモチベーション向上に必須の要素ということになる。
では方向性はどうやったら強化されるのかというと、これは同じく心理学分野のDeciとRyanの「自己決定理論」3)やVroom、Porter、Lawlerの「期待理論」がヒントになりそう。
難しい部分はすべて割愛してこれらから得られる要点だけをまとめると、
・動機付けが強いほうがモチベーションが充実する
・動機付けには5段階のレベルがあり、行動を通じてレベルアップする。
・最も高い動機付けレベルとは、「やりたい」という気持ちが自分の内側から湧き上がってくる状態、つまり行動目的が自分の内側にある状態。
・レベルアップのポイントは3つ。→①自律性(自分で考え、行動する習慣)、②能力、③関係性(人間関係における欲求。承認欲求や親和欲求など)
・自律性が高くなるほど動機付けのレベルがあがり、能力や関係性の要素がうまく機能すると行動目的が自分の内側にある状態(=最高レベルの動機付け状態)になる。
つまり、(動機付けの低い段階でも)行動する→自律性、能力、関係性が高まる→行動目的が外から内に変化する。という順に変化が起こる。
具体的な事例はこんな感じ。↓
事例
・最初は上司命令で仕方なく書類作成をしていた(レベルの低い動機付け)
・しかし、何度もやるうちにコツをつかんで上達を実感した(能力UP)
・時々作成した書類を他の人に褒められるようになった(関係性UP)
・最初は言われるがままにやっていたが、自由にアレンジする許可をもらったので自分で考えてレイアウトなど工夫するようになった。(自律性UP)
さて、ここで最初に持ち出したモチベーションの要素に立ち返る。
(方向性→)行動(×強度×持続性)→行動の強化・持続
方向性とは「なぜ(意義)」「なんのために(目的)」「どのように(方法)」行うかということの明確さを指している。
では自律性、能力、関係性の3つと方向性、強度、持続性の3つがどういう関係になっているかというと・・・
能力が高くなると方法に詳しくなり、スキルも上達するので達成難易度が下がる。関係性の欲求が満たされると行動に対する意識が高まり、意義や目的感についてもよりよく考え、努力するようになる。またそこに投入される時間も長くなる。最初は嫌々ながらの行動でも、やっているうちに自律性が強化される。自律性が高まると行動にバリエーションや工夫がうまれ、能力向上や関係性の向上が促進されると共に、自ら考える姿勢を通じて方向性が強化される。
先ほどの事例でも、やがて自律性が向上してくると、自分が作成を任されている書類の意義や目的を意識するようになってくることが予測される。
文字では分かりにくいので図にしてみた。
というわけで、結論。
モチベーション向上のためには、
1.(低い動機付けレベルでもよいので)まず行動する。或いは、やらざるを得ない状況や環境を作る。
2.承認欲求や親和欲求を満たしてくれる人達と仲良くなる。また、そういう人達のために自分ができることを探す。
3.そこに時間を投入して能力を磨く努力をする。
これらは心理学分野の研究成果として導き出される答えではあるが、奇しくも冒頭近くで紹介した、脳科学から導き出された答え「やる気は脳ではなく体や環境から生まれる(池谷教授)」と一致しているところが面白い。
これ実は、子育てや部下の育成にも関連する話なので、この記事に反響があれば別記事を作成しようと思う。
おまけのあとがき
さて、これで記事は終わりです。
この記事を読めたなら、きっと大丈夫。
まずは心を無にして行動しよう。
嫌々でも問題なし。続けていたら、きっと褒めてくれる人は現れるはず!
行動に二の足を踏んでいる人達の第一歩を、私は応援しています。
参考資料(一部)
1)Motivation Theory and Industrial and Organizational Psychology
In book: Handbook of industrial and organizational psychology (Vol. 1) (pp.75-170)
2)Matching motivational strategies with organizational contexts
RESEARCH IN ORGANIZATIONAL BEHAVIOR, VOL 19, 1997 19: 57-149
3)Self-determination theory: Basic psychological needs in motivation, development, and wellness. Guilford Publications, 2017.
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