国会議員の秘書13(地元・政治資金収支報告書)
私が野中広務秘書としての位置付けをとるために、1年目に元秘書だった方から教えてもらった「政治資金収支報告書を作成出来るようになると秘書を辞めさせられることはないよ。お金の流れを知ることによって、それが武器になるから。」という話を聞いて進んで「誰も事務所で京都府の選挙管理委員会に提出する政治資金収支報告書をされてないと思いますので私に作成させてください。」と野中先生にお願いして作成した政治資金収支報告書が、毎年、11月末に京都府の公報で公開される。
とうとう初めてその日がきた。野中広務先生の政治団体は、この時4団体が京都府に、全国団体として登録されていた。その4団体の政治資金収支報告書を私が全て作成した。
現在、派閥のパーティーでの不記載で問題になっている現行の政治資金規正法よりも、この頃の政治資金規正法は、もっと透明度は緩かった。現行の規正法では、企業や団体の寄附については、政党しか受けられないし、企業・団体名を公表せずに資金面で協力してもらうには、パーティーを利用して1パーティーにつき1企業20万までの支出であれば、法人や団体名を記載せずに済むのであるが、新人議員などは個人でパーティーを開催してもなかなかパーティー券を買ってもらって政治資金を集めるのは、非常に厳しいものがある。派閥のパーティー券も当選回数の少ない議員は、割り当てられるノルマを消化するのに精一杯で幹部になるほどノルマは増えるが、企業や団体にお願いすると役職につかれている幹部ほど優先して買ってもらえる傾向がある。若手の議員の事務所は、結構苦戦してパーティー券を売っているのが現状ではないだろうか。
話は、それてしまったが、この年の京都府公報が出て少したった時に、野中先生が東京から京都事務所に戻ってきて部屋に入るといきなり私が呼ばれた。「君な!何故寄附を収支報告書にあれだけ載せたんや。府会の本会議で共産党にやられているやないか。これを見てみろ!」と激怒というより、呆れた感じで『京都民報』という共産党系の新聞を目の前に差し出された。一面のトップに野中先生の歪んだ顔の写真と私が作成した収支報告書についてネガティブな記事が書かれていた。私は、この時収支報告書に企業からの100万円以下の寄附を正直に書き込んでいたのである。その寄附の日付とその企業が公共事業を落札した時期が近いという内容の記事であった。これを府議会の本会議で共産党の議員が質問をして記事になっていた。
私は、作成した時は、そんなことも知らずに、100万円以下の寄附でも「寄附として領収書を出しているものについて収支報告書を作成するので教えてほしい」と経理を担当している秘書に伝えて、寄附をもらった企業と金額と領収書の日付をメモでもらい、収支報告書が出来上がった時には、一番上の上司にも「これを提出して良いか」と見せて確認して提出したはずなのに、呆れられている意味がその時はわからなかった。自分の中では「透明で正直に掲載しているので、野中事務所は真面目だ。」と見る方からは思われるんじゃないかと初めて作成したものにしてはうまく出来ていて満足な収支報告書であったが、他の議員の事務所からすると全くの素人が作成した収支報告書だったようである。また、火に油を注ぐように、弁護士も兼ねている府議会議員から野中先生に「全く初歩的なミスをしてますな。」と言われたので野中先生もこの言葉が留めになって怒りを通り越して呆れられたようだった。この頃にしては、透明で画期的な収支報告書だったと我ながら思う。
「政治資金収支報告書を作成出来るようになると秘書を辞めさせられることはない。」ということよりもプロから見ると大失敗の収支報告書だったので本来なら秘書をクビにされてもおかしくないものだが、やはり野中先生は、懐が深く「次から気をつけてくれよ。」という言葉で収めてもらい私に再度チャンスを与えてもらった。それからは、政治資金収支報告書の作成では、ミスをすることなく出来るようになった。あの頃の自分の未熟さに今でも恥ずかしい思いである。
因みに、野中先生は、私が秘書になってから先生が引退するまで政治資金集めのパーティーをされたことはなかった。野中広務というと金権政治家のように見えるが、この頃にしては、事務所は決して潤沢という感じではなかったが、有り難いことに、地元企業を中心に毎月後援会費を納めてもらうところが数百社あり、そのお金で事務所の経費が賄われていた。私から見た野中広務という人物は、お金に綺麗で、お金の切り方もカッコ良く、そのような場面を身近で見て「先生のようになりたい」とそういうところも野中広務に憧れたごく一部である。この時の温情のおかげで毎年政治資金収支報告書を作成させてもらい野中広務の秘書としての位置付けの一つが確立されたことと他の事務所が作成している収支報告書の見方が出来るようになったことに感謝している。私は、無事秘書を務めることが出来たのもこのような業務をさせていただいて政治資金規正法を学ばせていただき政治資金収支報告書を作成する機会をいただけたということに感謝している。
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