
月明かり
深まりゆく夕暮れ。
小学校の一年生の教室。
今日の日直は黒板を拭かずに帰宅したようだ。明日、先生に叱られるぞ。
黒板には、綺麗な数字が1から10まできちんと並んでいる。さすが、一年生の先生だ。美しい数字。
そこに現れたのは、ご存知、人骨の模型。保健室とか理科準備室に一人ぼっちで立っている骨格標本。
人骨模型は、迷いもせずに教室に入ると、窓際の一番前の席に当たり前のように着席した。
動く度に骨がカタカタ音を発したが、勿論誰もその音を聞く者はいない。
淡い月明かりに照らされて人骨模型は、机の中から算数の教科書を取り出した。
この席の子の忘れ物?
そして、1ページ目から順に丁寧に丁寧に一枚ずつページをめくっていった。
考えてみると、人骨模型には教科書を見る目も無いし、考える脳もあるわけでもない。人骨模型の行動は理解を超える。
最後のページまでめくり終えると、人骨模型は教科書を元に戻した。
しばらくの間、優しい月明かりに顔を向ける。一度だけ骨の触れ合う小さな音がした。
美しい夜、人骨模型は何を思うのか。
立ち上がり、黒板の前に進み、書かれた数字を前に佇む。静かに時の流れが揺れる。
もう一度、骨の音がする。
それが合図のように、人骨模型は歩きだす。カタカタと音をたてながら。
居るべき場所に戻っていった。
黒板の数字だけが知っている、誰も知らない出来事だった。
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