亡き鬼上司の遺言
『貴方は仕事が楽しくできていますか?』
このような質問にYESと答えられる方が、どのくらいいるのでしょうか?
好きな仕事を見つけて充実している方もいらっしゃることでしょう。
しかし、多くの方々は
「仕事が楽しいわけではないけど、生活のために働いている」
という方が大半を占めている現状ではないかと思われます。
確かに、働くということは、制約だらけの中で自分を押し殺さなければいけないことが多々あります。
苦手なことにも向き合っていかなければいけません。
しかも、それに加えて人間関係の複雑さも絡み合ってくるのだから、苦労は当然のように伴います。
A社で勤めた32年間
かくゆう私も、高校卒業後に就職した会社(以降、A社と表記します)では、苦労した事が多々ありました。
決して得意分野ではない仕事に伴い、一方的で支配的な上司、自己主張の強い同僚、非常に段取りの悪い環境などに悩まされる日々だったのです。
仕事を辞めて自由になりたいと何度思ったことでしょうか。
『生きていくために、こんなに苦しい思いをしてまで仕事をしなければならないのなら、早死にしてもいいから自由に生きたい』
と極論を考えたこともあるほどです。
もちろん、働くことが欠点ばかりと言うわけでもありませんでした。
新しい知識を身に付けたとき、努力が認められたときは、ささやかながら喜びもあったのです。
中にはフォローしてくださる優しい方も数人はいました。
指導を務めた方の中で感謝の気持ちを伝えてくださる方もいました。
長く勤めたお陰で貯金もそれなりに確保出来ました。
A社では32年という長い年月を勤めあげたのですが、このような良かった面も救いになっていたと思います
永年勤続が出来た一番の理由は、生活のためにこらえてきたこと、新しい変化に飛び込む勇気がなかったこともあります。
生きていくために仕方なくここで働いている、という気持ちが大半を占めていたのです。
こだわりの強い鬼上司
そのような年月の中で、鬼上司と呼ばれて恐れられていたKさんという方がいらっしゃいました。
とにかく仕事に厳しく、細かいことを口うるさく突っ込んでくるような上司でした。言い換えれば、仕事熱心で拘りの強い頑固な職人気質ということでしょうか。
自分では及第点と思っているようなことを、
「これは詰めが甘いのではないか。きちんと考えて仕事しているとは思えないよ」
などと重箱の隅をつつくような方でした。
妥協を許さず、とにかく否定から入るような方だったので、辟易している人が多かったのです。
私から見て、最も嫌だった面は、せっかちなところがあり、初心者に対しても説明の仕方が速すぎて内容が頭に入りにくいことでした。
しかも、聞き返そうものなら、露骨に苛立ちを態度に出します。
そのようなことは良くあることですが、Kさんは甘えるということを他人にも自分にも許さない方だったのです。
「むやみに頼らず自分で考えなさい。そうでなければ、きちんと学習することなど出来ない。それが出来なければ仕事なんて出来ないんだ」
と言うような考えの方でした。
確かにそれは一理あるとは思います。
しかし、私としては、右も左も判断できない初心者が入りやすいように、丁寧に説明して指導することも大切な仕事であるとも思うのです。
ただし、受け身的で甘えている人や、他人の言うことを聞かず、自己流で突っ走る人は困り者ですけどね。
鬼上司の忘れられない言葉
そんな上司でしたが、仕事以外ではユニークな部分も持ちあわせており、飲み会などでは楽しく話せる一面もありました。
ONとOFFの切り替えがしっかりしており、飴と鞭の使い分けが上手に出来る方だったのだと思います。
Kさんのお話された中で、今でもふと思い出す言葉があります。
『仕事は楽しくやろう。楽しくなくなったら仕事は終わりなんだ』
と言う台詞です。
『仕事は誰だって楽しくやりたい。しかし、仕事は自分だけの問題ではないのだから苦労ばかりが伴う。そんな簡単に理想通りに出来るわけがないじゃないか』
と、そのときの私はそう思いました。
しかし、反論している気持ちの裏側で、どこか心に染み入る部分もあったのです。
楽しく仕事をしたいと思う気持ち、何よりも常に強く望んでいたことであり、ほとんどの方がそのような理想を持っているはずです。
モチベーションが上がらない心境と言うのは憂鬱さを増し、砂を噛むような味気なさで息苦しさを感じます。
おまけに面倒な人間関係がついてくれば、なおさら仕事の楽しさなどほど遠くなります。
Kさんのおっしゃられた通り、仕事が楽しく出来るということは大切なことだと今は痛感しています。
挫折を乗り越えて
長く勤めた初めの会社では良好な時期と最悪な時期のメリハリがあったせいもあり、継続することが出来たのかもしれません。
しかし、2番目に入社したB社は、わずか1ヶ月で挫折してしまいました。
理由は乗り越えるのが困難な人間関係や職場の風潮に疑問を感じたことです。
とにかく肌感覚が違いすぎる、自分を必要以上に殺さなくてはならないので、いつか心身病んでしまうのではないかと不安が膨れ上がっていく。それだけではなく、危険な場所で作業をしなければならないため、怪我をするリスクも大きい環境でした。
反射神経の鈍い私には難しいと判断したのです。
辛抱が足らないと言われればそれまでですが、我が身を守るために退職を決意した次第であります。
その後、数ヵ月の無職期間を経て職業訓練学校に4ヶ月間通い、卒業。
無事、新しい職場に、非正規社員ですが就職することが出来ました。
航空機や船の安全を守るための、照明を生産する仕事です。
どちらかというと初めに勤めていたA社に職種も近く、人間関係も悪い方ではないので自分に合っているのではないかと思います。
幸いなことに、職業訓練校で学んだパソコンスキルも活かせることも大きいです。
現在の状況では仕事が楽しく出来ているかと聞かれればYESと言えるかも知れません。今はまだ自分のペースで出来るということもありますが、新しいことを覚えていくのが楽しいのです。年月が立てば状況が変わってしまう可能性もありますが。
『仕事は楽しくやろう。楽しくなくなったらおしまいだ』
という言葉は、Kさん亡き後10数年以上たった今でも、何故か心に刻みついているのです。
少なくとも私にとっては、遺言のようになりました。
楽しく仕事をするのは容易なことではありません。結局自分で仕事を楽しくする努力をするより他ないのです。
とにかく、仕事を楽しくする方法として
①自分の肌感覚に近い仕事、いわゆる目的を持って向上心が沸き上がる仕事を探す。
②仕事を楽しめる工夫をする
③過去の自分から、成長した部分をピックアップする。
①は、一応実施済なので、②と③は、常時心掛けていきたいと思います。
そして時々は、下記のような内容を自分に問いかけるようにするつもりです。
・面倒な人間関係を乗り越えるメリットがありますか
・今の仕事を続けることで心身ともに正常な状態を維持出来る自信がありますか?
・今の仕事に前向きな未来を感じることが出来ますか?
・今の仕事のメリットがデメリットに勝ることが出来ますか?
・今の仕事が楽しいと感じるときはどのような瞬間ですか?
もちろん、心身ともに疲れている状態の時に考えても冷静な答えなどは出ないでしょう。
気持ちをリフレッシュさせて落ち着いた時に、心の声に耳を傾けていくことで今の自分に必要なことが見えてくると信じています。
末永く、現在のお仕事が継続できますように。
皆様も楽しくお仕事が続けられますよう、お祈りしています。
追伸
余談ですが、亡き鬼上司のKさんに、淡い想いを抱いていたのは、また別のお話です。
ちなみにKさんは、職務を全うした後、60歳で永眠されました。
天国のKさんの言葉、この記事で記したことを、常に心に抱いて仕事を迎えています。