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夜警の青春

「おい、急げよ」

寒そうに体を窄めて、夜風を避けるように歩く真希を健二は無邪気に急かしていた。

「お前のせいで置いてかれちゃうだろ、早く早く」

「うぅ、、寒い、、ていうかさ、だいたいこんな一年の終わりだけ、最後の最後だけ【火の用心】ってどうなのよ」

楽しそうにはしゃぐ健二がよほど気に食わないのか、真希が言い返した。

今日は町内会の夜警の日だった。

真希と健二は毎年年末の夜警には必ず参加していたのだけれど、ボランティアでしかないこの夜警に真希は飽き飽きしていた。

当初参加していた頃は2人とも保育園児、言わば幼馴染みというやつなのだが、そんな2人も今では高校生、子どもの頃に感じていた夜中に町内を歩き回る楽しさなんて今の真希には皆無だった。

それこそ「ただ健二が楽しそうだから」それだけの理由で参加しているようなものだった。

「あのさ、私、健二に誘われるがまま今年まで参加してたけど、もう私たちそんな歳じゃないじゃん。夜警なんて別に楽しいものじゃないし、年末の夜中なんて寒いし、もう今年で私は止めようかな、、なんて、」

手をダウンジャケットのポケットに、突っ込んだままの真希は少し申し訳なさそうにしていた。

「そっかぁ、、」

「まぁ、昔は2人だけじゃなくて地域の子どもも多かったもんなぁ。今でも何人かはいるけど、ほとんどオッチャン、オバチャン、その子どもで、高校生なんて俺たちだけだし、そりゃ止めたくもなるよなー」

「それに年末だけ火の用心、火の取り扱い注意週間だなんだって、正月は気を抜けって言ってるみたいなもんで、無用心この上ない話だしな、一緒に止めるか」

半ば愚痴のつもりで言ったつもりの真希は、思いがけず同調してきた健二に少なからず動揺していた。

「あのさ、、健二は、この夜警を毎年の楽しみにしていると思ってたんだけど、、」

「そりゃ楽しみだったよ、でも真希の言ったことも一理あるのかなーって思ってさ、たぶん俺も夜警を楽しみにしてるような歳じゃないんだよ」

、、、カン、カン

火の用〜心、カン、カン

「火のよ〜じん、カン、カン」

「この掛け声も今年で最後だな、、」

少し遅れてお決まりの掛け声が2人に届いていた。気付けば2人と町内会の集団には距離ができている。

「あーあ、離されちゃったな、、」

「真希、走れる?」

「あ、、うん」

「じゃあ行くぞ」

走り出した健二を追いかける真希とは裏腹に、真希の意思はその場所に置き去りにされたままだった。

相変わらず健二は楽しそうだ。

この夜警が終われば健二と夜の町内を歩くことは無くなるんだろうな。そんなことが真希の頭の中には浮かんでいた。

真希は健二との夜警が楽しみだった。

そうじゃなきゃ、年頃の女の子が毎年のように年末のスケジュールを空けている訳がなかった。

来年はどうしようかな、、


「、来年はさ、、、」

不意に健二の声が聞こえた。

「、、の年末はさ、、で、、、、な?」

「うん!」


本当は健二の声なんて風で殆ど聞こえなかった。

それでも真希は迷わず首を縦に振っていた。


おしまい。

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