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もはや令和の教育ドラマ~『新宿野戦病院』感想

先日最終回を迎えた『新宿野戦病院』。主人公の女性がだいぶエキセントリックなキャラだったせいか序盤で脱落した人が多かったみたいでクドカン脚本の割にあまり話題にならなかった気がするけど面白かった。

何よりこのドラマにおいて私が好きだったのはいわゆるストリートナレッジ(street knowledge)が詰まっていたことだ。学校や塾では教わらない経験や勘によって培われた知識を広く紹介していた。NPO法人は何をする場所か。警察はどこまで介入できるか。最新の法整備は。DVや虐待を受けた子どもたちは何を思って新宿に集まるのか。ホストと風俗とおじ(おじさん)と美容医療が動かす経済のリアル。日本の救急医療の格安さ。
もはや現代における真っ当な教育教材としての側面を持ち合わせていた。

世の中の裏道を見つけてはするりと通り抜ける人のしたたかさ。自分ひとりではどうすることも出来ない無力さ。なんだかんだでいい方に転がっていくあっけなさ。
そういったものを見ることで社会に対して別の視点を獲得できる。見える景色が広がってほんの少し心が楽になる

ラストは2話分を使って未知のウイルス蔓延が起きた2025年を描き、コロナパンデミックの再現をしてみせた。喉元過ぎれば熱さを忘れ、同じ過ちを繰り返す我々。しかしそこまで深刻には結局ならずとりあえず未来に希望を託してサザンが出てきてみんなでパーティーという雑な終わり方もなんだかこのドラマらしくて良かった。
そういえばこのドラマ最初から「雑」がキーワードだった。主人公の信条は「平等に雑に助ける」だった。

「雑」というと聞こえは悪いが、良くとらえれば寛容(tolerance)であるとも言える。この国はもう少し雑でもいいと、本当はみんな思っているのではないか。エスカレーターはあんなに大行列を作ってまで片側を開けなくてはいけないのだろうか。その程度のことを許すことで日本が世界に誇るべき勤勉さ、配慮の細かさ、治安の良さは消え失せるだろうか。どちらかを犠牲にすることなく、雑な部分ときめ細やかな部分を両方とも持ち合わせた社会を求めることは愚かだろうか。

なんだか話が大きくなってしまったが、ぼけっと観てるだけの一般男性にもそんなことをふと考えさせてしまういい作品でした。あとはまあIWGPや木更津時代のクドカンが持っていたアングラ感がやや戻ってきていたのも良かったね。


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