『悲しみの秘義』若松英輔(22)【詩は魂の歌】
いよいよ終盤に突入し、ここまでの章を読んだ上で「誰の心にも詩人が棲んでいる」と書かれると、納得感がある。
室生犀星と堀辰雄の関係が師匠と弟子に近いものだったのは知らなかったこともあり、室生が堀を回顧して「詩情」について書いた文章は興味深かった。堀辰雄は小説家であり、詩人のイメージが全くなかったのだが、師匠である室生は「詩人として優れていたが、詩はほとんど書かずに、すべて小説につぎこんだ」という内容のことを書いている。確かに、そう言われれば、堀辰雄は「詩情」のある小説家であるような気がしてくる。
そして、若松さんは「詩が溶け込むのは、小説のなかばかりではない。私たちの日常の営みのあらゆるところに溶け込む」と「詩情」が誰の日常にも在ることを語るのである。
詩は魂の歌である。
すっぱりと言い切る力強さ。清々とした気持ちになる。
どうして我々には詩が必要なのか、ではなく、みんな持っているのだから、詩を読むだけでなく、詩を書いてみたらどうだろうか、もしくは自分の心の「詩情」と向き合ってみたらどうだろうか。
詩は魂の歌である。
僕が詩を書くようになったのは、コロナ禍でそれまでの日常が崩壊した時からだ。環境の変化で急に書きたいと思ったことに少し違和感があったのだが、ずっと心にあった「詩情」が表出化したと考えるとすんなりと理解できる。「詩は魂の歌である」を肝に銘じて、僕も書いていきたい。