『悲しみの秘義』若松英輔(23)【悲しい花】
岡倉天心。
教科書で名前は憶えたけれど、詳しいことは知らない。『茶の本』という書名を見て、確かそうだったな、という程度である。
岡倉天心の「茶」ではなく、そこに記された「花」に若松さんは注目して本章を書いている。茶にしても、花にしても、静謐な世界である。岡倉天心の「花」は声にならない「情愛」である。
愛することと悲しみが表裏一体であることは、『悲しみの秘義』を読み進めてくると良く理解できる。それらの思いを「花」として捉えていたのが岡倉天心なのだと思う。
悲しみの花は、けっして枯れない。それを潤すのは私たちの心を流れる
涙だからだ。生きるとは、自らの心のなかに一輪の悲しみの花を育てるこ
となのかもしれない。
若松さんの言葉はいつもどこか悲しい。
けれど、同時に温かさも感じる。
本章を読み終えて、ほんとうに素直な眼差しで物事を視る人だと改めて感じた。