『悲しみの秘義』若松英輔(14)【この世にいること】
須賀敦子について書かれた章である。
須賀敦子を語る中で、ウンベルト・サバの詩と川端康成とのエピソードに触れている。
僕は川端は読んでいるが、須賀、サバは読んだことがない。けれど、「霧」をキーワードとして書かれた本章は、不思議と親しみを感じる。須賀敦子のエッセイも、サバの詩も初見なのに、ずっと知っていたような気がするのだ。
生と死の隔たりを「壁」ではなく「霧」だとすれば、印象がだいぶ変わる。すぐそこに存在している気持ちになるし、地続きのような感覚にもなる。今まで「霧」という発想がなかったので、とても素敵だと思った。
須賀敦子の作家生活は、晩年の7年ほどだった、そうだ。僕は何も知らないので、その短さに驚いている。密度の濃い執筆活動だ。今度、読んでみようと思う。
何も知らない僕にも、須賀敦子の素晴らしさが伝わってくる構成となっており、若松さんの「熱」を感じた。【この世にいること】を噛みしめながら、生きるとはどういうことなのか、を考えた。