読書日記201【余命10年】
小松琉加さんの作品。私小説らしく、自分の経験を書いているとされている。作者自体は若くして亡くなっている。亡くなる10年前に出版されたとされる、この小説は題名とマッチして話題になったらしい。
遺伝性で難病の特定疾患である主人公の高林茉莉(まつり)の亡くなるまでの10年間が主人公の視点で書かれている。最初は病気のこと、そして家族のこと、学生時代のこと、社会人になってのことと世界観が拡がる中で、茉莉の寿命は確実に削られていく。
新しいというか、書き方がネット的というか、章の最後に太字で書かれる「感情詩」というかが、ブログとかによく綴られた文を読んでいる感覚がある。好き嫌いが別れるらしく、著者のバックボーンを知らない人が読むと、ちょっと自分に酔ってる?と感じるらしく、酷評もあったりする。
ただ、すごく面白い。物語もしっかりと出来ているし、これが完全なフィクションとして読んでも特に問題はないと思う。「若い生と死」を描くと切ない物語を作れるのは今も昔も変わらないけど、そういう事を除いても、この物語はすごく面白く書けていると思う。
昔の携帯の時代、インターネット文庫として『魔法のiらんど』という小説投稿サイトがあって、そこで、『恋空』という作品が投稿された。「本当の話です」と綴られた作品は主人公である田原美嘉(みか)がヒロと(桜井弘樹)恋愛するのだけれど、ヒロは末期のガンで亡くなる。ヒロの元恋人が美嘉を男子高校生に襲わせたり、ヒロの子供を妊娠したり、そして流産したりと、波乱万丈な美嘉の物語は「本当の物語」として話題を呼び、大ベストセラーになって、映画化もされている。(しかも、主演は若き日の新垣結衣と三浦春馬です。キスシーンは初々しさが満載w)
書かれたのがその何年後かになっているので、当時を知っている人は「二匹目のドジョウ」感もあるのかもしれない。(『恋空』は今は事実に基づくフィクションとなっている)正直にいうと、携帯で『恋空』を読んだ時は、それが本当であれ作品であれ、特に問題もなく面白い話だったのだけど、それが「本当の物語」として独り歩きをしていく様子をリアルにみていたので、確かに衝撃さといった意味ではそこは避けられない「部分」ではあるとは思う。
フィクションで書かれる「ネット版の恋愛物語」は、衝撃というかがないと売れないという考えみたいものが、その前にベストセラーになった『Deep Love』から始まった感じはある。援助交際する高校生の愛を描いていたこの小説は、当時の携帯サイトで書かれた小説で、人気は爆発して作者の自費出版で書籍化されたために、作者であるYoshiさんがそうとう儲けたと、その当時話題になった。
それからそういう作品が多く書かれるようになって、フィクションでは面白くなくなっていた読者が、「本当の物語」を欲しがった感があるのかも知れないけど、その中で10年埋もれながらも、文庫化されて読まれているのは物語の面白さがあるんだと思う。
主人公が子供の頃に住んでいた群馬に姉が嫁いだために、まだ発病前の元気であった小学生時代に住んだ群馬に滞在することになった茉莉に、群馬の同級性がクラス会と称した飲み会をセッティングしてくれて、そこで恋人になる真部和人と出会う。小学生の時に茉莉が和人の取れかけの服のボタンを縫ってくれたことを和人は覚えていて、茉莉に好意をよせていた。
男性の下の名前をカタカナで書くところや、和人があまりにも茉莉のことを覚えているところとか、何故か群馬で出会った和人が茉莉と同じように東京に住んでいる点などは、確かに「うーん」とはなる。ただ、恋愛模様は普通でとても感情の杞憂がしっかりと書かれている。茉莉のもうなくなってしまう「命」の時間と、和人の茉莉への愛情がナチュラルに書かれている。映画化されるらしいので(小松菜奈と坂口健太郎主演です)読んでみるのもいいかもです。