カエルの命
それはまだ、ほんの幼いころのことでした。
祖父の家の前のレンゲ畑にしゃがんで花冠を作っていた私は、足元に飛び出してきた、茶色い小さな生き物に仰天しました。
ぎょろりと飛び出した目に、ぶつぶつと突起のある背中。
そして体全体がぬめぬめしています。
思わず尻餅をついてしまった私に、
「おやおや、カエル怖いんか?」
頭の上から祖父の声がしました。庭から様子を見ていたようです。
うん、とうなずくと、祖父は私の隣に坐り、そっと手のひらでカエルを包みました。
「これもな、小さなひとつの命なんやで。お前と一緒の命や。」
そう言いながら祖父はカエルの乗った手を開き、満面の笑顔で私に差し出しました。
「怖ないで。ほれ、手に乗せてみるか?」
「う、うん…。」
祖父の笑顔につられるようにして、こわごわ手のひらにのせたカエルは冷たくて、でもしっかりとした体をしていました。
小さな命の重みがすん、と手のひらから伝わってきます。
その時からカエルは私と対等の「命」となりました。
以来ほぼ50年、私はカエルだけではなくカナヘビやチョウやトンボ、クモやハエにさえも
「おはよう。」
「掃除するから、ちょっとどいてよ。」
などと話しかける、風変わりな人間となってしまいました。
カエルを手に乗せて、笑顔で命を教えてくれた祖父はもうずいぶん前に他界しました。
でも、私に残してくれた生き物たちへの「命」に対する感覚は、私から息子たちへしっかりとリレーされています。
*
始めて取り組んだ「一枚の自分史」です。
自分の好きな写真を一枚選んで、そこから過去のことを思い出す、というワークを最初に受けた時のもの。
私はカエルやトカゲなどの生き物が好きで、夏になると庭に来るそのコたちをたくさんカメラにおさめています。
ただ、なんでこんなに好きになったんだろう、と改めて考えたことはなく…今回このワークを受けた時に、ハッと祖父のことを思い出しました。
こんな機会がなければ、ずっと忘れていた大切なエピソード。
「自分史」に出会えてよかったな、と感じた一枚です。
みなさまも、忘れていたはずの大切なエピソードを思い出したことがありますか?
よろしければ、コメントで聞かせてくださいね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
真柴みこと