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結界の雨【丹生都比売神社】

その日、丹生都比売神社にはこまかな雨が降っていました。
9月上旬、まだ日々暑さの残る時期でしたが、駐車場に停めた車から降りると、半袖がすうっと肌寒く感じられるほど。丹生都比売神社の建つ天野の里には、もう秋の気が立ち込めていました。

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ほどなく雨が小降りとなったため、折り畳み傘は鞄の中へ。ちらほら細い糸のような水が落ちてくる中、二つ目の鳥居をくぐると、ブーンと羽音がして、小さな虫が間近に飛んできました。左側に回り込んだとたん、羽音が止まったので、そっと左手を上げてみると、薬指にヤマトシリアゲという昆虫がちょこんととまっています。体長は2㎝ほど、細長い体に透明な翅。翅の裾には明るい茶色のラインが入っていて、それが格好のアクセントになっています。
せっかく来てくれたのだからと薬指を掲げ真下から眺めてみたり、真横から眺めてみたり、正面から表情をじっくり観察したり……そうしているうちに、
「もういいかね?」
とでも言うように、ヤマトシリアゲは木立の方へ飛んで行ってしまいました。
生き物好きの私にとってはとても嬉しいお出迎え、ありがたかったです。

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雨の日だからなのか、丹生都比売神社の拝殿中央にはあたたかな橙色の明かりが灯っていました。空は薄暗く、その明るさの前で手を合わすと、心がゆるりと和みます。
参拝者は私ひとりだったため、般若心経もお唱えして(丹生都比売神社は高野山とつながりのある神社です)拝殿脇の木の長椅子に坐らせていただきました。

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実は8月下旬、私はとある会社の採用試験を受けていました。個人事業主のライターとしての契約で、めずらしい時給制のお仕事です。
ライターは「1本あたりいくら」という形で報酬を得ることが多いため、時間をかけて資料を読み込んだり、パブリックドメインの画像を丁寧に探したりしていると、どんどんコスパが悪くなってゆく、というジレンマを常に抱えています。
時給制になればそれらが解消し、報酬もアップ。記事の内容は私の得意な分野ではなかったのですが、
「とりあえず、やってみる」
という気持ちでチャレンジしていました。
幸い、一次試験も二次試験も無事に通過。
でも……最後のオンラインでの面接で、採用は見送られてしまいました。

お参りをする時、私はいつも心の中で、神様に近況報告をします。この日も木の長椅子で、ひととおり丹生都比売さまに事の次第を聞いていただき、
「面接では、自分の経歴やここまでのものが書ける、という驕(おご)ったことばかりをアピールして、相手が何を求めているかを考えないままで終わってしまいました。今回は、相手目線で物事を見る、ということを学んだ気がします。それから……報酬に目がくらんで、本当に自分の書きたいものを見失っていたことも失敗の一因です」
そんなお話をして、以前、丹生都比売さまからいただいた屋号「flow Essence」のお礼などを申し上げていると……空気がころころとはずむような、鈴がきれいな音をたててころがるような……そんなご神気が広がるのを感じました。
大切な経験をしましたね、これからもがんばるのですよ、と、丹生都比売さまが励ましてくださったのかもしれません。

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帰りに引いたおみくじは久々の「大吉」。でもこれは、これからの運気ではなく、不採用になったことも含めて、ここまでの道のりが間違ってはいない、という意味での「大吉」だという気がしました。おみくじには「二兎を追うべからず」との言葉もあり、今後は欲に惑わされないよう、注意を促されたようにも思います。

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境内の光明真言碑の前には、小さなかえるさんの姿が。
寒さへと向かう時期、しっかり食べて、ちゃんと冬眠できますように……。

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次第に雨脚は強くなり、境内には無数の葉を打つ音、地を跳ねる音、さまざまな雨の音が響きはじめました。
雨が結界となり神域を守っている、そんな錯覚を覚えるほどの多層な水の響き。

開いた傘に雨音を躍らせながら、結界の外へと踏み出すように、私も雨の日の丹生都比売神社を後にしました。

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flow Essence 美年~mitoshi~
神社仏閣をとりまく鎮守の森を守りたいと思っています。 いただいたサポートはその保護への願いをお伝えし、参拝の際、奉納させていただきます。

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