薄い膜
ただ大好きなものと共に在りたいだけなのに
同時に恐ろしく悍ましいものの一端に触れている。
あの日捨てたはずの何かに。
そんなことがある。
逃げてばかりいた過去の自分が嫌で、逃げることをやめた。
それによって少しずつ薄れていく自分を、小さな幸せを引き伸ばした薄っぺらい幸福で濁して生きていた。
全部混ぜちゃえば一緒だ、って。
取り除けないなら同じことだ、って誰かが言ったから。
大丈夫、私は今、幸せの一端に触れている。
そう自分に言い聞かせて生きていた。
一度逃げることを覚えてしまうと、その先も『逃げる』選択肢を選びがちになってしまうのが怖かった。
あの頃。
心を痛めてしまう要因を見ないようにすることは『逃げる』とは違うと思った。今。
『逃げる』じゃなくて『守る』ならよいのだと思った。
時を経て、ようやく掴んだ幸せの片隅に、あの頃捨てたはずの悍ましい何かがしがみついている。
見ないふりをしただけで逃げられてなんかいなかったし、守れてもいなかった。
ただ現実逃避という薄い膜を張っていただけ。
苦しさと絶望と哀しみが混ざり合ってぐちゃぐちゃになったものが心の底にズンっと詰まっている。
いつまでついてくるの?
いつ解放されるの?
私だけが背負って行かなきゃいけないの?
どうして?
頑張るっていつまで?
私が今ある幸せを掴んでいる限り、共にヤツの一端に触れ続けるのだろう。
きっとずっと心の片隅に重石としてあって、たまにひょっこり顔を出してくるんだ。
その頻度が前より少し増えるだけ。
そうだよ。
大丈夫、全部混ぜちゃえば一緒だから。
取り除けないなら同じことだから。