本のレビュー⑤ FACTFULNESS
資本主義の勉強をしています。今の資本主義を考える上で欠かせない「労働問題」「気候変動問題」などもその勉強対象になります。そこで必ず必要になる能力・スキルがデータを集める力、データの背景を調べる力、データとデータを組み合わせて答えを導き出す力なのではないでしょうか。私は今そこに注力しています。その助けになるのではないかと思って読み始めたのがこの本、FACTFULNESSです。
この本は非常に面白い本でした。まさに世界の教養、今を生きる人にとって必ず知っておくべき内容だと思いました。では内容に移ってまいりましょう。
ファクトフルネスの種類
分断本能(「世界は分断されている」という思い込み)
皆さんは「世界は先進国と途上国で、子供の死亡率と出生率の差は顕著に出ている」という話を聞いたとき、どのような印象を抱くだろうか。おそらく何の疑問も持たないだろう。しかし著者はここでその話に対して明確にNOと公言している。実際に数字を見るとわかるだろう。実際に2017年時点で、世界の全人口の85%は「先進国」(1965年当時に先進国と定められていた部分)の枠の中に入っており、残りの15%のほとんどは「途上国」と「先進国」2つの枠のあいだにいる。いまだに「途上国」と名付けられた枠内にいるのは、全人口の6%、たったの13カ国だけである。また、2017年時点で低所得国に住んでいるのは世界の人口の9%しかいない。
このように「私たち」は曖昧にではあるが先進国と途上国との間に大きな溝が存在し、いまだに多くの人が貧しい生活をしていると勘違いしている。ではここでいう「貧しい」の定義とは何だろか。筆者はここで明確に生活水準の4つのレベルを提示している。詳しくは本書を参照してほしい。
著者は①平均を比較することで、2つのグループには重なりがあり、分断などないことが多い、②「上からの景色」は低いところの違いを見つけることが難しいことを分断本能の締めくくりとして指摘している。
ネガティブ本能(「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み)
本書では平均寿命や、極度の貧困などの昔との比較を本書で行っている。どれも昔とあまり変わっていないように感じらえるかも知れないが、実際はそうではない。世界はどんどんいいものになっている。HIV感染や戦争・紛争の犠牲者、大気汚染などの悪いことはみるみると減り続けているし、逆に自然保護や女子教育、絶滅危惧種の保全などのいいことはみるみると増え続けている。
①今起きている「悪い」ことと「良くなっている」ことは両立している、②良い出来事はニュースになりにくく、逆に悪いニュースは印象に残りやすい、③ゆっくりとした進歩はニュースになりにくい、④悪いニュースが増えても、悪い出来事が増えたとは限らない、⑤人は過去を美化する傾向にあることに注意しよう。
直線本能(「世界の人口はひたすら増え続けている」という思い込み)
突然だが、皆さんは人口は将来、増え続けていると思うだろうか。これには間違いないくYESと言うだろう。しかし、著者はここで数字を示している。今現在、15歳未満の子供の増加率は横ばいだ。増えているのは大人であるそうだ。しかし、私たちはグラフを見ると、描かれている線の通りにその先を予測する。しかし実態はそうではない。今30歳だった人が45歳になり、45歳だった人が60歳になり60歳だった人が75歳になっているのだ。その結果どの年代も同じくらいの人口になり、やがては(15歳未満の子供は増えていないのだから)減っていく。
①何でもかんでも直線のグラフに当てはめるのではなく、S字カーブ、滑り台の形、こぶの形、あるいは倍増する形があることを念頭にグラフを予測することにしよう。
恐怖本能「危険でないことを恐ろしいと考えてしまう思い込み」
様々なニュースを見ると私たちはあらゆる問題に着目することになる。自然災害や飛行機事故、放射線被ばく、テロなどだ。しかし、どれも確率で言うと微々たるものだ。これを無視していいわけではない。しっかりと現実を見る必要があると著者は述べているのだ。
①リスクは「危険度」と「頻度」、すなわち「質」と「量」の掛け算で決まると言うこと、②メディアや自身の関心フィルターは世界を恐ろしく見せてしまうため、現実をしっかり見ることが重要であろう。
過大視本能(「目の前の数字がいちばん重要だ」という思い込み)
人はみんな、物事の大きさを判断するのが下手くそであるとキッパリと著者は述べている。本書では病院での友人とのやりとりが記載されている。「目の前の病人を救うのか、その裏に隠されているたくさんの病人を救うのか」だ。私が現地の病院で働く医者であった場合、私は前者を選んでしまうのではと思ってしまう。目の前で人が倒れ、それを助けると目の前でみるみるうちに症状が良くなっていくからだ。しかし、著者はここにしっかりと気をつけつべきであると述べている。メディアや慈善団体は常日頃から、何らかで苦しんでいる人を紹介している。そして彼らは自分達の主張を強調するために、途方もなく大きく見える数字を、それぞれの事例に添えようとする。これこそが人々が世界の見方を間違えたり、進歩を過小評価したりする原因だ。逆も然りである。
①ある数字を見たら、比較したり、割り算したりしよう。②80・20ルールを駆使し、複数の項目が並んでいたら最も大きな比率を占める項目だけにまずは注目しよう。③違うグループなどを比較する場合、割り算をし「一人当たりに注目しよう」
パターン化本能(「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込み)
人と言う生き物はパターン化をしないと生きていくことはできない。パターン化を止めることはできないし、止めようとすべきではない。ただ間違ったパターン化をしないように努めよう。仮にひとつの集団のパターンを根拠に説明されていたら、それに気づこう。
①同じ集団の中にも違いがある。集団の規模が大きい場合は特に、より小さく正確な分類に分けよう。②違う集団のあいだの共通項を見つけよう。そうすることで集団の分類分けが本当に正しいかを判断できる。また、違う集団のあいだの違いを見つけることも同じくらい大事だろう。
宿命本能(「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み)
いろいろなもの(人、国、宗教、文化など)が変わらないように見えるのは、変化がゆっくりと少しずつ起きてきているから。中東の国が大家族であるということも、アフガニスタンに住む女性の多くが学校に通えていないということも事実なのだろうか。
①知識を常にアップデートし、いろいろなものに対する固定概念を払拭しよう。
単純化本能(「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み)
自分が何か一つの専門性に特化するとその「トンカチ」をどこでも使いたいと思ってしまう。そこでその「トンカチ」をしっかりと見定める必要がある。トンカチ以外のものはないのか、トンカチの弱みは何なのか。一つのものだけを見てはならない。これは数字に対しても同じことが言える。数字の裏にはどのような人が、背景が、物語があるのかをしっかりと考慮しよう。
①自分の考え方を検証しよう。意見の合わない人の意見を聞くことで自身が持つ意見の弱みが見つかるかも知れない。②数字は大事だが数字だけを見るのではなく、数字が人々の生活について何を教えてくれるのかを読み取ろう。③自身の専門分野で一つの問題を考え続けるのはやめよう。違う分野の人に話を聞いた時、新たな発見が待っているかも知れない。
犯人捜し本能(「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み)
何か悪いことが起きた時、単純明快な理由をみつけたくなる傾向が犯人捜し本能だ。飛行機事故を睡眠不足のパイロットのせいにするのは簡単なことである。しかし、パイロットのせいにするより睡眠不足だった理由は何だったのかを考える方がよっぽど重要ではないだろうか。誰かを責めると他の原因に目が向かなくなり将来同じ間違いを防げなくなる。
①犯人ではなく、原因を探そう。②ヒーローではなく、社会を機能させている仕組みに目を向けよう。悲しいくらいに無能な大統領のいる国でも進歩している。一国のリーダーなんてそれほど重要じゃないんじゃないかと思ってしまうほどだ。
焦り本能(「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み)
今すぐ動こうという謳い文句は危険だ。選択を稚拙にしてしまい、愚かな判断を下しかねない。もちろん、今すぐ動くべきものもあるだろう。しかし切実な問題(地球温暖化など)であればあるほど、総合的な分析と、考え抜いた決断と、段階的な行動と、慎重な評価が重要なのだ。
①大事な問題ほど、深呼吸し冷静に分析・情報収集しよう。②緊急な問題ほど正確なデータを収集しよう。③未来予測には注意しよう。予測には常に最高のシナリオと最悪のシナリオが存在する。④過激な対策に注意しよう。ドラマチックな対策よりもたいていは地道な一歩に効果がある。
所感
ビジネスも研究も一緒くたにまとめることはできないと改めて知った。何か一つの問題が解ければ解決されるような深刻な問題などこの世になく、全てが複雑に絡み合いながら形成されている。だからこそ、私ができることは「自分の頭で考えること」なのだろう。偉人や先人が考えた思想、成し遂げた功績をそのまま今の世界に移植することはできない。真似することは「他人の頭を借りること」に他ならないのだ。では私はどうするべきなのだろうか。常に現場に足を運び、数字を見て、他の人が行動している理由を考え、動くことに徹する。
これに尽きると私は考えている。全て自分の頭の中で考えるのだ。もちろん人間の本能的に端折ってしまう部分もあるかもしれない。それ自体を否定しているのではなく、自分が大事だと思うことほど慎重な行動を心がけるということが重要であると私は考えている。自分の頭で考えよう。他人の頭を借りるのはもうやめにしよう。