いまいる場所から 9
今朝は5時20分に目が覚めた。少し早いのでまた寝てしまった。次に目覚めたら7時34分。夢はたぶんその直前に見た。
ずいぶん昔のことだった。昔というのは夢のなかに見覚えある建物が出てきたからだ。もう30年以上も前になる。建物は大阪梅田にあるナビオ。正式にはナビオ阪急だったか。僕がちょうど会社勤めをはじめた頃にその前の古い建物を取り壊して新しくオープンした建物だった。僕が勤める会社のビルはナビオの近くにあったしナビオは僕が勤めた会社の取引先でもあったからよく覚えている。
その夢はナビオという建物の非常口からはじまる。
建物1階にあるその非常口は普段は出入りしてはいけない。出入禁止だった。その非常用の出入口をナビオの役員が入っていくところから夢ははじまった。
役員を先頭に役員の部下にあたる人たちもその後につづいた。それからさらに僕たち社外の関係者もナビオの役員とその部下の人たちにつづいて非常口をくぐって建物の中に入った。僕は一番下っ端で行列の最後尾。最後に入った。
出入禁止の非常口の扉を入るとすぐに前に階段があった。階段を上りきったところを左に曲がるとエレベーターホールだった。ホールを入ったところで血相を変えて飛んで走ってきたんだろう顔を真っ赤にして息を切らせ肩を上下に激しく揺らせながら血走った目で鬼のようになって上気した警備員に行く手を阻まれ止められた。
先頭の役員をはじめ複数人の社員たちも他の警備員とやり合っている。列の先頭の方から大きな怒鳴り声も聞こえる。
警備員が社長に連絡したところ出入禁止の非常口から入ってきた者全員をそのままそこに立たせておくようにと指示があったらしく警備員から全員このまま動かずここで待つようにと言われた。
みんな買い物袋を手に持っている。バーゲンの帰りかな。全員買い物をした帰りのようだった。当時、ナビオはショッピングビルでもあったがナビオの外からこの建物に入って来たのだがらここナビオで買い物したものではないように思われたが本当のところはよくわからない。夢だから。
警備員の言うとおり動かずに待っていたら階段の下に見える出入禁止の非常口の扉を開けて入ってくる人がいる。今度は僕たちとは違って一人だ。よく見たら知ってる人だった。ただ知っているというだけでそれが誰だかはわからなかった。でも知ってる人ということにまちがいはなかった。夢ではよくあることだ。
知ってる人が階段を上がってきたのでいま現在の僕たちが置かれている状況を説明した。そのうえで出来るだけ早くここを立ち去った方がいい。いましがた上って来た階段をすか細かくは思い出せない。夢だからなのか。そんな人物として僕自身が夢のなかで設定しているからなのか。よくわからない。
ナビオという実際に記憶にある建物、それにナビオはいま現在もある建物なので夢での出来事であれ懐かしかった。出入禁止の非常口のあるあたりは揚子江とかいうラーメン屋があった。いまはない。よく食べに行った。それに角を曲がって、ちょっと奥まったところから二階にあがると突き当たりにバーがあった。名前は奧田バー。この店も馴染みだった。ここもいまはない。
そうかあのあたりから入ったんだなと思った。出入業者の搬出入口もあのあたりにあったはずだ。だんだんと思い出してきたぞ。いやしかしこのあたりのことは夢で見たわけではない。いま思い出しているだけだ。
さて出入禁止の非常口を平気で出入りしている人たちと頑なに出入禁止のルールを守らせようとしている人たち。これのなにをどう考えればいいのかわからない。わからないままにその状況下に置かれて身動きできなくなっている。それが僕たちであり僕だった。
夢はそのまま割り切れない感じのまま終わった。悪いことなどしていないというか悪いことなどしたつもりはないのに結果的に悪いことをしたかのようになっていて。動かずそこで待ちなさいと命じられている。そして僕らは僕はそれに黙って従っている。従わざるを得なくなっている。
なぜそんなことになってしまったのか。書いているうちに『中動態の世界』のことが浮かんだ。たしか副題は意志と責任の考古学。その後に続いて読んだ『責任の生成』という本の影響もあるかも知れない。昨夜、最後のあたりを繰り返し読んだばかりだからね。
生成されないままに放置されている。割り切れなさの正体はたぶんそんなところなのかも知れない。
ぐに下りて非常口から外へ出た方がいい。逃げた方がいい。と言おうとしているところへこれまた例の警備員が素早く走ってきて知ってる人を捕まえた。警備員はその知ってる人に僕らの一味グループではないけれどあんたもここで動かず待つようにと言った。知ってる人は間の悪い人だ。巻き添えを食らう。よくあることだしよくいる人だ。そういう星の下に生まれてきたんだ、この人は。
そんなことをしているとまた一人。こんどは若い女性。いやよく見るとそれほど若くはないがでもおばさんでもない。そんな女性が買物袋をさげて平気な顔で出入禁止の非常口の扉を開けて入ってきた。その女性もまた階段をあがってきたところで僕たちと同じように警備員から足止めをくらった。
なんなんだ。みんなここから入ってくるじゃないか。でもここからは入ってはいけないことになっている。僕はそのこともわかっていた。入ってはいけないことになっている出入禁止の非常口から次々と平気で人が入ってくる。誰もが入ってはいけないことをわかっていながらそれでも入っていいというか入っても大丈夫だと言わんばかりに平気で入ってくる。
出入禁止の非常口から入ってはいけないと頑なに守っているのは警備員と社長だけだ。警備員がその急先鋒で、その警備員を社長が背後から支えているというかお墨付きを与えているというかどうもそんな感じのようだ。
でも本当のところはそんなことはどうでもいいんだ。出入禁止になっていようが入れるんだから入るんだというのが僕らの先頭に立って入って来た役員の考えだった。その役員の顔は見えない。どんな人かも知らない。背中だけちらりと見ただけだ。
それに社長も警備員も顔はない。社長は姿すら見たことがない。社長が言っているからということを聞くだけだ。そんな存在が社長だ。警備員の方は直接僕らのところに近づいて来て動かずここで待つようにと言ったわけだから顔は見ているはずだが顔立ちとかその表情とか細かくは思い出せない。夢だからなのか。そんな人物として僕自身が夢のなかで設定しているからなのか。よくわからない。
ナビオという実際に記憶にある建物、それにナビオはいま現在もある建物なので夢での出来事であれ懐かしかった。出入禁止の非常口のあるあたりは揚子江とかいうラーメン屋があった。いまはない。よく食べに行った。それに角を曲がって、ちょっと奥まったところから二階にあがると突き当たりにバーがあった。名前は奧田バー。この店も馴染みだった。ここもいまはない。
そうかあのあたりから入ったんだなと思った。出入業者の搬出入口もあのあたりにあったはずだ。だんだんと思い出してきたぞ。いやしかしこのあたりのことは夢で見たわけではない。いま思い出しているだけだ。
さて出入禁止の非常口を平気で出入りしている人たちと頑なに出入禁止のルールを守らせようとしている人たち。これのなにをどう考えればいいのかわからない。わからないままにその状況下に置かれて身動きできなくなっている。それが僕たちであり僕だった。
夢はそのまま割り切れない感じのまま終わった。悪いことなどしていないというか悪いことなどしたつもりはないのに結果的に悪いことをしたかのようになっていて。動かずそこで待ちなさいと命じられている。そして僕らは僕はそれに黙って従っている。従わざるを得なくなっている。
なぜそんなことになってしまったのか。書いているうちに『中動態の世界』のことが浮かんだ。たしか副題は意志と責任の考古学。その後に続いて読んだ『<責任>の生成』という本の影響もあるかも知れない。昨夜、最後のあたりを繰り返し読んだばかりだからね。
生成されないままに放置されている。割り切れなさの正体はたぶんそんなところなのかも知れない。
>まるネコ堂言葉の表出2020冬合宿「いまいる場所から」より 3380文字
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