娘と。
今日は「まるネコ堂の文章筋トレ」で10分と60分を書く。一昨日から実家に帰っている娘のことが浮かびあがり10分書く。10分で書いたら60分でも書きたくなり、書く。おもしろかった。以下、一部修正し掲載する。
>文章筋トレ 10分
娘が一昨日から帰っている。妊娠4カ月。つわりでしんどいらしい。一昨日は神戸まで車で迎えに行った。昼はそれほどでもないらしいが、夜になるとしんどいらしい。会社勤めではないのでよかったといえばよかった。何もしていないなら帰ってきたらと何度かいってはいたがその気になったらしい。めずらしく娘の方からちょっと帰ろうかなといい出した。それならと迎えに行った。せっかく娘が帰ったというのに妻の方は昨日から仕事に出ている。病院事務で月初めは忙しいらしい。おかげで昨日も今日も昼は僕と娘のふたりきりだ。昨日の昼は妻が朝つくり置きしていた弁当をふたりで食べた。夜は僕がカレーをつくった。出来具合は不安だったが、娘がおかわりしたのでちょっとうれしかった。10分でこのうれしかったを書きたかったのでちゃんと書けてうれしい。
>文章筋トレ 60分
昨日のこと。天気もいいし用事もない。散歩でも行こう。それに少しは動いた方がいい。身体にもいいし気分も晴れる。誘うと行ってもいいという。それじぁ行こう。助手席に娘を乗せて車を出す。
行き先の候補は3つある。ひとつ目は、いつも父さんが行っているドッグラン用の円形の芝生広場のある公園だ。車なら5分もあればいい。近い。ここはただただ円形の広場のまわりをぐるぐる歩くだけだ。単純だが歩数をかせぐにはいいところだ。ふたつ目は市民総合運動公園だ。車で10分ぐらいかかるかな。総合運動公園というだけあって大きな体育館に隣接して立派なトラックの陸上競技場やテニス場なんかもある。陸上競技場の周辺の遊歩道を歩くんだ。高低差は少しあるが少しぐらいはいいだろう。最後、三つ目は車で15分の市立の自然公園だ。ここが一番遠い。自然林を切り開いた公園で結構広い。他の公園に比べて起伏も激しいほどではないがあるにはある。大きな池があって吊り橋もかかっている。人工の池ではない。吊り橋なんかも結構長い。50~60メートルはある。小学校の時に遠足とかでたぶん行ったことあるんじゃないか。
父は娘との間に話題ができたことがうれしいのか、娘と一緒に散歩に出かけることがうれしいのか、たぶんその両方だとはおもうが上機嫌だった。車を発車させると同時に一気に3つの公園のあらかたを喋ると娘の返事を待った。助手席でただ黙って聞いていた娘は、顔を赤くして喋り終えた父に、どこでもええねんとは言えず、とりあえず父が行きたそうな説明をした最後、3つ目の自然公園を希望した。
信号待ちかつ返事待ちであった父は、娘から自然公園との返事を聞くと信号が変わるのを待ちかねて勢いよくアクセルを踏んだ。父も車も快調だった。空は青く12月にしてはあたたかな陽射しが真っ直ぐに伸びる路面を照らしていた。
真新しくできた駐車場に車を入れる。公園そのものは古くからあったが市の整備計画か何かで駐車場は数カ月前に新設されたばかりだった。50台ぐらいの広さの駐車場にとまっていた車は2台だけだった。火曜日の昼過ぎだ。公園を歩くには贅沢すぎる時間だ。
自然公園の入口に一番近いところに車をとめる。娘を案内するように父は足取り軽く先を行く。できたばかりの少し急勾配の真新しい階段を20メートルばかり登りきると公園を周回する遊歩道に出る。右に歩いても左に歩いても同じ。公園をぐるりと一周するだけでちがいはない。さってどっちに行くか。右に少し歩けば吊り橋がある。左に行けば最初に広場がある。うれしそうにいう父に娘はひと言。右。
ふたりは右に歩きはじめる。横並びだ。どこかぎこちない。気のせいか。誰の気のせいか。父に決まっている。こういう場合はたいがいが父だ。たぶん。そうだ。
林の隙間から吊り橋の赤い影が見えた。少しだけ歩く速度があがる。近くまで行ってみると結構立派な吊り橋だ。どうする。渡ろう。娘が言う。なら渡ろう。父が先に娘が後につづく。少し揺れる。吊り橋だから。足元は網目になっている。下を見ると結構恐いね。父の後ろから娘が言う。そうかな。下を見る。確かに、恐い。
妊娠4カ月。突然、脳裏に浮かぶ。はッとする父。気づけば吊り橋の中程まで来ている。引き返すか渡りきるか。父の心配をヨソに娘は平気な顔でついてくる。渡りきろう。前を見る。下は見ない。渡りきる。娘も後につづく。よかった。どうってことないのはわかっているが、ちょっとドキドキした。娘の顔色をうかがうと、彼女もどうやらちょっとだけそうらしかった。
しかし、渡りきったからには帰らねばならぬ。すぐにというわけにはいかない。ひと息つきたい。このまま少し先に行けばベンチがある。そこまで行って少し休んで引き返すことにしよう。時間はある。言うとそうしようと返事があり少し狭くなった山道をふたりで歩きはじめる。
2060文字
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