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忘れられた町・砂町。常連さんは「午後の紅茶焼酎」が粋! 【未到の町を飲み歩く】
知らない土地で、酒場を訪問し、お酒とつまみをいただく。町を知る先輩のアドバイスとともに、それを楽しむ。「●●町で呑む」を始めました。
第一回は、東京・砂町。最寄駅は東京メトロ東西線の「南砂町」。そこから少し歩いた場所にある、街道が残るエリアです。
砂町は「忘れ去られた街」?
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今回、SNS経由で「砂町」の存在を教えてもらいました。実際に行くにあたり「おすすめのお店」を教えてもらおうとしたところ、町の先輩から次のようなメッセージをいただきました。
まず、東京東部の湾岸地帯の進展の歴史を考えてほしいんです。昭和40年代から東西線が随時開通し、最初は東陽町まででした。従って東陽町より東は、誰もいかない最果ての町だったんですよ。そこで、下町から離れた場所に地元市民だけでできる独特の文化があったわけです。
そこに、東西線の開通とともに道路整備されてきて、昔の街並みと、新しい建物がミックスされて不思議な街並みになっています。魚屋や八百屋の混じる旧街道沿いには古い酒場がぽつりぽつりと蛍灯のように介在しています。
思ってたのと違う角度のアドバイスをいただきました。でも楽しそうです。
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「砂町」といえば「砂町銀座」が有名ですが、今回はノータッチ。町の先輩にお薦めしてもらった旧街道沿い「元八幡通り」を中心にお酒を探します!
幹線道路と旧街道が並走する砂町
かつては江戸近郊の農業地帯として発展したという砂町。古い元八幡通りはしかし、下町のうねうねした景色とは違い、長いストレート。商店はありますが「連ねる」ほどではなく、うっすらと寂しい印象です。
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その元八幡通から200mほど北に行くと、急に大きな幹線道路(葛西橋通)に出ます。車の通りが多く、街道とは流れる時間がまったく異なります。
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幹線道路にはイオンをはじめとする巨大商業施設があり、家族連れや地元の子供たちが吸い込まれていきます。
北の幹線道路沿いは大型チェーン店、南の街道沿いは小さな個人店、といった感じです。その2つの顔を行き来するように行き来してみて気づきました。
「夜まで飲める店がない!」
時間は夕方の少し前。「昼飲みできるところからスタートしようかな」などと軽く思っていたのですが、どこも空いていません。商業施設にはサイゼなどチェーンがありますが、砂町感が欲しい…。
さまよって古本屋を覗いたり
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土地の神様にご挨拶したり
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魚屋さん覗いたりしました。
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【コーヒーショップ ミルク】瓶ビールと明太子
歩き疲れて、レトロな喫茶店「コーヒーショップ ミルク」に入りました。
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「ミルク」は、喫茶メニューだけでなく「焼きそば」「生姜焼き定食」などランチメニューも豊富。高校生らしき2人組が漫画に熱中し、常連と思われるお客さんとママがおしゃべりに興じてたりする、そんな空間です。
メニューに「瓶ビール」を見つけ、ここで砂町での1杯目を飲むことに。すると……
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明太子(本日のランチのサービス)と煮物(余ったからどうぞ、と)がついてきました。すごい、もはや居酒屋です。
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ママに相談しつつ(食事ではなく、つまみにしたいと)オーダーしたのは「クリームコロッケ」。ランチメニューにある「おかず」を単品でいただきます。
シャンソンの流れる喫茶店・ミルクで、黒ラベルと明太子とクリームコロッケをいただく。全然予想していなかった光景ですが、これはいいです。お店の本棚には「ドラゴンボール」や「コナン」といった漫画が揃っており、ここだけで数時間楽しめそうです。
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【遠野屋】煮込みとタバコと野球中継
夕方になり、町の酒場に灯りが灯りはじめました。2軒目は、赤提灯が魅力的な「遠野屋」へ。元八幡通と幹線道路の間にある大衆酒場です。
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2つのお店に見えますが、中はつながっていて1つ。左の赤い屋根の方は「テーブル席」で、右の緑は「カウンター席」という感じで別れています。
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雰囲気最高です。お店はご主人と女将さんの2人(テーブル席側ともつながっており、両方を対応しています)で切り盛りしています。
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お酒は「酎ハイ」。つまみは赤提灯にも書かれていた「もつ煮こみ」をいただきます。やわやわのもつです。ネギの食感のパワーってすごいです。提供時に一緒に一味唐辛子もすすめてくれます。「これでいい」の極みのようなおいしさです。
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続いて「レバー焼き」。串物を想像していたら、ソテータイプがやってきました。にんにくがゴロゴロで、醤油味がビシッと強くて、どうにもお酒が進みます。
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「あ、時間だ」と大将、リモコンを変えて野球中継(WBS)に。常連さんと画面を眺めならが、日本は今どんな仕上がりだ、誰の調子はどうだ、といったことをポツポツ話します。話しても黙っていてもいい、そんな空気。
野球中継って飲み屋の共通言語として、今もしっかり生きているんですね。飲み屋さんの野球中継の意味が伝わってきました。
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17時ごろになると、続々とお客さんが来店。みな60代以上でしょうか、年配の方が多いです。カウンターに座ると、何もいわずに一杯目のお酒がでてくる。
もはや、「大将、いつものお願い」の言葉も不要。毎晩、または定期的に、お店を訪れるのが日常になっているようです。
当然、タバコもOK。大体の居酒屋さんでタバコが吸えなくなったのって、いつぐらいだろうかと、おいしそうに吸う人たちの紫煙をみながら思います。
「ごちそうさまでした」と締めると、カウンターの常連さんから「今日もおつかれさまでした」との声。先輩、明日もお互いがんばりましょう。
【かめや】焼酎の午後ティー割り
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日本酒を飲めるお店はないかと街道を探すと、日本酒のラベルがたくさん貼られており、さらに「地酒」を打ち出しているお店を発見。店内が見えずにやや不安ですが、思きって入ります。
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店内は長いカウンター。その上に大量のメニュー短冊が貼られています。雰囲気は先ほどの「遠野屋」からマイナス20歳、といった雰囲気。まだまだ現役のおじさんたちが羽を休めに(もしくは伸ばしに)集まる場所のようです。
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日本酒はレギュラーメニュー(黄桜、浦霞など)のほか「今日の日本酒」という黒板があります。そこから「秀鳳」(山形)を選ぶと、ご主人笑顔で「口開けですよ(=開けたて)」と注いでくれました。
このほか、今日の日本酒は「作」「洌」「東洋美人」「讃岐くらうでぃ」など。いろいろな銘柄を仕入れられているんだな〜と感じます。近所にあったらちょくちょくいきたいです。
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銀杏で飲んでいると、「すみません、日本酒お好きなんですか?」と、カウンターの隣の方が話しかけてくれました。みるとボトルをキープしていて、常連さんのようです。「よく(店内が見えなくて)入りにくいこのお店にきてくださいました!」と、会話にいれてくれました。
カウンターには私のほか3名が、(なぜか)1椅子空きで等間隔に座っていました。話を聞くと、全員常連さんで、このお店で出会った飲み仲間。そして全員が同い年。「ここにくればダチが誰かいる」という、まるで「部室」のような空間なのです。
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同い年で「部室」みたいだから、会話も「男子」に戻ります。「この中で一番お酒が強いのは誰」みたいな、どうでもよくも全員が楽しみつつ、もう一杯飲む、そんな会話がゆるゆる展開されます。
部外者ですが心地いい。地元の友人たちと飲みたくなってきます。
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会話の中でふと気づいたのですが、常連同い年3人はみなキープの焼酎。そしてそれを「午後ティー」(ひとりは無糖、もうひとりは加糖、そして加糖ミルク!)で割って飲みます。
砂町は「午後ティー割り」なのですね。
この日一番の発見でした。高校の時に飲んでいた午後ティーが、時代を超えて中年のおじさんが集う居酒屋の定番割材になっている(きっと常連さんたちも若いころに午後ティー飲んでたんだろうな)。そのことがなぜだかとても眩しく見えました。
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住民にちょうどいい”本来”の飲み屋通り
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もう一軒、と見つけたラーメン屋さんを覗くもラストオーダー終了。テイクアウト(串もの)すると、「余ったから」と大量におまけをいただきました。
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砂町。観光地ではなく、地下鉄も「遅れていた」エリアです。
街道を歩いても、店がぎっしり並ぶような風景はなく、夜はぽつりぽつりと、飲食店の小さな灯りが見えます。
外の人がやってくる場所ではなく、外の人に無理やり開いている場所ではありません。飲み屋さんをのぞくと、拒絶も過度なもてなしもない、そんな、意識する必要がないことに起因する「気やすさ」があります。
がんばって観光地顔をして受け入れポーズをとるでも、がんばって一見客にハードルを設けて自身を守るでもない、プレーンな飲み屋さんの風景。
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本来、ひとつのエリアのお酒好きを支えるには、砂町くらいの「ぽつりぽつり」がちょうどいいのかもしれません。
わざわざ訪れる飲み屋街や観光地の方が不自然に思えるほど「町の飲み屋はこれでいい」という心地よさを感じました。
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砂町(呑み)散歩、ここで終了します。
特定の年代の人に「午後の紅茶割」が根付いた、地味なふりしてエッジの効いたすごい町でした。また、おじゃまします。
いいなと思ったら応援しよう!
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