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文学フリマ回顧録8:試し読みコーナーからの流入はどれほどか?

文学フリマ京都9に向けて準備を進めているけれど、試し読みコーナー(旧・見本誌コーナー)経由で訪れてくれる人の数にも違いがあるように感じています。

ブースに来てくれる人、本を買ってくれる人の数は、規模に比例しないこともあります。
もちろん、結果が規模に比例するタイプの人もいると思うんですが……多分、それは一定の地位を、人気を確立されている方なんじゃないかなというのが、個人的見解です。

そんなわけで、これまでの経験を振り返り、イベント規模と試し読みコーナー(旧・見本誌コーナー)からの流入について書いてみます。


規模が大きくなるにつれて試し読みコーナーの効果は薄い?

完全に私見なのですが、文学フリマにおける試し読みコーナーからの流入は、規模が大きくなるほど工夫が必要だと感じています。

つまり、ブースで足を止めてもらうために事前の告知が欠かせないのと同様、巨大イベントほど工夫しないと見本誌もあっさり埋もるということ……

うーん、世知辛い

読酌文庫の肌感

読酌文庫が始めて文学フリマに出店したのは、2020年開催の第四回文学フリマ京都でした。
「見本誌コーナーで本を見て~……」という感じで、流れてくる方も結構多かった印象があります。
この時の出店者数は447出店/474ブース、出店者・一般来場者数を合せた来場者数は2,110人とのこと。

対して、昨年、2024年の文学フリマ京都8では出店者数639出店/707ブース、来場者数は3,643名(出店者892名/一般来場者2,751名)です。
ざっくり出店者数から見たイベント規模は1.5倍ほど、出店・一般を合せた来場者数は1.7倍ほどに成長しています。
この時も、見本誌コーナー経由の方で読酌文庫を訪れて下さる方もいたのですが、以前ほどは流入効果を感じられなかった印象です。

そして、見本誌を回収しに行くと、自分の本は埋もれていました。
無念!

そうだよなー……

特別目を引く装丁にしていなかったし、二度見必須のインパクトあるタイトルでもないし、置かれている本の数も多かったし、文庫サイズや薄いA5サイズの本じゃそうなるよなー……

ちなみにこれ、文学フリマ東京37で撃沈したときも同じような状態でした。
文学フリマ東京37の出店者数は1,843出店/2,086ブース、来場者数は12,890名(出店者3,062名/一般来場者9,828名)ですので、京都以上に無理ゲー

一方、地方遠征ということで2023年に出店した文学フリマ広島5では、結構見本誌コーナー経由で来ていただけた感じがしました。
文学フリマ広島5の出店者数は164出店/195ブース、来場者数636名(出店者208名/一般来場者428名)です。

規模拡大の是非を語るつもりはないので割愛します。
しかし、規模が大きくなると、試し読みコーナーからの流入を望むのも難しくなっているのではないでしょうか。

そんなわけで、間もなく開催を控える文学フリマ京都の規模もかなりのものですので、試し読みコーナーからの流入を狙うならば、工夫が必要と考えた次第です。

出店者数500が分水嶺か?

自身の体感としては、出店者数500あたりが分かれ目なのかなー……と。
もちろん、人によって規模の大きい・小さいの分かれ目となる数字に差があると思いますが。

出店者数500以下の規模ならば、試し読みコーナーの本がごっちゃごっちゃになって埋もれるリスクや、出店者数の多さから見て回る範囲を限定する人が減る。
そして、頒布機会の公平性が保たれやすく、会場全体の回遊性も高まる。
お目当てを手に入れたあと、会場を一回りしようとか、もう一回試し読みをじっくり見て好みの本を探そうとか、そういう行動につながりやすい。

出店者数500を超えてくると、会場のキャパやら、試し読みコーナーに割り当てられる面積やらの都合次第で、試し読みコーナーに集まる本がごちゃつきやすい。
埋もれるリスクが高まると同時に、出店数が多いから見て回る範囲を限定する人も増える。
事前PRの重要性が高まり、その日・その時・良い本を並べても目に留まらない可能性が上がり、不公平感を呼ぶ……

まぁ、これは個人の意見ですし、500が分水嶺として妥当なのかもハッキリしません。
SNSのフォロワー53万、チャンネル登録者数53万、発行部数53万みたいな、戦闘力53万の大物出店者さんならば、どこに参加しても無双できそうですし。

試し読みコーナーで埋もれないためにできること

経験として、本のサイズが小さい(文庫本だと特に…)と、ずらーーーっといろんな試し読みの本が並ぶ空間では埋もれやすいと感じました。

見本誌を提出して、置き場所に設置したときは良い位置に並べられたとしても、それはずっと同じ場所に置かれているとは限りません。
試し読みコーナーにも人の出入りがあり、いろんな人が思い思いの本を手に取っては戻すを繰り返します。
元の場所に戻すよう心がけても多少のズレは起こりますし、混雑して人に場所を譲ると元の場所が分からなくなる可能性もあるでしょう。
結果、本が重なってしまったり、埋もれてしまったりが起きるのも無理からぬことです。

重なった上にある本は見つけてもらえますが、下にある本は埋もれてしまい、もう誰の目にも留まらないかもしれません……
(このあたりのことについては、試し読みコーナーの面積と出店者数に合わせて、1出店者が提出できる本の数を変動させてはどうかと、事務局へ意見を送っています)

試し読みコーナーのスペース確保や、1出店者あたりの提出冊数については事務局側が決めることなので、こちら側ではどうすることもできません。
なので、今個人ができる対策としては、提出する見本誌を工夫するしかないでしょう。

本の装丁にこだわる

試し読みコーナーで埋もれないためには、より多くの人に「あの本は何だろう?」と思って、手に取ってもらう必要があります。
常に誰かが手に取る状態ならば、下に埋まっていくリスクを低減する効果が期待できます。

  • 美麗な写真やイラスト、目を引くアートなどを表紙に使う

  • 思わず手に取りたくなる用紙を使う

  • 珍しい加工を施す

などの方法が考えられますね。美しいもの・珍しいものは心惹かれる人が多いですから。

ただ、装丁にこだわりだすと、制作費用はアゲアゲ青天井
大富豪の道楽ならば豪勢な本もジャンジャカばかばか作れるでしょうが、そのような方は限られます。

それに、作品の内容と本の装丁が一致しないのも問題です。
珍しい装丁のコレクションとして手にする人なら気にしないかもしれません。
でも、装丁からどんな作品かをイメージして、内容を期待した人からすると、この不一致は裏切りのようなもの……。

ふんわりキュートなイラストと、キラッキラな特殊加工から、ラブやときめき全開の物語を期待して読んでみたら、お堅い文体で展開する軍記物で血と鉄の匂いが充満する物語だったなら……そっ閉じ案件ですね。(その逆もしかり)
スイーツバイキングのつもりで来たのに、生け簀から魚を釣って自分で焼くスタイルの居酒屋だったみたいなもんでしょう。
どうしてこうなった!
他の作品と表紙と中身が入れ替わる印刷事故
が起きたのではと、疑われる事態です。

その1回は手に取ってもらえても、作品のファンになってはもらえないかもしれません。

私だって予算の問題さえクリアできれば、特色フルカラー表紙にホログラムPPとレアな箔押し、小口に美麗な文様をあしらってスピンも付けちゃう豪華な本を作って目立ちたいです!
でも、その装丁が似合う作品を書ける気がしない!

キャッチーなタイトルを付ける

装丁へのこだわりも良いですが、タイトルも大事な要素ですね。
同じ内容でも、タイトル次第で手に取ってもらえるかどうかは大きく変わると思っています。

ジャンルや作風にもよると思いますが、タイトルの解像度が低いと、テーマが分かりません。
でも、作品のテーマや舞台、展開を連想させるタイトルだと、ターゲットに訴求しやすいでしょう。

たとえば、何気ない日常のエッセイを出すとして『日々の話』みたいな、そのまんまのタイトルでは心を掴む要素は薄いんじゃないでしょうか。

何気ない日常を書くのであっても、エッセイ内に登場する印象的なワードを加えて、どんな話題が出てくるのか、書いている人はどんな人なのかが見えたほうが、目に留まりやすいと思います。

タイトル案1:婚活、結婚、離婚、おひとり様。そんな日々の話。
結婚に絡んだエピソードと、現在の生活とを綴るエッセイのタイトル案です。

タイトルを目にした人は「いろいろあったけれど、現在、1人で暮らす道を選ぶまでのことを書いているのかな?」「ライフイベントとライフステージの変化について、リアルな体験が読めるのかな?」と、具体的なイメージが持てるでしょう。

タイトル案2:賢い猫様にお仕えするアラフォーひとり暮らしの日々
猫様と出会い、お迎えし、楽しい下僕ライフを満喫するエッセイのタイトル案。
先ほどの例と同じく、書いている人が現在どんな状態で、どんな内容が出てくるかイメージできますね。

「動物エピソードかな?」「猫飼いあるあるが読めるのかな?」「おひとり様でも猫様がいたら寂しくないよね!」「自分も猫を飼ってるから親近感わくなー……」などと思ってもらえそうです。

タイトル案3:ブラック企業10社を渡り歩いてきた日々の話
職場に恵まれず、転職を繰り返してきた自分の半生を振り返るエッセイのタイトル案です。

「えっ?10社も?」「どんだけブラック企業が出てくるんだ!」「てか、なんで何度もブラックなトコで働いているんだ!」って、気になって、二度見必須ですね。

しかし、タイトル付けもなかなか難しいもの。
奇をてらうタイトルを付けても、装丁と同様、内容と乖離があっては問題ですからね。

『はなり亭で会いましょう』っていうタイトルは、果たしてベストなタイトルだったんだろうかと、書き終えてから時々考えてしまうのです。
(作中でタイトル回収したからヨシ、ではあるんですけど)

本の見どころを分かりやすくする

装丁とかタイトルとかは、本を作る段階で考える施策です。
既に作ってしまった本の装丁やタイトルは変更できません。
在庫を処分して作り直すのかという問題になってしまいます……

装丁やタイトルで目立たせる工夫は新刊を作るときに考えるとして、では今さら装丁やタイトルを変えられない既刊はどうやって埋もれさせないようにするか?

本に少し手を加え、見どころを分かりやすくするのは良い方法ではないかと思いました。

見どころにインデックスを付ける作戦をやってみた

実際、試し読みの本に付箋やインデックスを貼り付けている方をほかでお見受けましたし、これは今すぐ既刊本で実践できるのではないかと!
パクり参考にさせていただきます。

悔いなきように、やれる範囲でベストを尽くしましょう

何処までこだわれるか、工夫できるか。
これは個人差があるので難しいですね。

自作品のプロモーションにすごく力を入れている方々を見ると、自分は作品への愛情が足りないのではないかと不安にもなります。

でも、そもそもは趣味で活動していること。
そこにどれだけ手をかけられるかは違って当然ですし、アレもやらなきゃ、コレもやらなきゃと義務感が先立ってしまうとしんどいです。

他者と比べすぎず、自分にできる範囲で、でも悔いなきように楽しく頑張るのが正解かなと思います。

恐らく……ちょっとインデックスを貼った程度では、試し読みコーナーで目立つのは難しいと思っています。
東京はもちろん、間近に迫った京都と9月の大阪あたりの規模だとね。
広島・岩手・香川・札幌・福岡は落ち着いて見てもらえる可能性が高く、見本誌を目立たせる効果もより期待できるのではと予想。

答え合わせは2025年の活動を振り返る頃、やることにしましょう。

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読酌文庫/朔
果てしない自由の代償として、全て自己責任となる道を選んだ、哀れな化け狸。人里の暮らしは性に合わなかったのだ…。

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