カタールに咲いた冬のヒマワリ
それから7カ月後、11月下旬のハイデルベルクにて
ひまわりのマーケットリーダーは日本の種苗会社
「ひまわりのマーケットリーダーはTAKIIとSAKATAです」
先生が発したその一言でたるみきっていた意識ががばっと覚醒した。来夏の資格試験に向けて我ら受験生は代表的な鉢物(シクラメンとかビオラなど)と切り花(バラなど)について種まきから収穫、販売までの一切を知らなければならない。
フィギュアスケートで例えるならばショートプログラム演技みたいなもの。好き嫌い、育てた経験あるなしに関わらず、頭に叩き込まなきゃいけない。審査員がそうお望みならばどんなジャンプだって回転だってこなしてみせましょう!くらいの気合で授業に参戦してはいるものの、お昼をしっかり食べた後の集中力は限りなくゼロに近い。
しかも真冬に真夏の代名詞のようなヒマワリの授業ってどうよ、なんて愚痴りそうな矢先に聞こえてきた言葉はどんな強いコーヒーよりも効き目があった。
えっ?先生、今なんておっしゃいました?
ゆるゆる状態をシャキーンとリセットしてホワイトボードに映し出されたテキストを見ると間違いない、TAKIIとSAKATAとある。もしやこれは日本人におなじみの「サカタのタネ」と「タキイ種苗会社」?
庭師の末席にいるモノとして私もサカタとタキイが欧州、いや世界各地に拠点を持って展開しているという事実は知っていた。でも菊とか和風ものならいざしらず、ヒマワリでマーケットリーダーなんて...ちょっと意外じゃありません?
観賞用ヒマワリくんは健康、イケメン、サニーボーイ
だってヒマワリといえば私が思い浮かべるのはウクライナとか中東みたいなイメージだったりする。ソフィア・ローレンが主演の映画「ひまわり」はウクライナが撮影舞台だったし、ヒマワリ油が春から夏にかけてドイツのスーパーから消えたのはウクライナ戦争の影響だった。それに袋一杯に入ったヒマワリの種を殻を吐き出しながら食べる人を何度か見たことがあるけれど、それはみな顔の濃い人たちばかり。もし私が連想ゲームに出場するようなことがあって『ヒマワリ』『国』って誰かに言われたら絶対それらの国を挙げたと思う。
それなのになぜ日本の会社が??疑問はとけぬまま、授業はさっさと進んでいった。「マーケットの求めるヒマワリは①耕作地での安定感②花と茎の結節点が固くて力強い(花がガクッとうなだれてはいけない)③保冷庫で保存がきく④くっきりとした均一の色合いと舌状花と呼ばれる外側の花びらが密集している⑤花と茎と葉のバランスが取れているーという条件を満たした品種です」とよどみなく先生のお話は続く。
なるほど健康的なイケメン、サニーボーイみたいなヒマワリが求められているわけね。そうだった、よく考えてみれば授業で取り扱っているのはあくまで花瓶に生ける観賞用。そこで代表的な品種として紹介されたのがサカタ家のヴィンセントシリーズくんとタキイ家のサンリッチシリーズくんだった。
ヒマワリにサッカー日本代表の活躍を重ねる
そしてこのヒマワリの授業を終始私はとってもご機嫌さんで受けていた。なぜ?理由は前週に、テレビで何度も映された光景がその時に心の中によみがえってきたから。
人間と花を一緒にしちゃいけないんだろうけれど、ドイツの花業界でがんばっているヒマワリがドイツ戦のポイントゲッター、堂安律選手と浅野琢磨選手に重なったのだ。ライオンのたてがみのように髪の毛を金色に染めた彼らは私にとってはまるでカタールに咲いた冬のヒマワリ。格上相手にぶつかっていくそのプレーはひまわりの黄色いビタミンカラーのように日本のみんなに元気を与えてくれた。
グローバル化の時代に国がどうのこうのって物差しで測るのは時代遅れだとは承知している。それでもサッカーにせよひまわりにせよ、日本を背負っている者(モノ)が活躍しているのを見ると、どうにも島国根性から抜け出せない私はうれしくなってしまうのだ。
べと病耐性品種でマーケットリーダーに
授業後、インターネットで調べたら2015年のタキイ種苗のニュースリリースに「世界初の観賞用切り花ヒマワリのべと病耐病性品種『F1ⅮMRサンリッチオレンジ』を日本国内で新発売」とあった。
べと病はひまわりがかかりやすいカビ由来の病気で、葉っぱの表に黄緑の斑点と裏側には白い菌糸が密集する症状が出る。梅雨のようなジメジメ、ムシムシした過湿な条件下で起きやすく、耐性を持つ品種は農薬をまく頻度を減らせて、生産者にはとってもありがたい。画期的な品種を送り出せたのが実のところマーケットリーダーに踊り出た要因らしい。。
ベスト8以上という悲願こそはかなわなかったけど、ほどんど誰もが負けると予想していたドイツ相手に(そしてスペインにも)勝ってビックサプライズを起こしてくれた日本代表チーム。強豪に必死に食らいついて戦うその姿は見る者の心を奮い立たせてくれた。
「新たな風景」に向けて挑戦は続く
2026年のワールドカップ開催地は米国とメキシコはともに、ヒマワリの原産地でもある。その地に立って「新たな風景」をとまた挑戦をはじめる若者たちに触発されながら、私もまた気持ちを新たに、自分の決めた目標に向かって歩いていこうと思う。
フォローしてくださっている方、読んでくださる方、今年もどうぞよろしくお願いいたしします。
(表題のヒマワリの絵はミュンヘンのノイエ・ピナコテーク所蔵のヴィンセント・ヴァン・ゴッホ作「ひまわり」)
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