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レンズ豆を硬貨に見立てる~新年の福をよぶエルツ山地のクリスマス料理、ナイナラ

クリスマスと年末年始シーズンは家族や友人と一年を振り返りながら楽しく食卓を囲む季節。なので誰と話してもお祝いになにを食べるか、食べたかという話題で盛り上がります。
「イブはソーセージにザウアークラウトがウチの定番で、ごちそうは翌日に」とか「今年は甥の所に招かれていて、奥さんがポーランド出身だから魚のフォンデューを食べるんだ」などなど。それぞれのお家の伝統や出身地(国)の郷土食を知ることができてとっても楽しいのです。
 
まちまちなのでこれを食べるのが正解!というものはないドイツのハレの日の料理ですが、2024年の締めに6年前に食べた日本のおせち料理をちいと彷彿とさせるエルツ山地の招福クリスマス料理を紹介します。


 
アンナベルクブーフホルツ(Annaberg-Buchhoiz)はドイツの東部ザクセン州にあって、チェコとの国境近くにあるエルツ山地の一番人口の多い町です。駅から広場に向かって歩いていくと、駅や家々の窓辺やそこかしこにをシュヴィッブボーゲン(Schwibbogen)と呼ばれるこの地方特有の半円形の飾りがが見えます。


アンナベルクブーフホルツ駅にて


半円形(坑道)の中にかたどられているのは鉱夫やボビンレースを編みの女性の姿というこの地域の歴史と文化を伝えるモチーフ。エルツ山地はその昔、銀、鉄鉱や錫などを産出する鉱山で栄えた地域です。鉱物市場の価格変動で収入が不安定なため、鉱夫やその家族は副業としてボビンレースを編んだり、また木を彫ったり、ろくろで挽いて木製の工芸作品を作るようになりました。そうして天使やクルミ割り人形、動物といった木製のクリスマス飾りやおもちゃは有名になり、シーズンになると世界各地から「クリスマスの国」に観光客が押し寄せます。
 
町中心に立つクリスマスマーケットにはもうもうと湯気があがる屋台が立ち並び、真ん中には巨大なピラミッドと呼ばれる飾りがででんと立っていますが、これもまたこの地方ならではのもの。


ピラミッド


屋台をしばし冷やかしつつ、12時の鐘とともに市庁舎の隣にあるお目当てのレストランに飛び込みました。。



このレストランで供されるのは店名と同じ”Neinerlaa”(ナイナラ)という料理です。席に案内されてまずはメニューをじっくり眺め、5種類あるコースの中からメイン料理にガチョウ肉が供されるコースをオーダーしました。(ちなみにこれが一番お高こうございました)
 
だんだん込み合ってきた店内を手際良くさばく若いボーイさんが運んできたのは、ガチョウ肉が真ん中に陣取り、それを取り囲むように作られたくぼみの中に種類の違う料理が盛りつけられ、9品が楽しめるNeinerlaa(ナイナラ)。標準ドイツ語だと9はノイン、方言がまじってこのような名前になったようです。

あと9はキリスト教で三位一体など特別な意味を持つ3を3倍にしたトリプルラッキーな数です。


なんだ、ちょこっとずつおかずをのっけただけじゃんと思った方。ちょっとお待ちくだされ。この料理を特別なものにしているのは一品ごとに意味や願いが込められているからなのです。では一つずつ見ていきましょうか。
 
1.赤キャベツ
一番手は酸味を利かせた赤キャベツの煮込み。ドイツ語の酸っぱい(辛い)人生にならないように、という願いがこめられた一品。

赤キャベツ

2.ビーツサラダ
二番手は赤いほっぺたで美しく健やかにと赤ビーツのサラダ。
 
3.根セロリ(セロリアック)のサラダ
お次は白い根セロリのサラダ。根セロリは性欲と多産にきくという特性を生かした、つまり子孫繁栄を願うメニューです。


根セロリ


 
4.レンズ豆のスープ
こんもりと盛られているのはレンズ豆のスープ。これはレンズ豆の平たく丸い外見を硬貨として「小銭」に見立てたものです。

レンズマメ


チャーリー・チャップリンが映画で言ったじゃないですか。「人生を恐れてはいけない。勇気と想像力とほんの少しのお金さえあれば生きていけるんだ」と。そんな感じがレンズ豆のスープとして表現されています。
ちなみにクリスマスあるい大みそかにお金の縁起をかついでレンズ豆のスープとソーセージという組み合わせで食べる風習がほかの地域でもあるようです。
 
5.イモ団子
小さいお金も必要だけれど、願わくば一攫千金も、ということで5品目は大きな富を表すジャガイモ団子。巨万の富が手に入ったならば、って夢を見るのが庶民というもの。

かわいらしい手毬のような芋団子

6.カモの煮込み
そして真ん中に載ったメインディッシュの焼いたカモ肉もまた、裕福な生活の象徴だったり、幸運が逃げていかないようにという意味だそう。


カモ肉


 7.焼きソーセージ
小さなソーセージは元気や強さのシンボル。


からしが下にちょっとついてます


 
8.甘いパンスープ(アーモンドスティック付き)
砂糖で甘く味付けした牛乳に白パンをひたしたパンスープは家族の絆を強め、上に乗っかったアーモンドは日常がつつがなく過ごせるようにとの意味をこめて。


9.リンゴのコンポート 

そして締めはリンゴを甘く煮てバニラソースをかけたコンポート。デザートがお楽しみであるように、この1品も「人生の喜び」を表しています。


シナモンがきいてます

この料理はまさに日本でいうお節料理。まめまめしく働けますように→黒豆、豊作を願う→田作り、お金が貯まる→栗きんとん……とお節料理に日本人が縁起をかつぐように、食材は変わってもナイナラにもまたエルツ山地の人々の来る年への思いがいっぱいあふれています。


エルツ地方の料理と歴史について書かれた本によると、この地方では偶数の人数分だと家族の誰かが不幸になるという言い伝えから「これから来るかもしれないお客さん用」とを合わせて奇数人数分のテーブルセッティングをしたり、クリスマスイブの18時には家族全員が全てが準備された席に着き、家庭の主婦も含めて誰も食事の間は席を立ってはならない、幸運が逃げていかないようにイブの夜に使ったお皿や一切は洗わないなどなどのルールがあった(る)ようです。
 
またこのレストランで供されたのはあくまで一例。一品ごとに込められた願いや意味は変わることもあって、また赤キャベツの代わりにザウアークラウトが出されたり、と家ごとにいろんなバリエーションで9種類が構成されるようです。
 

色んなことがあった2024年が終わろうとしています。いつも私のnoteを読んでくださってありがとうございます。来る年が皆様にとって少しでも明るいものになりますように。そしてまた来年もどうぞよろしくお願いいたします。
 

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