食文化への冒涜だ
今日は道の駅に立ち寄ってみた。
というのも今月になって営業許可を取らないと販売できなくなった漬物の事が気になっていたからだ。
はたしてお店に入って冷蔵ケースにいつも入っていた浅漬けや梅干し、沢庵などの漬物はきれいさっぱり無くなっていた。
漬物売り場はガランとしておりいかにも不自然な光景だった。
なぜこんな事態になったかというと以前に北海道で浅漬けによるO-157の死亡事故が起きたことを受けて保健所が食品衛生法の改正に踏み切ったのがきっかけで今から三年前の事である。
その際に国際的な安全基準であるハサップに合わせて非常に厳しい基準が設けられた。
例えば調理場は営業専用として家庭の台所との兼用はNG。
手洗い設備の水道は手で捻る蛇口式は禁止して足でペダルを踏むか自動センサー式の物でないと駄目だとか、温度計のついた冷蔵庫以外の使用は認めないと禁止事項は枚挙にいとまがない。
私は道の駅や直売所で売っている添加物が一切入っていない梅干しやキムチ、浅漬けの大ファンだったので今回の事態は非常に納得できないものがある。
一応食品衛生法改正から三年間の準備期間が与えられていたと言うが基準をクリアするための設備投資には数百万円単位のお金が必要であり、細々と漬物を作っていた人がおいそれと払える額ではない。
例えばスーパーなどに並んでいる大手メーカーの梅干しの商品表示を良く見てもらえばわかるが添加物まみれで防腐剤も使われている。
減塩を謳っているものほどその傾向が強い。
道の駅で細々と売られていた梅干しなんかは塩分濃度は十五パーセントはあるようなストロングスタイルだった。
こういう本物の梅干しはよほどずさんにしていなければ痛むことはない。
インターネットのニュースにも載っていたが、これまで何十年も同じやり方でコツコツやってきたが問題が起きたことは一度もなく無理に国際基準に合わせて設備投資が出来なければ廃業しろというやり方には到底納得できないという生産者さんの心からの嘆きに深く共感した。
一見すると何だ手作りの漬物が無くなるだけじゃないかと軽く考えがちであるが、例えば秋田のいぶりがっこ、東京名物のべったら漬け、長野の野沢菜漬け、京都の千枚漬け、熊本の高菜漬けなど全国にある「ふるさとの味」がすべて消え失せてしまう可能性が高いと思うと大問題である。
資本力のある大手メーカーなどは対応が可能でこれからもこれからもそういった品物が店頭に並ぶとは思うがいわゆる「手作りの味」とはかけ離れている。
そもそも事の発端は衛生管理に問題があった浅漬けだったはずなのに一律に日本中の全ての漬物を取り締まるのは愚行だと思う。
もっとはっきり言えば食文化の破壊以外の何物でもない。
全国の小規模ながら真面目に漬物作りに取り組んできた方たちをないがしろにする行為で非常に腹立たしい。
私は今年に入ってぬか漬けを漬けはじめたがこれがなかなか奥が深くて毎日ぬか床をかき混ぜると愛情が沸いてくる。
素人の私でもそうなのだから何十年も漬物を作り続けてきたプロの方の無念はいかばかりかと思う。
もちろん保健所には保健所の言い分があると思うが何でもかんでも国際基準に合わせる必要はなかったのではと疑問が残る。
私にしては珍しくまともに憤りを感じている。
もう少し何とかならなかったものかとため息が出る。
漬物は何百年も続いてきた日本の伝統であり文化なのでこれをいとも簡単に壊してしまったお役所の罪は重いと思う。
その裏に何となく利権の臭いまで感じられてしまうのは私がうがった考えをしているのだろうか。
何にしても道の駅で漬物めぐりが出来なくなったことは痛恨の極みである。
ああ、本当にやるせないし腹が立つ。
漬物は梅干しはクエン酸の宝庫だし、ぬか漬けは乳酸菌の塊である。
作り方さえしっかりしていれば保存食である漬物が体に悪かろうはずはない。
個人商店や田舎のお婆ちゃん達が細々と作ってきた本物の味が幻になったことは本当にもったいないの一言に尽きる。
この先あまりにも基準が厳しすぎると言う事で規制が緩和されることを切に願う。
地元でとれた新鮮な野菜を丹精込めて漬け込んだ素朴な品がもう食べられなくなったという現実を皆さんに知っておいてもらいたい。
こうなったら添加物を使わない安心な漬物を口にするには自分で漬けるしかなくなってくる。
とりあえず今の時期なら梅干しからか。
冬には沢庵を仕込んでみよう。
自分で作って食べる分には問題ないですよね、保健所さん?
よし、梅干しと瓶を買って来よう。
漬物文化が絶えないように一人でも抵抗を続けてやろうじゃないか。