牛丼は梅雨に。

雨の日、特に梅雨って
太陽が出ていないのに蒸し暑い。
べとべとして、髪がうねって、もう最悪。
服も濡れるし、鞄も痛む。

大学の研究室で、来週発表する資料の作成に目処が立ったし、雲行きも怪しかった。まだ夕方の四時だったが、わたしは帰宅することにした。

外に出て階段を降り、大量の自転車が無造作に押し込まれた駐輪場へと向かった。
赤くて細くて小柄なクロスバイクは見つけるのが簡単だ。
サドルに跨ると、待っていたかのようにポツンと一粒雨水が落ちる。続けて2滴目すぐに3滴目。濡れた箇所が分からなくなるのには、そう時間はかからなかった。お腹が空いたので帰り道の途中のすき家に駆け込んだ。

わたしは席に座り、濡れた鞄を軽く拭いて横に置いた。全身しんなりとした服や腕を見て、なにか懐かしいものを感じた。


大学の友人がドイツ留学に行く前の話だから
一年近く前になるかな。

サークル終わりにすき家に行くのが恒例だった。

その日も雨だった。  

日が沈んだかも分からない梅雨の薄暗い雲の下、ペダルにかけた足をいつもより少しだけ早く動かした。時々立ちながら、これから強くなりそうな雨から逃げる。二の腕がひんやりとする。ハンドルを握る手を、空から落ちてきた雨水が流れる。

私たちはすき家に着くと、
いつも通り「牛丼の並」を注文して、
いつも通りスプーンで食べた。

でもその日は、何か違う、特別な感じがした。
「あれ、、?死ぬほど美味い。」
私たちは互いの表情を見合い、
そして、牛丼を喉に流し込んだ。

夢中になってほおばった。
「おいしいね」「おいしいね」
そう確かめるように、
暫く言い合っていた。

雨の日は、確かにきらいだ。
せっかく書いたアイラインも、
時間をかけたベースメイクも、
洗ったばかりのジーンズも、
何もかもお構いなしに駄目にする。
それに加えて体も冷える。

それでも確かにわたしは
この日からほんの少しだけ雨が好きになった。

だから今日も牛丼を食べる。
今年は山芋とわさびで味変してみる。
でもやっぱり、濡れた服と少し臭くなった髪を纏った日には
何も飾らない牛丼を食べたい。

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