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『テストステロン』と女子スポーツの公平性

パリ五輪での騒動がきっかけというわけではなく、前から気になっていたキャロル・フーベンの『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』を読んだら、今まさに関心があるようなことがたくさん書かれていたので驚いた。

ずばり結論からいうとめちゃくちゃ良かったです。
ちょっと生化学や生理学や発生学っぽい内容もあるので万人向けではないかもしれないけどわたしにとっては☆5!
とても情報量が多いし、ずっと知りたかったような内容が書かれていたので3300円はもはや実質無料。
これを原著で読んですんなり理解するのはわたしには難しかっただろうから翻訳出版してくださってありがとうございます。
翻訳者の坪井貴司さんと出版社の化学同人さんに感謝です!!😭🙏🏻


2024年パリ五輪の女子ボクシング参加資格をめぐる問題

2024年パリ五輪の女子ボクシング競技に出場している女子66㎏級のイマネ・ケリフ選手と女子57kg級の林郁婷(リン・ユーティン)選手に対して、IBAの声明がきっかけとなってか、さまざまな憶測が飛び交っている。

IBA(国際ボクシング協会)の声明

IBA(国際ボクシング協会)はこう発表している。

2024年7月31日 2023年世界ボクシング選手権におけるアスリートの失格に関する国際ボクシング協会(IBA)の声明

国際ボクシング協会(IBA)は、現在の状況において、林郁婷とイマン・ケリフの選手に関する最近のメディアの声明、特に2024年パリオリンピックへの参加について、対応することが適切であると考えています。
以下の点を明確にしたいと思います。
2023年3月24日、IBAは、IBA女子世界ボクシング選手権ニューデリー2023から林郁婷とイマン・ケリフの選手を失格としました。この失格は、IBA規則で定められた女子競技への参加資格基準を満たさなかったことが原因です。この決定は、慎重な審査の結果なされたものであり、競技の公正さと最高の誠実性を維持するために非常に重要かつ必要なものでした。

注目すべき点として、選手たちはテストステロン検査を受けていませんが、別の認められた検査を受けており、その詳細は機密とされています。この検査は、両選手が必要な参加資格基準を満たしておらず、他の女性競技者に対して競争上の優位性を持っていることを示しました。

IBAが2023年3月24日に下した決定は、翌日3月25日にIBA理事会によって承認されました。この決定の公式記録はIBAのウェブサイトでアクセスできます。失格は、以下の2つのテストに基づいて行われました。
・2022年イスタンブールでのIBA女子世界ボクシング選手権中に実施されたテスト。
・2023年ニューデリーでのIBA女子世界ボクシング選手権中に実施されたテスト。

明確にするために
・林郁婷はIBAの決定をスポーツ仲裁裁判所(CAS)に上訴しなかったため、決定は法的に拘束力を持ちます。
・イマン・ケリフは当初CASに上訴しましたが、プロセス中に上訴を取り下げたため、IBAの決定も法的に拘束力を持ちます。


私たちの委員会は、世界選手権中に下された決定を厳密に審査し、支持しました。IBAはすべてのイベントで競争の公正性を確保することにコミットしていますが、オリンピックを監督する組織を含む他のスポーツ組織による資格基準の不一致な適用に懸念を表明します。

これらの問題に関するIOCの異なる規則は、競争の公正性と選手の安全性について深刻な疑問を投げかけます。IOCが競争上の優位性を持つ選手がイベントに参加することを許可する理由についての説明を求める場合は、直接IOCに問い合わせることをお勧めします。

https://www.iba.sport/news/statement-made-by-the-international-boxing-association-regarding-athletes-disqualifications-in-world-boxing-championships-2023/
機械翻訳

2024年8月1日
IBAは、すべてのイベントからボクサーを除外する立場を再確認し、女性ボクサーを保護することを目指し、国際オリンピック委員会と世界ボクシングが資格のない選手の競技を許可していることを非難します。

昨日のIBAの声明に続き、全てのIBA女子競技から資格のない選手を除外することについて、我々の立場と確固たる姿勢を改めて表明します。

IBAはすべてのイベントにおける競争の公正性を確保することに尽力しており、2024年パリオリンピックのボクシング競技における資格の不一致を断固として非難します。繰り返しになりますが、イマン・ケリフと林郁婷の両選手は、テスト後に我々のイベントの女子カテゴリーで競技するために必要な資格基準を満たしていませんでした。

IBAが2023年3月24日に下した決定は、翌日3月25日にIBA理事会によって承認されました。この決定の公式記録はIBAのウェブサイトでアクセスできます。この決定の緊急性は、ボクサーの安全が最優先であるために正当化されました。

失格は、以下のように2つの独立した研究所で行われた信頼できる2つのテストに基づいていました:
・2022年イスタンブールでのIBA女子世界ボクシング選手権中に実施されたテスト。
・2023年ニューデリーでのIBA女子世界ボクシング選手権中に実施されたテスト。

明確にするために:
・林郁婷はIBAの決定をスポーツ仲裁裁判所(CAS)に上訴しなかったため、決定は法的に拘束力を持ちます。
・イマン・ケリフは当初CASに上訴しましたが、プロセス中に上訴を取り下げたため、IBAの決定も法的に拘束力を持ちます。


上記の決定に加え、イマン・ケリフの競技を許可したことを知りながら、オリンピック運動を支援することを唯一の目的とするWORLD BOXINGは、資格のない選手が自らの新たに発表したイベントで競技することを同様に支持し強化しました。

驚くべきことに、WORLD BOXING 2024 USAボクシング国際招待トーナメントでは、ケリフが2024年4月16日に決勝に進出し、さらにWORLD BOXINGが支援するアイントホーフェン・ボックス・カップが2024年5月18日に開催されました。
競技場(FOP)内で大怪我をする可能性があるのに、なぜボクサーを危険にさらす団体があるのか、我々にはまったく理解できません。リング内でのレフェリーの主な役割は、常にボクサーの安全を管理することです。ボクサーが競技するための資格基準を満たしていない場合、これがどのように合理的に実行可能なのでしょうか?

IBAは、選手の安全と福祉を最優先に考えているため、性別(gender)を超えたボクシングの試合を一切支持しません。我々は女性と彼女たちが平等なライバルとリングで競技する権利を守り、すべての状況で彼女たちを守り支援します。彼女たちの希望と夢が、困難な状況で正しいことを行う意思のない組織によって奪われることは決してあってはなりません。IBAはその立場を堅持し、ルールの精神に則ってすべての選手を支援し続けます。

https://www.iba.sport/news/statement-made-by-the-international-boxing-association-regarding-athletes-disqualifications-in-world-boxing-championships-2023/
機械翻訳

IOCの説明

IBAの声明に対してIOCはパリ2024ボクシング部門とIOCの共同で「アスリートの性別と年齢はパスポートに基づいています」と説明している。
以下の投稿にもあるように、IOC会長のバッハ氏の発言にも混乱がみられている。

訂正
本日のIOC - パリ2024記者会見において、IOC会長のバッハ氏は次のように述べました:
「しかし繰り返しますが、これはDSD(性分化疾患)のケースではありません。これは女性が女性の競技に参加することについてであり、私はこのことを何度も説明してきたと思います。」

意図していたのは以下の通りです:
「しかし繰り返しますが、これはトランスジェンダーのケースではありません。これは女性が女性の競技に参加することについてであり、私はこのことを何度も説明してきたと思います。」

https://x.com/iocmedia/status/1819667573698445793の機械翻訳

「IBAでは失格になった選手がIOCでは参加が許可されている」というように、参加基準が違うのはいったいどういうことだろう。

2024年8月3日に公開された以下の
「五輪女子ボクシングのXY選手: 2024年パリ大会の論争について
(イマネ・ケリフとリン・ユーティン事例の歴史的、政治的、医学的背景)」という記事に概要が書かれている。
執筆者のDoriane Lambelet Colemanさんはスポーツ法学者。

この記事によると渦中の選手たちは女性カテゴリーに不適格となるべきDSDを持っているのか、現在はいくつか異なる見解がある状態のようだ。

1.信頼性に欠けるとされるIBAからのもの:ケリフとリンは女性カテゴリーに不適格となるべきDSDを持っているというもの。つまり、IBAまたはその代表者は、彼女たちが遺伝的に男性であり、男性の優位性を持っている。
2.ソーシャルメディアや一部の報道で流行しているもの:証拠なしにケリフとリンが完全に女性であり、XX染色体や卵巣を持っている。
3.IOCの現在の立場を慎重に解釈:ケリフとリンは男性の優位性を持つXY DSDを有している可能性があるが、出生時に女性と認識され、現在も女性として認識されているため、彼女たちは女性である

https://quillette.com/2024/08/03/xy-athletes-in-womens-olympic-boxing-paris-2024-controversy-explained-khelif-yu-ting/
Do Khelif and Lin have DSD that should make them ineligible for the female category?より抜粋して翻訳

今回のnote記事では『テストステロン』に書かれていたことを中心として、女子スポーツの公平性についての複雑な状況を理解する手助けになりそうなことを記載する。

性分化の機序とDSD

パリ五輪女子ボクシングの話題において
・DSD(性分化疾患)
・CAIS(complete androgen insensitivity syndrome:完全型アンドロゲン不応症)
・PAIS(partial androgen insensitivity syndrome:部分的アンドロゲン不応症)
・5-ARD(5-‪アルファリダクターゼ欠損症、 5-アルファ還元酵素欠損症)
・Male puberty(男性の思春期)
などの横文字が多く、議論が分かりづらいことがあったのだが、性分化の機序とともにどの変異によってその疾患が生じるのかが分かったことで解像度があがった。

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』の「3章:テストステロンをひとさじ」ではCAISが発生する原因、「4章:頭の中のテストステロン」では5-ARDが発生する原因について書かれていた。

性分化の機序

まず最初にヒトの胚が性分化する仕組みから説明する。

【高校生物の復習】
遺伝子の発現とタンパク質合成の仕組み(セントラルドグマ)について
セントラルドグマは、遺伝情報がどのように流れていくかを示す生物学の基本的な原則です。この概念は、1958年にフランシス・クリックによって提唱されました。

セントラルドグマの流れ

セントラルドグマは、遺伝情報が次のように一方向に伝達されることを示しています:
DNAからRNAへの転写:DNAに含まれる遺伝情報がRNAにコピーされる過程です。これは細胞の核内で行われます。
RNAからタンパク質への翻訳:RNAが細胞質に移動し、リボソームでアミノ酸が組み合わされてタンパク質が合成される過程です。

※ここはAIのperplexityに書いてもらいました

翻訳されたタンパク質がほかの染色体上に存在する遺伝子の転写率を増加(アップギュレート)または減少させて、RNAへの転写とタンパク質への翻訳を繰り返して、細胞は分化すなわち特定の機能を持つように変化する。

卵巣/精巣が形成される前

生殖器の始まりの組織はどちらの性の生殖器にもなれる。
(※以下**ではさまれている部分はイタリック)
Y染色体とY染色体上に存在する*SRY*(Sex-determining region of the Y chromosomeの略)遺伝子がきっかけとなって、
Y染色体の*SRY*遺伝子→SRYタンパク質→17番染色体の*SOX9*遺伝子→SOX9タンパク質→始原生殖細胞を構成する細胞(セルトリ前駆細胞)内のほかの遺伝子の発現を変化させる
という過程を経て、*SRY*遺伝子は、始原生殖戦の細胞内で特定のタンパク質の産生を引き起こし、始原生殖腺を構成する細胞群は卵巣でなく精巣を形成するように分化する。(『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』p.77~p.78)。

しかし上記の過程においてセルトリ前駆細胞にSRYタンパク質が高レベルで発現していなかったり、*SOX9*やその他の精巣を形成するのに重要な遺伝子が機能しない場合、XY染色体を保有する場合でも、卵巣が形成される。このような場合、胎児は女性として成長するが、成人しても卵巣は完全に機能しない場合がある。
つまり、個々の性別は、必ずしも性染色体と一致するわけではない。言い換えると、精巣や卵巣の形成を引き起こす特定の遺伝子の発現パターンがどのようになっているかによって左右される。

卵巣/精巣が形成された後

発生初期にはウォルフ管(精管や前立腺など男性の内生殖器へと分化する)とミュラー管(卵管、子宮、輸卵管など女性の内生殖器へと分化する)が存在するが、
・ミュラー管:精巣から分泌されるミュラー管抑制ホルモンを受け取ると退化する
・ウォルフ管:精巣から分泌されるテストステロンを受け取らない限り退化する
つまり男性の内生殖器系はホルモンによる刺激が必要なのに対して、特定のホルモン刺激がなくても女性の内生殖器系が発達するように初期設定されている。(『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』p.80~p.81)

女性を作り出すのは、男性よりも、多くの点で非常に簡単である。それはホルモンの情報がなくても、外見的な構造は、女性として発達する。(ただしジェニーに精巣が形成されたのはテストステロンの影響ではなく、Y染色体上に存在する*SRY*遺伝子による)。陰茎のある赤ちゃんを作り出すためには、テストステロンとアンドロゲン受容体が必要だが、膣のある赤ちゃんを作り出すためには、エストロゲンは一切不要である。つまり、女性生殖器の形成に必要な遺伝子は、テストステロンやほかのホルモンの作用も不要で、発現するように設定されている。

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』p.86~p.87

CAIS(complete androgen insensitivity syndrome:完全型アンドロゲン不応症)

CAIS(完全型アンドロゲン不応症)の場合、アンドロゲン受容体遺伝子の変異によってアンドロゲン受容体がまったく機能しなくなり、体内の高テストステロンに対して反応することができなくなる。
ミュラー管は精巣から分泌されたミュラー管抑制因子によって退化し、卵巣も子宮も形成されない。しかしウォルフ管も(テストステロンに反応することができずに)退化したため、精管や前立腺も形成されない。

※別のアンドロゲン受容体の変異では、アンドロゲン受容体はある程度機能するがアンドロゲンに対する結合能力はさまざまである。その場合はPAIS(partial androgen insensitivity syndrome:部分的アンドロゲン不応症)と呼ばれる。

XY染色体を保有し、テストステロンを産生する精巣が体内にはあるが、テストステロンの作用がない場合、女性の第一次性徴と第二次性徴が起こる。(第一次性徴とは、出生時までに出来上がる内性器と外性器のことである。第二次性徴とは、女性の場合は乳房、男性の場合は体毛が生えるといった思春期に現れる特徴のことである)
完全型アンドロゲン不応症の人びとの外見や振る舞いは、典型的な女性や女の子のように見え、またそのようにふるまう。多くの場合、初潮が来ないことで、自分がほかの女性たちとは異なるということを初めて知る。

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』p.69

5-ARD(5-‪アルファリダクターゼ欠損症、5-アルファ還元酵素欠損症)

次に外生殖器が分化する仕組みについて説明する。

男性生殖器はテストステロンの作用で形成される。実はアンドロゲン受容体を発現している前駆体組織(分化していない始原生殖腺)は、テストステロン以外のアンドロゲンの刺激も合わせて受けない限り、陰茎および陰嚢には分化しない。その刺激とは、テストステロンよりもさらに強力な作用のある、ジヒドロテストステロン(DHT)である。DHTは、テストステロンに5-αリダクターゼ(5-AR)という酵素が作用して産生される

ジヒドロテストステロンという鍵は、アンドロゲン受容体という鍵穴に、テストステロンよりも容易に刺さり、そして鍵穴の中に長く居続ける。このジヒドロテストステロンによりSRY遺伝子の転写とタンパク質への翻訳が活性化される。子宮内にテストステロンはあってもジヒドロテストステロンが存在しない場合、始原生殖腺は女性の外生殖器へ発達するが、内性器は、精巣へと発達する。(ただしジヒドロテストステロンを必要とする前立腺は発達しない)

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』p.100~p.101

5-ARDではテストステロンをジヒドロテストステロンへと変換するのに必要な5-αリダクターゼの遺伝子に変異があるため、ジヒドロテストステロンが産生されない。
たとえ血中に多量のテストステロンが存在しても、母親の胎内にいる体の中(=第一次性徴)では5-αリダクターゼが機能しないため、生殖腺を分化させるのに十分なジヒドロテストステロンを産生できない。
一方で、思春期で起こる男性化(=第二次性徴)に高濃度のジヒドロテストステロンは必要ではなく、高濃度のテストステロンだけで陰茎が発達し、精巣が形成され、男性化する。(『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』p.101)

【より専門的な資料】
日本小児内分泌学会・性分化副腎疾患委員会によるウェブテキスト
「性分化疾患の診断と治療」PDF 
p.66~性分化の基礎知識

【注意】
このような性分化疾患というイレギュラーな例を根拠として「身体の性はスペクトラム!」「身体の性はグラデーション」のような話に結びつけたり、第一次性徴と第二次性徴において身体的には通常の発達過程を経ているトランスジェンダーと混同すべきではないし、DSDの文脈において「Y染色体を持つなら男性」と断定するのも配慮に欠けるようにわたしは思う。

日本性分化疾患患者家族会連絡会からの「パリオリンピック、ボクシング競技の報道についての声明文」のリンクを掲載する。

https://x.com/nexdsdJAPAN2/status/1661635844275593218

【参考】クマノミ説と「性別の再定義」に対する反論

クマノミを例に挙げて人間の性別(※ここではsexの意)も変えられるかのような主張も一部でみられる。しかし、人間の場合はいったん精巣に分化したあとは卵巣にはならないため、例えとしては不適切だ。
それにクマノミが性転換するとしても、それでもセックスはバイナリで「スペクトラム」や「グラデーション」という説明にはなりえない。議論する際にはsexとgenderを混同しないでほしい。

https://www.perplexity.ai/search/kumanomikaxing-zhuan-huan-suru-gWJLlp0HR_OiUMSuqzTSUQ

「揺れる性別の境界」というNatureの記事を根拠にして「性別(※ここではsexの意)はスペクトラムだ」という主張もあるが、Zachary Elliottは以下の記事で性別の再定義について反論している。議論する際にはsexとgenderを混同しないでほしい(2回目)。

要点のまとめ
・性別は古代からのものです。男性と女性は人間の基本的な特性です。これらは12億年前から存在する、私たちが繁殖するための古代のメカニズムです。そして、このような進化のメカニズムは、生物学的、心理学的、社会的レベルにわたって重要な性差を生み出してきました。

・個人の性別は重要です。誰かが男性か女性かを知ることが非常に重要な場合もあれば、そうでない場合もあります。ただし、すべての状況で単に誰かに男性か女性かを尋ねるのが適切なアプローチというわけではありません。科学的、医学的、法的、社会的な文脈では、個人の健康と安全のため、あるいは他者の健康と安全のために、誰かの性別を知る必要があります。

性別は再定義できません。非定型的な人々を受け入れるために、男性と女性という性別を再定義する必要はありません。実際、性発達障害を持つ人々や性転換者が存在できるのは、男性と女性という2つの性別しか存在しないからです。したがって、皮肉なことに明らかになります:男性と女性を消去することは、そのような両グループの存在を消去することを意味するのです。

https://www.theparadoxinstitute.com/read/a-response-to-natures-sex-redefined
Summary pointsの機械翻訳


やや話が脱線してしまったので本題に戻ろう。
次にテストステロンの影響によって現れる第二次性徴の特徴をみていく。

性差を握る鍵、テストステロン

「5章 優位性」では架空の二卵性双生児、ソフィアとサムの姉弟で思春期におけるテストステロンによる体の変化(第二次性徴)が説明されている。

筋肉

テストステロンは、幹細胞(脂肪細胞か筋細胞かどの細胞に分化するか決まっていない細胞)に作用し、筋細胞への分化を誘導し、脂肪細胞への分化を抑制する。つまり、サムの血中に存在する高濃度のテストステロンは、筋肥大を促進し、より強く、より大きな筋肉組織への成長を促すのである。
ソフィアの高濃度のエストロゲンと低濃度のエストロゲンは、サムと比較して幹細胞を筋組織よりも脂肪組織へ分化するように促す。ちなみに、思春期の間、サムとソフィアの二人とも体内に脂肪を蓄積するが、ソフィアの脂肪蓄積率は、サムよりなんと二倍も高い。一〇代後半になると、サムとソフィーの体の発達が止まり、成人の体として安定化したとき、サムの除脂肪体重(体重から脂肪量を除いた重さ)は、ソフィアの除脂肪体重の1.5倍にもなっている。

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』p.159

※「ソフィアの高濃度のエストロゲンと低濃度のエストロゲン」とは体内エストロゲン濃度の変動のこと

サムの大きくて強い骨は、増加した筋肉と高濃度のテストステロンが引き起こした結果である。思春期の骨は、機械的な負荷にとくに敏感で、その負荷に反応して成長する。思春期の男の子の筋肉は、女の子の筋肉と比較して、成長中の骨により大きな負荷を与える。つまり、大きく発達し強くなったサムの筋肉は、骨を常に引っ張る。その結果、骨の中のミネラル密度と骨の直径が太くなる。これらの効果(伸長、肥大、強化)は、ほとんどの場合、永久的なものである。成人したサムが、ソフィアのテストステロン濃度に合わせたとしても、身長の高さはもちろんのこと、骨の強度においても、サムはソフィアよりも優位である。

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』p.161~p.162

ヘモグロビン濃度

さらに、思春期のヘモグロビン濃度の増加は、ほかの哺乳動物と同じように、サムのヘモグロビン濃度を増加させる(男性のヘモグロビン濃度は、女性よりも約12%高い)。ヘモグロビンは、赤血球の中に存在するタンパク質で、肺から筋肉へ酸素を運搬し、筋肉の機能を高め、持久力を高めるなどの効果がある(テストステロンのこの効果は、永久的なものではなく、サムやソフィアが成人してからもテストステロン濃度を変えることで、ヘモグロビン濃度を操作することができるのである)。

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』p.162

わたしは数年前に別のアカウントで
「トランスジェンダー女性(性自認女性の生得的男性)がテストステロン値を下げていれば筋力は大きく落ちるので女性スポーツに参加する資格がある」
という論調に疑問を呈したときに、トランスアライの方から文献を読んで!と頼んでもないのにWPATHのPDFリンクをバババと送り付けられたことがある。(ちなみにその送り付けられたWPATHの資料は現在リンク切れになっている)

いくらテストステロン値を下げたとしても骨格や肺活量まで女性と同等にできるほど現代医療は万能じゃないし、なぜドーピングにはとても厳しいのに男性の骨格や肺活量の人が女子スポーツに参加することがインクルーシブと認められる理由がわたしには理解できない。男性の骨格や肺活量を持たない女性選手がスポーツで不利になることは問題にならないのだろうか。
とわたしは長年ずっと疑問に思っていたのだが、その答えのヒントになるようなことが書いてあった。

女子スポーツへの参加基準をテストステロン値で判断する妥当性

たとえば、テストステロンの産生を抑制する薬剤を摂取した場合、テストステロン濃度が高いことで得られるスポーツに関連する数多くの優位性が失われる。たとえば、ヘモグロビン濃度は女性のレベルにまで低下する。しかし、骨の太さ(もちろん身長も含む)は変化せず、そしてテストステロンによって引き起こされた骨の強度も維持される。
専門家や活動家たちは、テストステロン濃度が低下することで筋力と筋肉量がどれぐらい低下するのかという質問をよくするが、男性型の筋肉量や筋力は完全に失われず、その変化量は各個人で大きく異なることが分かっている。一部のトランスジェンダーの女性では、筋肉量がまったく減少しない人がいる一方で低下する人もいる。

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』p.172

男性として発達し、少し余分な身長や筋肉などを獲得することが、スポーツにおける男性の優位性の源だ。
もし成人後にテストステロンの作用を阻害してヘモグロビン濃度を操作することはできたとしても、テストステロンによって引き起こされた反応である骨の太さや強度を取り消すことはできない。

スポーツにおける性別の分離の重要な要素は、子宮内、出生後、思春期の段階を含む男性の長期的な発達の影響であり、これは後年にテストステロンを低下させても元に戻すことはできない。

つまり後から操作することのできるテストステロン濃度だけではテストステロンによって得られる「男性としての発達」を評価できないということだ。

※女子スポーツの参加基準をテストステロン値で評価することの妥当性を考察するEmma Hiltonさんの投稿の全訳は、min.tまとめの「男性アスリートのテストステロンを抑制すれば、女子スポーツでの競争が公平になるのか?」を参照 

スポーツにおける性別の分離

スポーツが男性と女性を区別しているのは、男性の思春期が運動パフォーマンスにもたらす利点と、成人後もテストステロンの作用が維持されるという利点があるためである。性別による区別がなければ、男性の思春期を経なかった人たちが、エリート競技から事実上締め出されることになってしまう。

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』p.171

スポーツが男性と女性とで区別されている理由を考えれば、「公平性」を考えるにあたって、男性の思春期(Male puberty)のメリットを経験しているかどうかは避けては通れない。

女子スポーツと5-ARD

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』の著者Carole Hoovenはこう投稿している。

この投稿はとても長いのでAIを用いた要約のみを載せる。(以下要約)

この文章は、性分化疾患(DSD)を持つXY染色体の選手が女子カテゴリーで競技することに関する問題について説明しています。主なポイントは以下の通りです:

1. 5-アルファ還元酵素欠損症(5-ARD)を持つXY染色体の選手は、外見が女性的でも生物学的には男性です。
2. これらの選手は男性思春期の利点を経験しており、女性選手に対して身体的優位性を持ちます。
3. テストステロンをDHT(ジヒドロテストステロン)に変換する能力がなくても、筋肉量や筋力に影響はありません。
4. 研究によると、DHTを抑制してもテストステロンの筋肉や体組成への効果は変わりません。
5. 成人男性では、テストステロンとDHTは多くの男性機能を相互に代替できると推測されています。
6. この問題は、スポーツにおける公平性と安全性に関する議論を引き起こしています。

要するに、5-ARDを持つXY染色体の選手が女子カテゴリーで競技することは、生物学的な優位性があるため、公平性の観点から問題があるという内容です。
(要約ここまで)

※5-ARDに関するCarole Hoovenさんの投稿の全訳は、min.tまとめの「XYDSD(5-ARD)を持つアスリートの女子スポーツにおける優位性について」を参照

5-ARD患者の多くは、思春期の間も思春期が終わってからも女性として生き続けることを選ぶ。(彼らの精巣は一度大きくなると決して小さくならない)なお、女性として競技に参加しているエリート選手には、XY染色体を持つ性分化疾患患者が多く、その多くが5-ARDのためテストステロン濃度が高い。

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』p.153

これまでの研究結果から、5-αリダクターゼ欠損症などの性分化疾患を患う女子アスリート(つまり、テストステロン濃度が男性のテストステロン濃度の範囲にある)が女子部門の競技に参加することは、健常な女性(つまり、テストステロン濃度が女性の範囲にある)よりも有利だということは、誰もが予想できるのではないだろうか?実際、そのような研究成果が得られている。推測によると、性分化疾患を患う女子アスリートの割合は、一般人の有病率の140倍も高いのではないかと考えられている。

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』p.167

まさにここが女子スポーツ競技における安全と公平の論点なのだろう。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

XX女性のなかでも高アンドロゲン状態(=体内のテストステロン濃度が高い)となる多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)も女子スポーツでは有利になるのではないかという疑問があるかもしれないので補足する。

・PCOS患者(卵巣を保有)のテストステロン濃度は、女性の上限値に近いが、正常な男性のテストステロン濃度に届かない(p.154)

PCOSを患っている女性のテストステロン濃度が高いことから、女子エリートスポーツにPCOSが多いのではないかと予想されるのかもしれない。しかし、5-αリダクターゼ欠損症のアスリート(精巣を保有し、テストステロン濃度が高い)と比較して、PCOSを患う女子アスリートの優位性はわずかでしかない。とはいえ、スウェーデンの女子オリンピック選手90人を対象とした研究では、37%の選手がPCOSを患っており、これは同年齢層の一般人口の約三倍相当することが報告されている。(p.167~p.168)

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』
https://quillette.com/2024/08/03/xy-athletes-in-womens-olympic-boxing-paris-2024-controversy-explained-khelif-yu-ting/

上記の図でもPCOSのテストステロン濃度が女性の範囲におさまり、5-ARD/PAISのテストステロン濃度が男性の範囲にあることが確認できる。

PCOSに関するCarole Hoovenさんの投稿はこちら。

あなたの指摘の通り、PCOSを持つ女性は平均して、持たない女性よりも自然に高いテストステロン(T)レベルを持っており、これはある程度の運動能力の優位性をもたらします。ただし、参考までに言うと、PCOSでのTレベルは通常、女性の典型的な範囲の上限にあり、時にはそれを超えることもありますが、それでも男性の典型的な範囲の下限にも及びません。

同様に、男性も女性に対して自然な優位性を持っています。これは生涯にわたって高いT(5〜30倍高い)にさらされているためですが、その優位性は非常に極端で、それが性別カテゴリーを分ける理由となっています。

男性の女性に対する優位性は、PCOSがもたらす優位性とは比較になりません。PCOSの優位性は、バスケットボールでの身長や、水泳での長い腕と大きな肺のようなものです。これらは強い利点ですが、それらを持たない人でも勝つことができます。

男性であることの優位性は大きく、カテゴリー的なものです。例えば、高校生の男子が陸上競技でオリンピック金メダリストの女性を打ち負かすことができます。

PCOSのない女性でも、PCOSのある女性に勝つことができます。なぜなら、その優位性は身長、柔軟性、持久力などの他の利点によって相殺される可能性があるからです。

ある人々は他の人々に対して自然な優位性を持っており、その意味でスポーツは不公平です。しかし、性別で分けられたスポーツカテゴリーがある理由があります—他の条件が同じであれば、ほとんどのスポーツで男性は常に女性を上回るパフォーマンスを示すからです。これらのカテゴリーは公平性を高める努力として存在し、女性に勝つチャンスを与えています。

https://x.com/hoovlet/status/1669338187653677056  
機械翻訳の抜粋

※PCOSに関するCarole Hoovenさんの投稿の全訳はmin.tまとめの「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は女子スポーツで有利なのか?」を参照

「テストステロン濃度が高い女性」という表現の問題点

女子スポーツへの参加基準に関する議論では「テストステロン濃度が高い女性」という表現がしばしば用いられる。
しかし、その場合だと「女性よりもテストステロンが高い」という状態であっても
・XX女性がPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)によって 女 性 の 範 囲 内 にあるケース
・DSDのXY女性(5-ARDやPAIS)が精巣があることによって 男 性 の 範 囲 内にあるケース
が混同されかねない。

つまりXX女性PCOSのテストステロン値は女性の範囲内なので投薬によってテストステロン値を下げる必要はないし、女性部門で競技することを妨げられる理由はないのだ。
(※DSDのXY女性でもCAISの場合は精巣があってもアンドロゲン受容体が機能しないのでテストステロンのメリットは受けない)

「テストステロン値が高い女性」という言葉によって、 「卵巣のある女性が疾患によって女性の範囲内でテストステロン値がある状態」と、「精巣由来で男性の範囲内でテストステロン値がある状態」が女子スポーツにおいてあたかも同等の優位性があるかのように思われてしまっているのではないだろうか。

キャスター・セメンヤ選手のケース

過去、陸上競技においてキャスター・セメンヤ選手は5-ARDのケースとして報道されていた。

魚拓 https://archive.is/lYNNV

It was in the Cas ruling that Semenya's specific DSD was confirmed as 46 XY 5-ARD (5-alpha-reductase deficiency). People with this particular DSD have the male XY chromosomes. Some are assigned female or male at birth depending on their external genitalia.
(中略)
Cas said, athletes like Semenya with 5-ARD have "circulating testosterone at the level of the male 46 XY population and not at the level of the female 46 XX population", which gives them "a significant sporting advantage over 46 XX female athletes".

https://www.bbc.com/sport/athletics/67367157

CASの判決では、セメンヤの特定のDSDが46 XY 5-ARD(5-アルファ還元酵素欠損症)であることが確認されました。この特定のDSDを持つ人々は男性のXY染色体を持っています。外部生殖器によって、出生時に女性または男性として割り当てられることがあります。
(中略)
CASは、5-ARDを持つセメンヤのようなアスリートは「男性の46 XY集団のレベルで循環するテストステロンを持ち、女性の46 XX集団のレベルではない」とし、これが「46 XX女性アスリートに対して大きなスポーツ上の優位性を与える」と述べました。
(以上機械翻訳)

CAS=スポーツ仲裁裁判所。スポーツに関連する紛争を解決するための国際的な仲裁機関。1984年に国際オリンピック委員会(IOC)によって設立され、本部はスイスのローザンヌにある。CASは、スポーツ特有の紛争、例えば代表選手選考や選手への懲戒処分に関する紛争を扱う。通常の裁判所とは異なり、スポーツ界の専門家で構成される仲裁機関として、迅速かつ実効的な救済手段を提供する。CASの判断に不服がある場合は、スイス連邦最高裁判所に上訴することができる。

セメンヤのケースの陸上競技とは違って、今回のボクシングは対戦相手を殴るという競技の特徴上、場合によってはIBAのいう通り競技場内で相手の女性が大怪我をする可能性があるし、よりシビアな基準が望ましいと思われる。

スポーツ競技における女性性確認検査

わたしは「IOCは今からでも詳細に性別検査をすればいいのになぜやらないんだろう」と思っていた。
しかし、SNSで教えてもらった資料「〈海外文献紹介〉アナイス・ボウオン『スポーツ競技における女性性確認検査(性別確認検査)- X 分類*の歴史-』」を読んでみたら、どうやらそんな簡単な話でもないようだ。

「スポーツという実践は,不平等を生み出し続けるものである」
「トップアスリートへのあこがれを生み出すすべての意味での形態学的,身体的,生理学的,細胞学的な長所に関して,間性だからという理由でその優秀性が否定されるのを容認するというのは合点がいかないことである」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sptgender/15/0/15_98/_pdf/-char/ja

っていうのはまぁ分かる。分かる、けど、うーーーーん。モヤモヤ。

これはわたしの憶測なのだけれど、もしこの問題が広く知られるようになったら、大多数の女性には「結局女子スポーツっていっても5-ARDなどの男性思春期のメリットを受けている女性が参加できるのなら、そうでない女性はもともと不利になってしまうんだね……」って思われて、女子スポーツに関心を持たれなかったり今後女子スポーツ人口が減る可能性もあるので、スポーツ界としてはなるべくグレーでいてほしい領域なのかもしれない。

IOCが性別検査を行わない理由

What's the eligibility criteria?(資格基準は何ですか?)

IOCのスポークスマンであるアダムスのコメントによれば、パスポートが鍵となる可能性があります。
「女性のカテゴリーで競技しているすべての人が、競技の資格基準を遵守しています」と彼は述べました。「彼女たちはパスポート上で女性とされており、それが事実です。」木曜日にアダムスは、ボクサーに対する以前のテストの問題は「トランスジェンダーの問題ではない」と述べ、報道で誤解されている点があると指摘しました。これらの女性は何年も女性として競技を続けてきました……

「テストステロンについて簡単に言うと、テストステロンの検査は完璧なものではありません。多くの女性が、いわゆる『男性レベル』のテストステロンを持っていても、依然として女性であり、女性として競技に参加することができます。ですから、テストステロンの検査を一度行えばすべて解決するという考えは万能薬ではありません。各スポーツはこの問題に対処する必要がありますが、私たちは合意していると思いますし、合意していることを願っていますが、『性別検査』の悪しき時代(the bad old days of 'sex testing')に戻ることはないでしょう。それは良くない考えです。」

https://www.usatoday.com/story/sports/olympics/2024/08/01/olympic-gender-testing-boxers/74615354007/
機械翻訳

こちらの記事(再掲)によると、

The IOC has also said that it has given up sex testing because there’s no way to get it right practically and in a nondiscriminatory fashion and because scientifically there’s consensus Khelif and Lin are women.

https://quillette.com/2024/08/03/xy-athletes-in-womens-olympic-boxing-paris-2024-controversy-explained-khelif-yu-ting/

IOCは、性別検査をやめた理由として、実際的かつ非差別的に正確に行う方法がないこと、そして科学的にはケリフとリンが女性であるという合意があるためだと述べている。

しかしエマ・ヒルトンさん(人間の遺伝性疾患を専門としているマンチェスター大学の発生生物学者)はXで

We have far easier and cheaper ways of looking at chromosomes and DNA, and we have stronger ethical frameworks regarding genetic testing.
The “bad old days” that the International Olympic Committee evoke to obstruct sex testing that would protect the female category is a red herring.

https://x.com/FondOfBeetles/status/1821905253563850866

「染色体やDNAを調べる方法ははるかに簡単で安価になり、遺伝子検査に関する倫理的な枠組みも強化されています。国際オリンピック委員会が、女性カテゴリーを保護するための性別検査を妨げるために持ち出す『悪しき昔の日々』は、誤った論点です」と反論している。

つまりIOCのいっている「実際的かつ非差別的に正確に行う方法がない」というのは、性別検査を行わない言い訳にならないことになるのだ。

また、IOCの姿勢は6月に発表されたIOCの言語ガイドに基づいているようだ。

In June, the IOC issued a language guide that disallows the use of sex-based language to describe athletes at the Games and that requires the treatment of gender diverse XY athletes who identify as women to be unequivocal: they are women.
This language guide follows from the positions the IOC took in 2021 that gender diverse XY athletes should not be considered to have male advantage in the arena simply because they’re male, and that male T levels shouldn’t be disqualifying—despite their scientifically well-understood role as the primary driver of the performance gap between the best males and the best females.

6月にIOCは、競技会で選手を説明する際に性別に基づく言葉の使用を禁止し、女性として認識するジェンダー多様なXY選手を明確に女性として扱うことを求める言語ガイドを発表しました。
この言語ガイドは、IOCが2021年に取った立場に基づいており、ジェンダー多様なXY選手は単に男性であるという理由だけで競技上の男性の優位性を持つとは見なされるべきではなく、男性のテストステロンレベルが失格の理由とされるべきではないとしています。これは、男性と女性のトップ選手間のパフォーマンス差の主な要因として、科学的に十分理解されている役割にもかかわらずです。

https://quillette.com/2024/08/03/xy-athletes-in-womens-olympic-boxing-paris-2024-controversy-explained-khelif-yu-ting/
Do Khelif and Lin have DSD that should make them ineligible for the female category?より抜粋して翻訳

IOCの言語ガイドにおける具体的な言及は以下の部分。

https://stillmed.olympics.com/media/Documents/Beyond-the-Games/Gender-Equality-in-Sport/IOC-Portrayal-Guidelines.pdf?ref=quillette.com#page=28

避けるべき用語: 「男性として生まれた」、「女性として生まれた」、「生物学的に男性」、「生物学的に女性」、「遺伝的に男性」、「遺伝的に女性」、「男性から女性へ(MtF)」、「女性から男性へ(FtM)」
上記のような表現は、トランスジェンダーのスポーツ選手や性的特徴に変異のあるアスリートを描写する際に、非人間的で不正確になる可能性があります。人の性別カテゴリーは遺伝子のみに基づいて割り当てられるものではなく、性別適合医療を受けることで個人の生物学的側面が変化する可能性があります。

代わりに使用する表現: 女の子/男の子、女性/男性、トランスジェンダーの女の子/男の子、トランスジェンダーの女性/男性、トランスジェンダーの人

出生時の出生証明書に登録された性別カテゴリーに言及することでその人のアイデンティティに疑問を投げかける可能性があるため、常にその人の実際の性別を強調することが望ましいです。
もし出生時に割り当てられたカテゴリーに言及する明確な理由がある場合は、以下の表現を使用します:
「出生時に女性として割り当てられた」、「出生時に男性として割り当てられた」、または「出生時に女性として指定された」、「出生時に男性として指定された」

https://stillmed.olympics.com/media/Documents/Beyond-the-Games/Gender-Equality-in-Sport/IOC-Portrayal-Guidelines.pdf?ref=quillette.com#page=28
‘TERMS TO AVOID’と‘INSTEAD USE’の機械翻訳

事前に公開されたこのIOC言語ガイドの内容が、今回の混乱におけるIOC側のどこか歯切れ悪いニュアンスの背景にあるのかもしれない。

XXジェスチャーでの抗議

パリ五輪女子ボクシングでは林郁婷(リン・ユーティン)選手と試合をした相手の女子選手が試合後にXXジェスチャーを示して抗議をしている状況になってしまっている。

ブルガリアのSvetlana Stanevaが準々決勝で台湾のLin Yu-Tingに敗れた後、両手で女性のシンボルである「X」のジェスチャーをしている。 https://x.com/OliLondonTV/status/1820075724138586313
トルコのエスラ・ユルディズ・カフラマンが準決勝で台湾のリン・ユーティンに敗れた後、人差し指でXマークを作っている。
https://x.com/nytimes/status/1821287061560688918

女子スポーツにおける性別確認検査には多くの問題がある。
一方で、ここで写真を載せたように対戦相手の女子選手たちはXのハンドサインをして(IOCの参加基準に?)抗議しているし、ここまで話題になったからには男性の思春期を経験した5-ARDなど一部DSD当事者の女子スポーツにおける優位性が広く知られるようになるのも時間の問題なのかもしれない。

今回のような大きな混乱は、IOCが法的な性別(つまりパスポートの性別)を性別および女性カテゴリーの資格の代理として使用していることが原因なのではないだろうか。
IOCはインクルーシブな言語ガイドを発表しているが、もし女子スポーツにおいて優位性のある選手がコンタクトスポーツである女子ボクシングに出場した場合、対戦相手の女子選手は危険にさらされることになってしまう可能性が高いだろう。

まとめ

これまでのことを踏まえてパリ五輪女子ボクシングの件に関して判明したことを以下にまとめる。

分かったこと

  • IBAのテストステロン濃度の検査では無い検査で失格になったあと、2人とも控訴しなかった→IBAでの決定は法的拘束力を持つ

  • IOCの包括性を重視した言語ガイドラインでは、女性として認識するジェンダー多様なXY選手を明確に女性として扱うことにしているし、IOCは「パスポートにかかれている性別」を女性部門に出場する基準としている

  • DSD(性分化疾患)においては「XYなら男性」と単純にいいきれるものではないが、maleかfemaleかはグラデーションではなくバイナリ

  • DSDのなかの5-ARDは男性思春期の利点を経験しているという理由から女子スポーツにおいて生物学的な優位性がある

  • ホルモン抑制後も多くの身体的優位性が持続するため、テストステロン値だけでは男性思春期(male puberty)の女子スポーツにおける優位性を評価できない

  • IOCの「実際的かつ非差別的に正確に行う方法がない」というのは遺伝学の進歩から考えて、技術面だけでいえば検査をしない理由にはならない

参加資格を懸念する立場でのさまざまな議論

渦中の選手たちについて、同じく女子ボクシングへの参加を懸念する立場であってもSNSではさまざまな論調がみられた。

・見た目が男だから/ヒジャブを付けないから/プロテクターをつけてるからetc「男だ」
→こういった意見は、裏を返せば“女性らしい”とされているジェンダー規範を固定化して強化してしまっているのではないだろうか。

・IBAの基準に引っかかったのはXYだからだろうから「Y染色体を持つなら男だ」
→DSDの話題において、たとえばCAISやスワイヤー症候群の方はXYでも女性だし、5-ARDの場合は出生時に「当てがわれた性別が女性」(←本来の使いかた)だ。
そして女子ボクシングで話題の両選手の「パスポートに書かれている(法的な)性別が女性」であることを無視している。少なくとも彼女たちはIOCの出場基準を満たしている。それが女子スポーツのボクシング競技において公平かどうかの議論は別としても。

・DSDのなかの5-ARDやPAIS等の男性思春期を経験した身体的な優位性は、IOCのパスポート基準では女子スポーツへの公平性に反映されない。
男性思春期を経験した利点という性差を無視した結果、とりわけ女子ボクシングのようなコンタクトスポーツでは不幸な事故が起こりかねず、相手選手の安全にも関わるという指摘。

などの意見が入り交じっている。
「両選手が女子ボクシングに出場するのは公平性に問題がある可能性が高いだろう」という結論は同じだが、そこに至るまでの過程が異なるのだ。

性差を認めたうえで女子スポーツの公平を考えるということ

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』は『ガリレオの中指』にも共通するような、まさに「科学的研究とポリティクスが衝突する」内容を考察するのに必要な研究結果が多く書かれている本だった。

重要な判断を下す際、それが人びとの性差に大きく依存する場合、私たちは事実を正確に把握する必要がある。生物学について誤解を招くような記述で重要な議論を混乱させることは、誰のためにもならない。人びとの人権、個性、そして価値を尊重するために、科学的知見や専門用語を捻じ曲げる必要はない。いずれにせよ、そのような誤りを正すのは、科学者である私たちがすべきことである。

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』p.170

しかしながら、誰が女性のスポーツ競技に参加できるのかについてのジレンマを解決したとしても、当然のことながら、一部の人びとは苦しみを感じるだろう。この問題は、汚名や差別を引き起こす可能性がある非常にセンシティブな問題であり、私自身この問題をどのように解決すべきなのか、分からない。
(中略)
内分泌学は、セメンヤのようなアスリートが女性のカテゴリーで競技することを許可されるべきか否かについて判断を下すことはできない。セメンヤやセメンヤと同じような問題を抱えるアスリートたちに対して私たちは、敬意を持ち、そして科学的事実に基づいて公平に判断すべきだということには、同意できるはずである。

『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』p.173~p.174

今回の件はくれぐれもトランスジェンダーと混同したり、DSD当事者への偏見につながるような発言は控え、IOCの基準を批判するにしてもIOCの基準に則って参加した選手個人への誹謗中傷はするべきではない。

それと同時に女性選手たちの抗議を無視することもできないだろう。女子スポーツにおける男性思春期のメリットは決して無視できるような差異ではないのだから。
重要なのは科学的事実であり、それに基づいた女子スポーツにおける公平性に関する慎重な議論だ。



おわりに

とにかく『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』は今回のようなDSDと女子スポーツの話題に関心があったり性分化のメカニズムについて関心がある人にドンピシャな内容だったのでとてもおススメします。

今回は女子ボクシングの話題に絞ったので他に書かれている内容の紹介は割愛した。たとえば「9章 性転換とテストステロン」では
・思春期抑制剤によって思春期を一時的に止める影響
(著者は、本書は医学的なアドバイスを提供するものではないし、とくに思春期抑制剤に関しては資格のある専門家に相談し、できればセカンドオピニオン、サードオピニオンを得ておくべきと断り書きをいれている)
・トランスジェンダー(トランス女性・トランス男性)やデトランスした女性についてそれぞれクロスホルモン治療を受けた身体や感情の状態についてのインタビュー
も書かれていたのでこの分野にも関心があるわたしにとって、とても参考になった。
この本はこんなに素晴らしい内容なのになぜあまり話題になってないんだろうって不思議なくらい。

今回は扱う内容的に読書感想文というよりは一部分では発生学のレポートのような雰囲気になってしまった気がするけど、DSDについて言及するうえでは性分化の機序について知っておいた方がより正確な理解につながると思ったので掲載した。

わたしのつたない説明よりも実際に読んでもらったほうが理解しやすいと思うので、関心がある人は読んでみてください。

自分の整理のためにも書き始めたら2.3万字(!)にもなって、とても長くなってしまいましたが以上です。
最後まで読んでいただきありがとうございました🙏🏻
英語の翻訳は機械翻訳を用いたので不正確な部分があったら教えてください🙇🏻‍♀️


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Gwen
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