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【1WEEKエッセイ】思春期と更年期のはざまの母の日

このエッセイは1週間に1回更新予定です

今日もやられてしまった。

中3の娘が朝、洗面台を占拠する時間より前に身支度を終わらせようと思っていたのに、洗濯物を干して着替えている間に、娘の身支度タイムが始まった。

こうなると長い。ドライヤーに始まり、ボブの上半分をゴムでまとめ、前髪を整え終わるまで最長20分。私も最近は在宅勤務が多いので、以前よりはまだマシなものの、こちらとしても始業前までにせめて上半身くらいは整えておきたい。毎朝、彼女の支度が終わるまでイライラして待つ羽目になる。ので、今日はこうしてnoteに向かっている。

連休中は最悪だった。どこに遠出できるわけでもなく、狭い家で家族4人でごちゃーっとして過ごした。家に男女の大人が2人いるとなると、どうしたって女である私がごはんを作る回数が多くなるのは、我が家だけだろうか。

それでも初日になんとか近所のママ友と飲みの約束を取り付けた。さて、場所をどうするか。検討した結果、近くの緑地の高台に、近くをめったに人が通らない穴場的あずまやを発見したのでそこに決めた。

そのあずまやは屋根が大きく、度重なるゲリラ豪雨からも私たちを守ってくれ、雨が洗ったあとの澄んだ夕焼けまでプレゼントしてくれた。私たちは心ゆくまでワインを飲みながらジェンガに興じるという、楽しい現実逃避の時を過ごす、はずだった。でも、ここでも家族はほっておいてくれない。近いだけに「ママたちなにしてるの~?」なんてそれぞれの家から夫や子どもたちが探しに来たあげく合流され、大ジェンガ大会になってしまった。それはそれで盛り上がったけど。

そんなほっこりする一コマもありつつ、基本的には、家族の飯炊きに追われながら、行き場もなくだらだら過ごす子どもたちイライラし、仕事から手が離せないと書斎から出で来ない夫にもイライラして過ごす連休となった。

そして3日目。

ぷすっ、と私の頭頂部から何かが抜け出た。本当にそんな音がした。「これは何かが抜けちゃったな」と直感的に思った。深部にイライラのマグマを抱えた体を、倦怠感の薄い膜が覆いかぶさっていたところに、外から一か所、安全ピンか何かで刺された感じ。コンビニ袋に開いた小さな穴から、温めたお弁当の蒸気が出てきたように、ぷすっ、しゅうっ、と。

それから私は部屋に引きこもって動けなくなってしまった。というか、自分の部屋というものはないので、寝室のベットの上で何をするでもなくぼーっとする以外、何もできなくなってしまった。

周りにモノが散らかっていても、ゴミが落ちていても、それらに手を伸ばす気力も体力もない。こんなことは初めてだった。

連休で家事の負担が増えたとしても、これは何かが違うと思った。自分に何が起こったのかその時は分からなかったけど、連休が明けて、日常が戻りつつある今ならやっとわかる。

あれは更年期の症状のひとつだったんだ。

それまでも急に動悸がしたり、お風呂でめまいがしたり、ということはたびたびあり、「いやーねー、ついに更年期かしらねー」なんてママ友と笑っていたのだが、こうも突然、ぷすっと音までして、気が、いや魂が抜ける瞬間がやってくると思わなかった。

這うようにしてキッチンに立ち、3食のごはんだけはなんとか作ったが、家族のだれも母の異変に気付かないようす。子どもたちは夜更かしをし、娘にいたっては昼近くまで起きてこない堕落ぶり。次第に言動も冷たく、とげとげしいものになってしまった。それを娘も敏感に感じ取る。連休中の母娘関係はどんどん険悪なものとなっていった。

そんなピリピリムードを引きずったまま連休が終わり、翌週の母の日。

街は朝から花屋に大行列。弁当屋にも総菜屋にも大行列。

「お母さんいつも大変だから今日だけでも楽してもらおうね」など言いだすお父さんからの発案なのだろうか。”きっとうちはなにもないだろうな”とか”にわかに花もらったってうれしくないもん”と心で自分に言い聞かせたながら例年より明らかに多い行列を横目に見る。

しかも今年に限って母の日に夜勤が入っている。そりゃ母の日だからって「この日はお子さんいる人は夜勤から外しましょうね」なんてシフトを配慮することはもちろんないだろうが、こんなときだからこそ余計うらめしい。

”これから私だけ仕事なんだよな”と思いながら一人鎮痛な面持ちで晩御飯の食卓に向かう。我ながらみっともないと思いながらもつい、「あー今日母の日なんだよな、結局うちはなんにもなかったなぁ」と恨み節が声となるのを止められなかった。その時。

「あーあ、ママがめついんだから!」

と娘があきれた顔をしながら目の前に差し出したのは、ニールズヤードの小さな紙袋。

!!!!!

あー!!あと5分我慢してればよかった!!だまってごはん食ってろよあたし!そしたらもっと優しく出てきたかもしれないのに、このサプライズ・プレゼント!!

内面の激しい後悔と恥ずかしさを悟られないように「なになにー、もう!やだ~」とか言いながらリボンをほどき袋を開ける。出てきたのはアロマオイル。ブレンドタイプのもので、タイトルを見て思わず崩れ落ちそうになる。

WOMAN'S BALANCE

今の私にピッタリなやつじゃないか!!!!ってか知ってたのか、家族!私の不調を。

袋には手紙も入っていた。

いつもお疲れ様!いろいろと助かってますー。私にできることは少ないけど勉強、部活、習い事の両立もしながらできることはやれるだけ手伝おうと思っています

お、おう。なんかよく分からないけど、あなたも忙しいってことと、手伝う気持ちがないわけではないってことは伝わったよ。。。

手紙には下の子からも小学男児らしい字で「毎日家事仕事をしてくれてありがとう」と一筆添えてあった。娘がなんだかんだダメ出ししながら書かせたものらしい。

そういえば、夕方、「あたし友達の誕プレ買ってくるー」と言って2時間ほど外出してたっけ。聞けば「彼氏がお母さんにプレゼント買いに行くけど、お前も行かない?って言ったから」とのこと。いい彼氏じゃん。っていうか、彼氏いたんか!?

「彼氏に感謝してよね!オイルもいろいろ試して、それが一番いい匂いだねっていって一緒に選んだんだから!」しかも、彼氏に誘われてなければ、プレゼントを買おうとも思わなかったとのこと。ありがとう、彼氏。我が家の危機を救ってくれて。

WOMAN'S BALANCEからは、私の好きなフランキンセンスの香もほのかにした。マスクの内側に数滴落としてくんくんしながら仕事したよ。いつもより気持ち楽だったよ。

ありがとう。










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