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【旅blog】ベトナム統一鉄道の旅 3
■8月11日(2日目)
翌朝、目が冷めると
爆音のクラブミュージックは止んでいた。
ブイビエン通りを歩くと、みんな店の軒先で風呂にあるような椅子に座り、ベトナムコーヒーを飲んだり、フォーをすすったりしていた。
しばらくふらふら歩いていると、ベトナム人のおじさんが日本語で話し掛けてきた。
「私は日本で有名なおじさんだ。一緒にご飯を食べないか?ほら、これを見てくれよ。」
それは日本人の観光客たちからの感謝の言葉が書かれたメモ帳だった。
おじさんのおかげで楽しかった!おじさんの優しさでベトナムが好きになった!ベトナム最高!
などなど。
昨夜と同じように私は何も考えずについて行き、おじさんとフォーを食べ、ベトナムコーヒーを飲んだ。しかもおじさんのおごり。
なんて良いおじさんなんだ。そう思っているとおじさんが観光地を案内してやろうと言う。
私は感謝し、おじさんの原付の後ろに乗り、昨夜のサイゴン大教会や戦争の資料館など地球の歩き方に一通りあるような観光地へ連れて行ってもらった。
まずは戦争証跡博物館。
ベトナム戦争で実際に使用された兵器や被害の記録が実物や写真、文書などで展示されている。
中でも、今は展示されていないというホルマリン漬けの奇形胎児は衝撃的で戦争の傷跡を証明していた。
次は歴史博物館。
独立か死か。
そして、昼間のサイゴン大教会にも行った。
こう見るとホーチミンは高層ビルも多く、かなり街として発展していた。
2日目の午前でホーチミンの主要な観光地は全て制覇できた気がする。
昼になり、おじさんがランチを食べに行こうと言う。
そこで悲劇は起こった。
まずランチが来るまでの間に、「君も感謝の気持ちをメモ帳に書いてくれ」と言われる。
私は「OK!!」と馬鹿面で言い、
疑いもなく感謝の気持ちを書いた。
すると、ランチを食べている時に急におじさんが1万5千円を出せと真剣な顔で言い出したのです。
私は唖然とした。
私の前には、先程までの優しい表情は消え失せ、冷酷で、無表情なおじさんがいた。そして、おじさんの後ろには店のスタッフが2人立っているではないか。非常にまずい状況でした。 …グルか。
身震いしたのを覚えています。
手には目の前のステーキ用とは言え、ナイフを握りしめてこちらを睨んでいる。
「待て待て、高いだろ」
「ツアー料金と変わらない!」
「ほら、原付代で1,000円やるからさ」
「なめるなッ!」
「お前こそなめるなッ!」
こんなところで死ねない。勉強代だと思え。
そう思って私は金を払ってしまった。
「10,000円でいいだろ、くそじじい。」
このおやじのメモ帳には日本人の感謝の言葉がかなりたくさん書かれていた。どれだけの日本人が私と同じような経験をしたのだろう。恐ろしい。
昨夜から続く経験から私は、海外で人を信じることに対して不安を抱くようになっていた。
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一応ブイビエン通りまでは原付で送ってもらうことができ、ホテルの前で降してもらった。
おじさんは何も言わずにどこかへ去り、私は一人ブイビエン通りに立ち尽くしながらふと思った。
(カネがねぇ…)
ベトナムの物価をなめくさっていた自分は3万円しか持ってきておらず、2日目の昼にして所持金が15,000円になっていた。
こんな金でベトナム縦断なんて到底できねぇよ。トホホ。そう思いながら私は、ホテルでふて寝した。
夜の18時になり、とぼとぼとスカイバーのある高層ビルの下に行くと飛行機で出会った女性がいた。ちゃんといてくれて安心したのを覚えている。
しかし、なぜかその隣に日本人の男性もいた。
※そろ婚のマスターではない。
歳は40歳くらい。
男性は私が現れた瞬間に急に慌てだした。
「な、ナンパじゃないんですよ!彼氏さんがいるとは知りませんでした!」
「あ、僕、彼氏じゃないんです。」
「え?そうなの?」
そう言っておじさんが女性を振り返ると、
そこで女性も「うんうん」と頷いていた。
「なぁ〜んだぁ、びっくりしたなぁ、もう。だったら一緒にご飯食べに行こうよ!」
「あ、そうそうご飯のことなんだけど、ここのバーねぇ。ドレスコードじゃないと入れないみたい。ホームステイ先のママが言ってた。別のところにしよ。」
「そうなのかぁ、残念。」
私と女性、そしてナンパ男は一緒に別の店を探すことにした。少し歩くとテラス席で鍋を振る舞っている店があったのでそこに決めた。
会話の中で、ナンパ男はとある企業の社長だと判明した。取引先がホーチミンにある為、頻繁に訪れるらしい。
会話も盛り上がり、明日の夜も一緒にご飯を食べないかと2人に誘われたが、寝台列車で次の町フエに行かなければならない為、断った。
その代わり、ナンパ男が日本に別荘を持っているということで帰国したらそこでバカンスをしようと約束した。
それから私たち3人は夜のホーチミンを歩き回り、楽しい時間を過ごした。
本当に今夜は良い出会いだねぇと盛り上がりが最高潮に達した頃に私はかなり最低なことを言うのであった。 あのさ…
「お金、貸してくれませんか!」
しかも、女性に。
「同じ東京都民だから帰国したらすぐ返しに行く!1万円貸してくれませんか!」
「は???マジで言ってんの?」
「このままじゃ縦断の夢が達成できなくなるかもしれないんだ。頼む!」
「うーん…。」
そりゃ失礼だろうと言うナンパおやじのことはとりあえず無視をした。
「お願いしますぅ!」
「まぁ良い人そうだし、貸してあげてもいいよ。」
「え!?いいの!?」
「帰国したらちゃんと返しに来るんだよ?」
「返します、返します。すぐ!」
くそ野郎と言われてもすんなり受け入れることができそうだった。そう、この時、私はかなりのくそ野郎でした。
その後、私たち3人はナイトマーケットへ行き、出店で買い物をした。
私は早速借りた大事な1万円を使い、赤地の真ん中に黄色い星がプリントされたベトナムTシャツ(300円)をなんの迷いもなく購入したのです。
本当にくそ野郎でした。
こうして、ホーチミンの夜は賑やかに過ぎていったのです。
つづく…
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