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引き出しからハト。

やらかしちまった。

詳しくは書けないけれど、仕事で、最後の最後にミスをしてしまった。そのあとやれることはやったし、起こしてしまったことはどうしようもない。けど、自分のツメの甘さに凹んでしまう。横っ腹がジクジクして、デスクの席に縫えつけられたように動けない。

周りからの「だいじょうぶだよ」の声に頭を下げる。ただただ情けなかった。

終わりが見えてきて、勝手に有頂天になった。そこでのうっかりミス。自分を呪わずにはいられなくなりそうになる。頭の中はミスそのものや、それによって引き起こされるかもしれない最悪のシナリオでいっぱいになる。

マスクの下、周りに隠れてひっそりため息をつく。就業時間はとっくに過ぎていた。ここでずっと、どよんと暗いオーラを出しているわけにもいかない。気を紛らわすように、デスクに広がる書類をまとめる。それを仕舞おうと引き出しを開けた時だった。勢いが良かったのか、奥から茶色い物体がスライドしてきた。

手のひらサイズの丸みを帯びたハトのフォルム。左上に赤字でプリントされた商品名。神奈川県の名物、豊島屋の「鳩サブレ」だった。「おれやで!」と言わんばかりのタイミングで飛び出してきたのだ。

しばらくテレワークだったので、久しぶりの出社だった。お歳暮でいただいていたその存在を、すっかり忘れていた。

目に入った瞬間、「いま食べなきゃ」と思った。なぜかは分からなかった。手にとって封を切る。躊躇いなく頭からかじる。いつもそう。ひと口目に1番食べやすい。

サクサクした食感と、ほどよい甘さ。いつも食べ切るのがもったいなくてちびちび食べるけど、その時はいつもよりずっとひと口が大きくて、あっという間に無くなる。

ハトの頭から食べた時、一緒に頭の中の不安が消化されれば良かったけれど、そう簡単にはいかなかった。いついかなる時でも絶対に裏切らない、ずっと変わらない美味しさ。その安定感にちょっと泣きそうになった。「もう帰ろう」と思えて、やっと立ち上がった。

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のん
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