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アメリカン・ミュージック・ヒストリー第1章 スタート
1. まずエルヴィスからはじめよう
今は亡き大瀧詠一氏が、自分のラジオ番組「アメリカン・ポップス伝」で本人も一番得意だと話していたロックン・ロールにフォーカスした特集を組んだ際、ロックン・ロールの歴史を紐解くということはエルヴィスを語ると言うことだと話していましたが、全く同感です。しかしながら1970年代、私がリアルタイムで見たり聴いたりしたエルヴィスは、ラスベガスのホテルのショーで歌うエンター・ティナーとしての姿でした。もちろん年相応の魅力を備えた大スターと言うことは間違いないのですが、かなり肉がついた身体で汗をふき取ったハンカチをお客さん(中年の女性が多い)にプレゼントする様子は正直中学生の私には魅力的には見えませんでした。ただ当時は「トム・ジョーンズ」や「エンゲルベルト・フンパーディング」が人気絶頂時でエルヴィスも同様なマダムキラー路線で大人気となっていました。
こんな出会いだったので、初めてのエルヴィスは決して良い印象ではなかったのですが、だんだんとアメリカ音楽を知っていくにつれて絶対に避けて通ることができない偉大なアーティストだということがわかり最初に取り上げることにしました。
*すべてのアメリカ音楽の過去と未来を繋いでいる結節点
音源として残っている1890年代から100年余に渡る20世紀のアメリカ音楽を物凄くシンプルに色分けするとすれば、エルヴィス以前と以後に分けられると思っています。1920年代から世界的なブームとなったニューオリンズ&シカゴジャズやブルースは、もちろんのことニューヨークの白人ダンス音楽やスウィング・ジャズもエルヴィス登場前の時代として「ジャズの時代」、登場後を「ロックの時代」として整理すればエルヴィスは、100年余りの音楽史上の転換点に位置し、尚且つ黒人音楽と白人音楽融合の結節点にもなったと思うからです。
先ほども触れましたが、エルヴィスのメジャーデビューは1956年、しかしながらその2年前の1954年のテネシー州メンフィスのローカルレコード会社「サン・レコード」での録音が非常に重要な意味を持っています。当時サン・レコードのオーナー(サム・フィリップス)は、黒人音楽(レイス・ミュージックと差別的に呼ばれていた)の魅力を表現できる白人、例えて言うならば黒人のように歌える白人歌手を求めており、エルヴィスにそのチャンスが巡ってきたのです。
その時のセッションの休憩時間にエルヴィスが即興で歌ったのが黒人R&Bシンガーであるビッグ・ジョー・クルーダップの「ザッツ・オールライト・ママ」でした。サム・フィリップスは手ごたえを感じたので、早速録音し、地元のラジオ局を使ってこの曲を流したところリクエストが殺到し、成功を確信したようです。
A面が決まったところでB面作りとなりましたが、ここでも歴史に残るバージョンが誕生します。ヒルビリー(カントリー)音楽の中でも50年代に入り、人気の高かったジャンルに「ブルーグラス・ミュージック」がありました。このブルーグラスはケンタッキー州出身のビル・モンローが完成させた音楽(楽器の技術面の難易度が高く即興性もあることからカントリー界のジャズとも呼ばれる音楽)ですが、その中のワルツ曲でヒットした「ブルームーン・オブ・ケンタッキー」をエルヴィスの感性で全く新しい音楽にしてしまいました。この時のこの瞬間に黒人音楽のR&B(実際には、ロックン・ロール)と白人音楽のヒルビリー(カントリー)が融合し「ロカビリー」と言う音楽が出来上がった訳です。こうして、最強のA/B面のシングル盤が完成しアメリカ音楽の大きな転換点となりました。
この章の最後にエルヴィスについて語られた言葉を紹介したいと思います。
「ジョン・レノン」
・エルヴィスがいなければビートルズも生まれていない
「フランク・シナトラ」
・俺はただの歌い手に過ぎないけど、エルヴィス・プレスリーは、
アメリカ文化の象徴だ
「アメリカ音楽史の著者 大和田俊之」
・アメリカ音楽史のみならず世界のポピュラー音楽の歴史を白人文化と黒人文化の混淆という図式でとらえるならば、その結節点の一つは間違いなくエルヴィス・プレスリーのパフォーマンスにある。中世ヨーロッパにまでさかのぼるバラッドの伝統とアフリカや南米大陸経由でもたらされた黒人文化の系譜。この二つの文化の融合を象徴するのがエルヴィスであり、彼が背負うことになった音楽史、文化史の重みに比べれば、ビートルズやローリング・ストーンズのメンバーは音楽センスに恵まれた青年たちに過ぎない。
【アルバム紹介】
エルヴィスのアルバムは、多すぎて選ぶのが大変ですが、極め付きの名盤達を紹介します。
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