最後の想いが届けたもの

私にはかつて夫がいた。2度結婚しているので2人。


夫たちは2人共、とても穏やかで良い人だった。でも、私は良い人を求めていたのでは、なかったのかもしれない。



現在、私は17歳年下の彼と7年半過ごしているが、彼は良い人か?と聞かれたら「そうでもない」と答える(笑)



別に比べる必要はないけれど、どちらかと言えば私は「良い人」より「愛が溢れている」人の側に、いる方が幸せだと感じる。



愛が溢れるって難しいかもしれないけど・・・

表現力の問題もあるかもしれないけど・・・



17歳年下の彼は「世の中の人が全員俺を嫌いでも、あゆが好きって言ってくれればそれだけで幸せ」と言ったりする。



実は、こんな幼稚に聞こえる言葉が、私は嬉しいのだ。2人の夫たちにはない心が動く表現。少し前まで激しい性格だったからなのかもしれない(笑)


結婚していた当時は、激しい人より穏やかな人が良いと思っていた。父が激しい人だったからよけいに、穏やかな人を求めた。


でも、結局、良い人だった最初の夫「太郎」と別れて、数年後、物凄く良い人の元上司の「次郎さん」と再婚した。


そして・・・思わぬ方向に運命が動くのだ


第2話 2章-2 最後の想いが届けたもの

次女の異変

私と次郎さんが結婚し、娘たちと4人で行った新婚旅行のグアムから帰国し、数週間経っていた。


娘たちは「太郎パパ」にお土産を渡したいと言っていたので、太郎に連絡してみた。



すると、太郎が私たちと一緒に住んでいたマンションを売って、引っ越しを考えているとの事で、休日にやる事が多く、少し落ち着いてから連絡すると言われた。



私たちが住んでいたマンションに、太郎1人で住むには広すぎるし、私が再婚した事で、マンションを残しておく理由がなくなったのだと感じた。



私は太郎の都合のいい時に連絡して欲しいと伝え、早めに調整してくれると約束し、電話を切った。



その事を娘たちに話すと、少し残念そうにはしていたが、数週間後に次女の保育園の卒園式を控えていた事で、気も紛れていた様子だった。



次女は「太郎パパ」にランドセルを買ってもらう約束をしていたらしく、とても楽しみしていた。


ね~今度いつ太郎パパに会える~?ランドセルとお土産と交換するんだ~


そんな事を、次郎さんのお膝に座って話す次女、それを優しい笑顔で見つめる次郎さんとの生活は、毎日が穏やかで私は、とても幸せだと感じていた。



そして、間もなく卒園式だという日の深夜、次女に異変が起こった。



スヤスヤと寝息を立てていた次女が、突然、ガバ!!っと起き上がり、布団から少し離れたところで、四つん這いになったと思ったら・・・


ウ~!!!オエ~!!!ウ~!!!


と、何かをもどしそうな勢いで、苦しそうによだれを垂らしていたのだ。



私と次郎さんは慌てて、近くにあったゴミ箱を次女の口元に持って行ったが、特に何かを吐くという事も無かった。



次女は、ひとしきり「オエ~!!」と苦しそうにした後、すっと自分の布団に戻り、またスヤスヤと眠ってしまった。



私と次郎さんは顔を見合わせた…

「なに?いまの?」



突然の出来事に、唖然としてしまったが、とりあえず、熱が出ないか?再度、吐き気に襲われないか?を気にしつつ、私たちも床に就いたが、あまりにも不思議な現象で、私はよく眠れなかった。


胸騒ぎと電話


翌朝、次女に体調の事を尋ねると、なんでそんな事聞くのかと、きょとんとした顔で不思議そうにしていた。



昨夜、突然苦しみだした事は、全く記憶がないというのだ。



体調に問題ないところを見ると、寝ぼけたのかな?とその時は軽い気持ちで考えていた。



実際、次女もいつも通り元気だったのであまり気にしていなかった。


その日の夜、22時はとっくに回っていたと思うが、私は無性に「太郎」に連絡を取りたくなった。



普段は、次郎さんの前で太郎に連絡する事は無いのだが、翌日に控えた次女の卒園式の事でという名目で、連絡したのだ。



でも、本当は「理由も無いのにすごく連絡したい」という気持ちだった。



携帯電話に連絡したが、電源が切れていた。仕方なく自宅に電話したが、誰も出ない。留守にしているのか?



それでも、時間を空けて何度もかけなおした。


すると、23時を過ぎた頃、やっと電話が繋がった。電話に出たのは、お義母さんだった。私は慌てて無言で切ってしまった。


もしかしたら・・・別れると言っていた彼女と上手くいって、婚約祝いの食事会でもやってたのかな?電話して、まずかったかな…


そんな気持ちになったが、なぜかやっぱり気になって、もう一度電話をかけてみた。



普段なら、絶対に取らない行動に、次郎さんも流石に不機嫌そうだった。



でも、なんだか胸騒ぎがして、かけずにいられなかった。



次に電話に出たのもお義母さんだった。私は思い切って、偽名を使い「太郎さんはいますか?」と尋ねた。



すると、お義母さんは「太郎とはどのようなご関係ですか?」と聞き返してきたので、「職場が一緒でお世話になっている者です」と、とっさに答えた。



息子は亡くなりました。


え???・・・


息子は亡くなりました。


お、お義母さん!!…あ、あゆです。ご無沙汰しております。亡くなったってどういうことですか?!


私だという事が分かると、今までの淡々としたお義母さんの口調が一気に変わった。


あゆさん?!あゆさんなの?!どうして分かったの?今どこ?!今、ここで!太郎が死んでるのよ!!死んでるのよ!!警察に来てもらって、ドア開けたら死んでるの!!


お義母さんが現状を伝えようと一気に話してくるが、私は殆ど聞き取れていなかった。



死んだ?誰が?太郎が?なんで?どうして?



私はこの言葉だけが頭でぐるぐる回っていた。


太郎が私に知らせたかった事…


私の様子を見ていた次郎さんが、そっと背中をさすってくれた。



私は、正気を取り戻し、お義母さんとの電話を切った後、私の知る太郎との共通の知り合いに連絡を取った。この日は既に深夜だった為、本当に親しくしていた人にだけ連絡をした。



最初に連絡をしたのが、高校1年の時の担任の先生だ。この先生は新任で、私たちが最初の教え子という事もあり親交も深かった。年も9歳違いで、夫の次郎さんと同じ年。


お兄さん的存在の先生だった。



先生に連絡し、一通り話し終わった最後に先生はこう言った。


あゆ、大丈夫か?側に誰かいるか?思い詰めるな、分かったな


この時は、突然の事で頭が回らなかったけど、この後、先生の言った言葉の意味を思い知る事になった。



夜が明けて、卒園式・・・卒園式が終わるまで、娘たちには太郎パパの訃報は話さなかった。というより、話す事で私自身が泣き崩れる事が怖かった。



式も無事に終わり、帰宅し娘たちに太郎パパの訃報を伝えた。娘たちは驚いていたけど、思ったほど取り乱す事がなかったのが救いだった。



そのまま、私と娘たちは太郎の家に向かった。司法解剖も終わり、自宅に遺体が戻ってきているとの連絡があったからだ。



太郎の自宅に着くと、お義母さんと太郎の彼女がいた。


実は、太郎の元不倫相手で現彼女の女性と私は面識があった。太郎の会社の社長の娘で、2つ年上の女性だ。



お義母さんは、太郎を発見した日に初めて、2人が付き合っている事を知ったと言っていた。私も、この女性が彼女だった事は、今日初めて知ったが、知っていた振りをしていた。



彼女は私を見て、恐縮するどころか、むしろ堂々としていて、圧倒されてしまった。



お義母さんの話によると、


ホワイトデーに彼女と太郎は待ち合わせをしていたが、何時間経っても太郎は来ない。電話にも出ない。その前の晩、電話で喧嘩した事が原因かと思い、自宅を訪ねたらしい。




チャイムを鳴らしても出ない、どうしても会いたいと思い、スグ近くに住むお義母さんに頼み込んで、一緒に合鍵で中に入ろうとしたところ、チェーンが掛かっており、呼びかけても出てこない為、警察に連絡したらしい。



チェーンを切って中に入ったところに、私からの電話があったというワケだ。


死因は心不全だった。


口を開けたまま苦しそうに横たわっている太郎の遺体の横に、彼女がベッタリとくっついていた。



私たちは太郎にお別れを言いたいと、彼女に話しかけると、渋々席を空けてくれた。



私は冷たくなった太郎の頬に手を当てた。涙が一気に込み上げてきた。


離婚なんかしないで、側にいれば、太郎は死ななかったのかもしれない。苦しみに気付いてあげて、救急車を呼べば、助かったかもしれない。


でも、どんなに後悔しても、もう遅い。太郎は死んだのだ。



ごめんね



それしか言えなかった。



私があまりに激しく泣くので、不安になった娘たちが言葉をかけてくれた。



「太郎パパは、ママに自分の作ったお料理を食べさせたいって言ってたよ、ほら!冷蔵庫にレシピ貼ってあるよ!!」



そして、次女が、太郎パパの顔をスリスリしながら「せっかくお土産持ってきたのに…早く起きなさい!!」というと、そこにいた人たちが一斉に泣き出した。



太郎への挨拶を終えた後、私には沢山の仕事が待っていた。太郎の家にある金庫の番号やら、様々な暗証番号を尋ねられた。太郎の私物の整理も、私の仕事だった。



そして、作業をしていると、太郎のお姉さんに、太郎の財布を渡された。

「これ、見てごらん」



いつも持ち歩いていた太郎の財布には、沢山の写真が入っていた。私はそれを見て、おどろいた。


2枚だけ娘たちの写真で、残りの10枚ほどが、全て私だけが映っている写真だったからだ。


太郎は…私を愛していたのだろうか?でも、じゃあなんで、もっと分かりやすく表現してくれなかったの?なぜ、浮気してたの?



太郎に聞きたい事がドンドンあふれてくる…


でも、もう2度と聞けないのだ、2度と太郎の気持ちを知る事が出来ない。


なんで?なんで?私に何か言いたい事があったのなら、もっと早く言って欲しかった。


その時、私は思い出していた。次女が夜中に突然起きて、苦しそうにしていたことを…実は、あの日のあの時間は…太郎の死亡推定時刻と、同じ時間だったのだ。



太郎は間違いなく、次女を通して私たちに伝えたかったんだ。自分がこの世を去る事。そして、誰よりも私たちを大切だと思っていた事、その思いを上手く伝えられなかった事を・・・


つづく

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