第3章① 新たな道への地図

運試しのように、絶対に売れないと営業に言われた価格で、店舗を売りに出した。


「絶対」という言葉がこの世では「絶対ではない」という事を、この時に実感した。なぜなら、公開してたった1週間で買い手が決まったからだ。


店は私の希望金額で売れたのだ…


私たちは2か月後の閉店に向けて動いていた。それぞれのこれからの仕事も考えなければならない。



私にとって、お店を辞められるという事が、何よりも幸せに感じていた。お店をごひいきにしてくれていたお客様には、本当にひどい話だと思う。



でも、私は、どんなに批難されても、自分のこの先の人生だけを考える事に決めていた。そして心からほっとしていた。


閉店のお知らせとそれぞれの進路


実は、店を売りに出す事を半年以上前から、私はうっすらと考えていた。



肉体労働ではなく、通勤もしない仕事というものに憧れ始めていたからだ。



私のお店は「飲食コンサルタント」から学んだ事を実践する事で、繁盛店になれた。そのコンサルタントを私は「メンター」として学びの全てを吸収したいと思っていた。



ただ、飲食コンサルタントになるつもりは無かった。



飲食店の経験があっても、メンターより優れたコンサルタントにはなれない気持ちもあったし、実際に飲食店で「お客さんを幸せにしたい」と一度も思った事がない、そんな人間が、クライアントを満足させるコンサルは出来ないと思った。




そんな時「誰でもコンサルタントになれる」というセミナーに参加し、コンサルタントになる為の、グループコンサルに申し込んでいた。



金額は半年で100万円



全ての出来事は自己責任。大金を払って、私は旅館業のコンサルとして活動するために、この時からコツコツと電子書籍を作成していた。この本をフロントエンドにして集客するつもりで…



私の準備は着々と進んでいた。



一方、ヒロはFacebook集客を頑張っていた時に1人のキーマンと出会っていた。



カナダで日本食レストランを経営しているオーナーからの依頼で、日本人スタッフを探していた仲介者だ。



ヒロは、お店が売れて私がホッとしてたのも、全て自分のマインドのせいで、争いが多かったせいだと思っていたと思う。




ヒロ自身、自分が周りに対して取ってきた「態度への責任や影響」を考えると、お店を続けたい気持ちを、抑えたのかもしれない。




ヒロの中では、飲食に携わる事を続けたい気持ちと、そして何より、自分のマインドの幼さを、変えたいと思っていた。その為に、自分の環境を変えようとしていたのだ。



そして、異国カナダに行くことを決めたのである。




次女は意外にも、焼き鳥屋に就職した。大手飲食店が手掛ける業態の1つの焼き鳥屋だ。



本当はフレンチ希望だったようだが、仕込みも、焼きも経験のある次女は、焼き鳥部門に配属が決まった。



こうして、私たちの新たな進路は決まっていった。後はお客さんへの報告と、いままでお世話になったお礼のイベントの開催。私たちは最後の日まで、何とか乗り切ったのである。


年齢の壁と引き抜き


多くのお客様に惜しまれて、最終日のパーティーが終了した。



閉店を決めてから最終日までにも、何度かヒロの態度が、目に余る事もあったが、もうこの店での全てが、終わったと思えただけで幸せだった。



私はこの2年半の間の事を思い出していた。



私とヒロは、まだ別れていなかった。カナダに行くと決めたヒロの成長が少し楽しみだった。



どんなに嫌な事があっても、最終的に別れなかったのには理由がある。



それは、かつての自分がヒロに似ていたから。



確かに、私は女性なので冷蔵庫を蹴ったり、大声で威嚇した事はない。でも、今までの2人の夫達に今の様な冷静な対応は出来ていなかった。



大したことない理由で、夫に詰め寄り、あの時はあーだった、この時はこーだったと、ヒステリックに相手を責めた。



気が利かない、私の事を分かってない。といつも不満を口にしていた。それでも夫たちはいつも穏やかだった。



穏やかだったけど、それが私には「全てに興味が無い」ように見えてしまっていた。



表現方法の違いなんて、誰にでもあるのに、私はそういう夫達にいつもイライラして当たり散らしていた。




自分自身が「必要とされている」という実感持てず、寂しかったのだと思う。



だから、いつもヒロがキレる度に、昔の自分を思い出していた。



ヒロは、いつも私の事を考えていた。それは最初に「あゆさんの事を1日中考えていました」といった時から変わってなかった。




ヒロの気持ちはいつも不安だったのだ。自分の本当の気持ちが私に伝わっているのか?私がヒロの事をどう思っているのか?


「いつ別れてもいいよ」という顔をしている私に、ヒロは日々寂しさを感じていたのだ。



ヒロは私。



心のどこかに、誰からも愛されていないのではないか?という寂しさを抱えていたことが、イライラとなって表に現れる。私も同じだった。



だからこそ、必ず成長する事を信じてあげようと思っていた。



そんな中、当時、ヒロの年齢32歳では、ワーキングホリデーのビザが発行できない事が分かった。



カナダ側からも、現地スタッフが日本に会いに来て、様々な提案をしてくれたが、結局、今回の就職は中止という事になった。



店の掃除も終わり、次のオーナーへの引き渡しも終了し、私とヒロは今までの疲れを癒すように、しばらく休養していた。



そんなある日、飲食店経営者仲間の1人から連絡が入った。


自分の店をこれから多店舗展開するにあたり、店長候補の人材が欲しい、あゆさんのところで働いていた店長さんと1度話をしたいのだけどいいですか?

私は、ヒロにその話を伝えると、話だけでも聞いてみるとの事だったのでそのまま話をすすめた。


店長として復活


ヒロは知り合いの飲食店オーナーの誘いで、新店舗の店長として働く事を約束し、そのお店に就職した。



焼き鳥屋ではないが、いずれ焼き鳥をやっても良いとの言葉もあり、ヒロは張り切っていた。



私がやっていたマーケティングも、販促もヒロは学んで身についていたので、店長として責任感をもって頑張り始めていた。



新規オープンのお店の為、最初はお休みが少ないのは覚悟していたようだった。私もできるだけ応援し、負担にならないように協力していた。



私も旅館業のコンサルタントとして、kindleで電子書籍と小冊子を出し、集客も上手く行きはじめていた。



これからは時間も、お金も手に入り幸せになれる、そう思っていた。



でも、それは思い過ごしだった・・・



私たちが夢見ていた理想の暮らしとは、ほど遠い道へドンドン流されていくのであった。


つづく

無名の私の文章に興味を持ってくれてありがとうございます!今後の活動のための勉強代にさせて頂きます!私の文章が、誰かの人生のスパイスになれば嬉しいです。ありがとうございます!