「トリオ」という生存戦略


トリオのことばかり考えている。
   

 四千頭身(※1)のラジオを週に2番組聴いている。

 ラジオ自体は電車移動の仮眠時や就寝前には絶え間なく聴くのが習慣なので、必然、「四千頭身の四千ミルク」も「四千頭身のANN0」もそのローテーションに入って来る。さながら睡眠学習、四千頭身イズムが私の意識と無意識にどんどん侵食してくる。

ラジオに漬かった生活を始めて13年目。耳慣れたパーソナリティーの方々と実際にお会いして感動することは何度もあったが、今回は逆だ。もともとライブでご一緒していた芸人さんが最前線のパーソナリティーとして自分を含めた沢山の人々の耳馴染みになっていくことに感動している。我ながら奇特なリスナーだ。
   

 トンツカタン(※2)について考えることも増えた。
 芸人というのはコンビであれトリオであれ、相方と連るむ余所の芸人とは連るまないという偏屈な習性が強いのだけど、私はトンツカタンというトリオには三者三様にバランス良くお世話になっている。菅原さんは私の考案したライブに志願して出てくれるし、櫻田さんはライブや仕事以外で私を遊びに誘ってくれるほとんど唯一の先輩だ。そのフロントマンたる森本さんの「おこたしゃべり」というインスタライブ配信には毎週出させてもらっているし、普段もく聴く習慣ができてしまった。森本さんからトンツカタンに入ったファンの人だとしたら、その配信を見ていても他のお二方について意識することは少ないのかもしれないが、他の二人をよく知っている私は、森本さんだけを見ていてもなかなかどうして「トンツカタンを率いる人」として意識してしまう。  

 

二組に共通している点は多い。
 
まずはフロントマン(ネタ作りもネタの進行も担っている人)が真ん中にいて、誰の目にも明らかであること。

フロントマンは優秀さが見えやすくなり、褒められることが多くなる。きっとすぐ近い未来にこの二組のトリオが大ブレイクするのも、(※3)フロントマンの能力への注目がきっかけになると思う。
 
次に切り込み隊長的な人も明らかであること。
彼はネタを作ってない雰囲気、プレイヤー然としており、小さなボケや愛嬌で笑いを取り、場の空気を和ませる。ハードルを下げる係、ムードメイカーでもある。
 
そして最も巧妙なのは三人目の位置が不明確であることだ。
フロントマンは俯瞰視点を保つために、上空にいる。
切り込み隊長は機動力が武器なので、地上にいる。(その地上との摩擦によって生じる熱が、彼のメイクするムードである。)

しかし「三人目」はどこにいるかバレていない。
地上にいるときも上空にいる時もあるし、背後にいるかもしれない。
 
つまり、櫻田さんと石橋くんはどこにいるのだろう?という緊張感がこの二組のトリオを見るときの昂揚感の正体なのだと思う。少なくとも私はそう楽しむ。
(※四千頭身は主に漫才なので石橋くんは視覚的には見えているけれど、「意味的にどこにいるのだろう?」つまり、「このネタ・くだりで石橋くんはどう機能するのだろう?」という期待感がある、ということ。)
 
 
この「三人目」の存在感は関係性の中でも機能してくるのではないかと想像する。
コンビというのは強固になり得る反面、一度ひびが入れば修復困難な、リスキーな関係性だ。
 
①AーB
 
 
 
それに対して、トリオは、関係の数が単純に4本あり、一箇所がうまく行かなそうな時は他の3つの線を選べるという安心がある。
 
①AーB
②BーC
③CーA
④A,B,C(全員集合する時)
 
 
ここで三人目の位置が自由なのはすごくいい。
コンビだと煮詰まる関係性に、三人目のおかげで「抜け」ができる。
 
現に自分がコンビをやっていて思うことは多い。
だいたい同時期に同じくらい仕事が分担できているコンビというのはいなくて、ネタ作りにせよ平場での振る舞いにせよ、引っ張る方は決まっている。引っ張る方は引っ張られる方に能力や仕事量的に不満を持つし、引っ張られる方はどこか、自分だけが責められているような思いがしてストレスを貯めていたりする。多少バランスの取れたコンビでも、自分が精一杯やったのに外的要因や運のせいで思い通りにならない時に、相方のせいだと思い込みやすい。

(※4)
 

私もトリオが羨ましいと思うこともあるが、すぐにトリオになれるわけでもないし、トリオにはトリオの悩みがあることも当たり前に想像する。

しかし、「トリオ的関係」を真似することはすぐにできる。
 
 
 
実際、今の相方と二人だけの時は互いにストレスの蓄積があったしネタが全く作れないスランプもあったが、作家のような人を入れて三人のグループLINEを作った途端に関係性もネタの進捗も改善した。有名なコンビをブレイク前から支える「三人目の〇〇」と呼ばれる作家さんが多いのも、自分のような青二才の目線からでさえ大いに納得できる。
 
 

芸人だけの話ではない、と思う。  

大概うまくいっていない関係性というのは二者間の関係性だ。
いじめのような一対多の問題は、とにかく場が狂っているので逃げるのが吉に決まっている。全然別の話。


しかし複雑な入り組んだ多対多のトラブルは、ほぐしてみれば必ず一対一の関係性、つまりはコンビ仲の集積だ。
それが敵ではなく本来は共闘関係、共存関係なのならば、そしてこれからも否応なく一緒にやって行かなければならない仲間ならば、なにも人数にこだわることはない。二人の関係に誰かを足して、「コンビ仲」を「トリオ仲」にしてしまえばいい。 
 
反りの合わない上司とすぐには離れられないなら、まずはその上司と親しいだれかと仲良くなって、いつの間にか三人で飯など行くノリを作ってみればいい。
恋人との関係が停滞しているなら、互いの親友を紹介し合えばいい。
「子は鎹」という古の教えも根は同じだろう。
 
 
 
トリオという形式について考えすぎるようになったのは、優秀でカリスマ性も兼ね備えたトリオがたまたま身近にいたからというだけではない。

馬鹿げたストレス社会。
同い年の友人の多くは社会人3年目。
飲みの席で聞く愚痴のほとんどが人間関係のそれだ。
聞きたくない。面白くない。何も生まれない。
 
そんな時、これからは、四千頭身やトンツカタンの動画を見せて
「あなたにとっての石橋くんや櫻田さんを探してみたら?」
と助言してみようと思う。


※1 四千頭身:ワタナベエンターテインメント所属のお笑いトリオ。主に漫才。 http://www.watanabepro.co.jp/mypage/4000081/

※2 トンツカタン:プロダクション人力舎所属のお笑いトリオ。主にコント。 http://www.p-jinriki.com/talent/tontsucatan/

※3 もうしてると言ってもいいくらいだけれど、

※4 あくまで生身の自分役として、舞台上でコンビ水入らずで十年も二十年も人前で笑いという生理的反応を求めて試行錯誤するストレスたるや。その果てに何食わぬ顔で滑稽を演じる背中に得も言われぬ色気が漂うのは死を前にした軽業師と似て当然で、我々はそれを凝縮した賞レースの煽りVTRにまんまと酔う。でも、それは死を厭わない軽業師がやればいい。生活がある人はコンビ関係に固執しないで、早く石橋くんや櫻田さんを探してほしい。


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