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普通の人になろうとした話

大学1年生の頃、僕は大学のどのコミュニティでも浮いていた。

当時の僕は、中高一貫男子校上がり。男子校ノリと進学校のゴリゴリ競争社会という特異なコミュニティでほぼ固定されたメンバーと長い間過ごしてきた僕の価値観は、周りの友達や世間一般の価値観と比べると大きくズレていた。

異性とまともに話せないのはもちろんのこと、同性とすら価値観もノリも話も合わず、うまくコミュニケーションが取れない状態だった。

入学初期に成り行きでできた仲良しグループからは早々に孤立した。サークルではヤバい奴認定されて意に反するキャラ付けをされた。プライドが今の比じゃなく肥大化していた当時の僕はそれを不服に思い、余計に関わりづらい人になっていった。大失恋も経験した。

僕は、自分が嫌がられたり、周囲から孤立したりするのは、自分が周りと違うからだと考えた。今までの自分は、ひいてはありのままの自分は世間では受け入れられないと考えた。僕は自分の個性を価値のないもの、マイナスなものだと捉え、自分のことを嫌いになった。そして、なるべく自分の個性を消して周りにいる「量産型大学生」になるように変えていくことで、友達からも異性からも嫌がられず、人並みの扱いを受けられるようになることを目指した。普通の大学生、普通の人間になろうとしたのだ。

普通の人間を目指して

大学2年生になるタイミングで、僕の普通の人間になる計画はスタートした。サークルの新入生には、できるだけ普通の人に見られるように注意しながら接するようにした。授業で気になる女の子ができたときは、趣味を「鉄道」と言わずに「旅行」とぼかして話したりもした。

写真を撮るときに無表情で目が細くなりがちだったので、目を見開いたり表情をつくるようになったり、洗顔や化粧水など美容にも気をつかいはじめた。(ここら辺は結果として良かった内容であり、今も続けている。)

大学入学後一年以上経ったこともあり、拗らせたプライドやコミュニケーションは以前と比べたらいくらか改善されており、自分のことをよく知っているサークルの仲間とも普通に話せるようになっていた。

しかしスタンスとしては依然として、周りの目を気にして必死に個性を消して、新しく知り合う人には変な奴だと思われないように気をつけながら過ごしていた。

転機となった、「アシカ事件」

転機が訪れたのは、その年の9月。サークルの夏合宿のことだった。

僕のサークルでは、毎年夏合宿では2日目の夜にチームに分かれて余興の出し物をやる伝統文化があった。メンバーのモノマネをしたり、芸人のネタをコピーやアレンジしたり、過激やゲテモノ系に走ったり、チームによって色が分かれるものであった。

そして、僕達のチームは、ゲテモノ系で攻めることになったのだ。
僕達は、その日の昼間に水族館で見たアシカショーを思い出し、アシカショーをやることにした。僕と後輩の男子がアシカ役となり、半裸でアシカの大勢を取りながら、跳ねたり、餌付けされたりするのだ。そして最後に僕が体に粉チーズをかけられ発情し、後輩のアシカがそれに寄ってきて体の粉チーズを食べるというオチだ。

最初、僕はこの企画に乗り気ではなかった。せっかくマトモな人間を演じてきたのに、全部無駄になると思った。一年前に逆戻りし、また人権を失くすと思った。一年生の女子はもう口を聞いてくれなくなることも覚悟した。

しかし、結果の反応は予想とは異なるものだった。

アシカショーの余興は大好評で、数年にわたり語り継がれるエピソードとなった。口を聞いてくれないと思っていた一年生の女子もどういうことかアシカを気に入り、「アシカやってー」とリクエストをしてきて、やると喜んでくれるのだ。

それまで僕は、嫌われるのを恐れ、蔑まれるのを避け、減点されないような無難な人間でいようとして過ごしてきた。

でも、そんなこと気にしなくても、皆から嫌われるわけじゃないんだ、むしろそれを求めてくれる人もいるんだと気づいた。だから、ありのままの自分でいることに対する抵抗がなくなり、自分のことを好きになれた。

それからは、人並みに扱われようなどと余計なことは考えず、個性を殺そうともせずに、自然な心持ちで周りと接することができるようになった。そうしたら、大学生活はより楽しくなり、入学当初に思い描いていた大学生活を過ごせるようになっていった。

5年経った今思うこと

この経験から、早くも5年が経過した。
今の僕は、5年前とは真逆の、「世間の目や社会通念なんか気にするな!」「"優れるな異なれ"だ!」というような価値観になっている。

今の僕の価値観の根本は、この経験があって、自分の個性を愛せるようになったからこそ形成されたのだと思っている。アシカ事件がなければ、今の自分は全く違う、もっと卑屈な、あるいは窮屈な人間になっていたかもしれない。僕の大きな原体験の一つである。



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