好きなことを仕事から趣味にするタイミングが来たんだよ
ドラマ カルテットを観ました。
感情移入を激しくしてしまうのでドラマや映画は触れないことにしていましたが、このステイホームを機にサブスクを契約し見事なまでにどっぷり浸かっています。
このドラマは弦楽器の奏者4人が運命的必然でカルテットを組み同棲の中で、積み重ねた過去をゆっくり溶かしていく人間ドラマに感じました。みんな蔑ろにして向き合うことを避けたり、なんとかして折り合いをつけてきたりしたものに対してもう一度正面から向き合ってみる、感情を出してみる、ぶつかってみる。そんな場面に突き動かされた人も多かったのではないかと思います。
監督は坂元裕二さんです。実はカルテットの前に大豆田とわ子と三人の元夫というドラマも観たのですがそれが面白すぎてカルテットに流れ着きました。便利な世界です。日常の些細な言動、すんなり飲み込めない出来事、それでも流れていく毎日にどうやって向き合ってどう人生を歩んでいくかの描写が、坂元監督の作品はとても細やかだなと感じました。
一度きりの人生、一回で正しい選択をとるのは難しいです。大人になればなるほど、カッコつけたり正しくいようと試みて自分を殺してしまったり、社会にとらわれて自分らしくあることを忘れてしまうのですが、それって言語化するの難しいなと思っていました。それが日常だったからです。きっとみんな思っているけれど言語化するまでもないと思っていたから、それをダイレクトで観せられて心を鷲掴みされたようでした。正しくいようとして、心に突っかかったものを見て見ぬふりをする。そういうものだよね、って受け入れたふりをして流してしまう。正しさなんてなくて、自分に従うことが全てだよ。自分の心を疎かになんて、それって人生じゃないじゃん、が形になっていました。
レビューにもありましたが、一つ心に突き刺さって抜けない言葉がありました。作中で4人は奏者として物語が進んでいきます。彼らはプロでなければ二流でもなく、音を楽しむために演奏します。それでも音には想いや気持ちが乗るものです。そこに過去や未来や、もちろん今も関わって複雑になるのですが、一度は真剣に音楽に向き合ってきたもの同士、楽しむだけでいいのかという場面が幾度となく現れます。
自分の人生で「これを頑張ろう」と考えたことがある人はこの場面が本当に苦しいはずです。人生は甘くないです。努力しても、継続しても、恵まれない人たちが一定数います。ある程度の年齢になるとそれを実感しなければいけないのです。直視したくないくらい厳しい現実で、受け止めたくないけど、やればやるほど実感してぼんやりと、そしてしっかりと理解せざるを得なくなる。自分の人生だから好きなことをやればいいんだけど、好きだけじゃ生きていけない。好きな気持ちだけではご飯は食べられない。作中ではアリとキリギリスの話を例えていました。趣味にしたアリは楽しいけど夢にしたキリギリスは泥沼だった。好きなことを趣味と割り切れるのか、割り切れるほど軽い気持ちだったのか、追わない限り手に入らない夢を夢で終わらせていいのか。この問題は本当に苦しいです。自分が戦いたいフィールドで負けと認めることと同義なので、好きな気持ちが大きければ大きいほど趣味にしづらいです。これをどうやって飲み込んでいくのか、そこの描写が私は一番好きでした。
他にも優しさ、愛しさ、強さをいろんな形で見せてくれますが、どこにも品が散りばめられているのが心地良かったです。現実では品のない世界でズケズケと踏み込まれたり踏み込んでしまっている(だからありすちゃんの一つ一つの言動にたくさん共感できた)のですが、何か話をするたびに暖かいお茶を飲んで、明るい光のもとでみんなで食卓を囲んで、直接聞くのではなくて暖かさで包んでいた。その光景がとても眩しかったです。同じシャンプーの匂いがするねとまきちゃんとすずめちゃんが話すのですが、五感がいかに生活に直結していて大切なものかと思い直させてくれました。つながりはそういう細かいところにある。だから同じ家に住むことは楽しくて尊いんだと思いました。
坂元監督もすごいと思いますが、それを自然に演じている役者さんたちもすごいなと思いました。画面越しでは比較的冷静に見てしまうので、過去共感性羞恥を起こしたり、場面が不自然に思えて没頭できずストーリーを追えなくなってしまったりしていたのですが、豪華な役者さんばかりでそんな時間もないまま全て見終わってしまいました。一点、あれはみなさん本当に演奏されていたのでしょうか。
松たか子さんが演じる役は強くて流されない、大豆田とわ子もそうでした。ちょっとやそっとじゃへこたれない。でも繊細で人の心に寄り添ったり、愛をあげたり、たまに間違えちゃうけど自分の判断を正しいと思って突き進める人です。作中ではいろんな過去があるけど、どれも大好きです。何度も手を取るシーンがあったけど、大人になってから信頼という側面で人の手を握ったことはないかもしれないです。手を握る、という行為は信頼の証なのかもしれません。
ドラマをたくさん見たり、坂元ラバーとまではまだいかないので考察や脚本という観点で感想を述べらませんが、私自身とっても楽しんだので感想でした。サブスクはCMや週を跨がないので一気に観られていいですね。自分の人生に重ねすぎ注意です。
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