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読書感想 | 女のいない男たち(村上春樹著)

『女のいない男たち(村上春樹著)』は6つの物語からなる短編集です。
学生の頃に『1Q84』を読んだことがあるのですが、4部作のうち3作目で挫折して以来(とにかく月がよく出てきたという薄い記憶…)の村上春樹2回目です。
表現が詩的すぎて凡人の私にはよく分からないという印象が強く、敬遠していましたが、短編集ならば、かの有名な村上春樹さんの作品を楽しめるかなという期待から読んでみました。

身構えて読み始めたのですが、非常にドラマチックで物語の世界に引き込まれました。どの話にも「浮気」がテーマとして出てきましたことも、とっつきやすかったです。(笑)

特に印象深かった2作品についての感想文です。

まるで世にも奇妙な物語『独立器官』

『独立器官』は、ラストの展開が予想外で、一番面白かったです。異常さと恐怖を感じました。

主人公は、52歳男性で、職業は美容整形外科、同時に複数人のガールフレンドと付き合う独身貴族です。
去る者追わず、来る者拒まずで、結婚を前提としたような真剣なお付き合いはしない。ガールフレンドたちの「ナンバー2の恋人」であることを楽しんでいました。
そんな主人公が深い恋に落ちてしまいます。相手は既婚女性で子どももいるため、主人公は初めて自分がナンバー2であることに苦しみます。


異常性に引き込まれた点①

主人公は、その女性に真剣に恋をして幸せな反面、「私とはいったいなにものだろう」と考え始めるのですが、「アウシュヴィッツの収容所」を仮定に出して悩みます。
悲惨なイメージの強い「アウシュヴィッツの収容所」が出てきたことで、そこまで楽観的に進んできた物語が一気に悲観的になったように感じました。

恋愛に悩む中で思いつくワードではなく、主人公の思い詰めの深さを感じました。また、両思いなのに自分自身の存在価値までを疑問に思うなんて、これが不倫の無意味さなのかなと思いました。


異常性に引き込まれた点②

主人公は結局、その女性に裏切られてしまいます。

その裏切られ方と、余裕満点のプレイボーイだったはずの主人公の落ち込みようが、予想していなかった展開で面白かったです。

女性は、夫と別れ、主人公とは別の男性と暮らし始めます。第三の男性がいて、主人公はまさかの踏み石的な存在だったのです。主人公はショックで食事がのどを通らず拒食症のような状態になってしまい、しまいには死んでしまいます。

意表をつかれる展開でした。主人公と女性は深く結びついていると思っていたので(後から考えると主人公の主観的目線でした)、まさかそんな裏切られ方をするとは思いませんでした。
さらに、優雅な主人公の悲劇的な最期が異様で共感できず怖かったです。

本の中でも出てきますが、主人公は自分が何者であるかわかったのでしょうか。

例えで出てきたアウシュヴィッツの収容所では、開業医として優雅で満ち足りた生活をしていたユダヤ系市民が、明日にはガス殺になるかもしれない野犬同様の扱いを受けます。

主人公は、この医師と同じような運命を結局辿ってしまったと感じました。


まるで絵画『女のいない男たち』

最後の物語である『女のいない男たち』を読み終えた感想は、「ああ、出た…」でした。村上春樹の「表現が詩的すぎてよく分からない」という印象をそのまま感じた話でした。
これまでの5本がストーリー性がしっかりあったのに対して、この物語は主人公の独り言がたらたら続いています。
まだ私には早かったか…と思っていたのですが、2回目読んでみると感じ方が変わって、受け入れることができました。

真夜中に突然、主人公のもとに昔付き合った女性の夫から女性が自殺したと電話が入ります。
主人公は女性の死を悼み、想いを巡らします。

物語はこれで終わりです。
自殺した理由は分からないし、なぜ女性の夫は主人公に連絡したかも分からない、謎だらけで終わります。

ドラマチックで初恋のような恋をした忘れられない女性だったこと、当時別れた時の悲しみを「14歳のような恋で、世界中にいる水夫に連れ去らわれた」と表現して、それが何度も出てきます。

女性の死に対する深い喪失感を抽象的に表現していて、読者それぞれに解釈の余地をしっかり与えていると感じました。

私は、そこから「絵画」を連想しました。
イメージはクロード・モネのような淡いタッチの絵画です。(美術に詳しいわけではないけれど)

俳句や詩の楽しみ方ってこんな感じなのかな??とちょっと入口に入れた気持ちになりました。



総じて、読んでよかったです!違う村上春樹作品も読んでみたいです。






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