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ライター入門、校正入門、ずっと入門。vol.20

「校正・校閲の仕事を専門とするプロフェッショナル集団」聚珍社の中嶋泰と、フリーライターの張江浩司が多種多様なゲストお迎えしつつ、「書くこと、読んでもらうこと」について話していくトークイベントの模様をダイジェストでお届けします。

※本イベントが行われた2023年12月時点の情報です。現在とは状況が変わっていることがあります。


AIブームで年収が数倍に

張江 ライターをやっております、張江浩司です。司会を務めます。

中嶋 聚珍社の中嶋です。このイベントの主催をしています。

一色 普段はプログレッシブアイドル XOXO EXTREMEで活動しています、一色萌です!

張江 今回は最近めちゃくちゃ聞くようになったAIについて、たっぷり伺おうと思います。なんと、タイからリモートでの出演です!

田口 ITライターやってます、田口です。よろしくお願いします。

中嶋 そちらは何℃くらいですか?

田口 23℃くらいですね。タイで一番過ごしやすい季節です。朝晩は冷えて17~18℃まで下がるので、一年の間でこの時期だけ上着を羽織ったり。タイの中でも北の方にあるので、避暑地みたいな感じなんですよ。

張江 日本は冬ですからね。うらやましい。

一色 田口さんはアイドル界隈でも有名ですもんね。

張江 中嶋さんとはオタク仲間というか。

田口 一時期、特典会でよく同じ列に並んだりしてましたね。

中嶋 そんな繋がりです(笑)。

張江 田口さんは最近「ChatGPT快速仕事術」という著書を出されました。

田口 これに関しては忸怩たる思いがあって。ChatGPTが話題になったのは去年(2022年)の秋くらいじゃないですか。その段階で絶対に売れると思ってこの本の企画書を出したんですよ。そのときは時期尚早ということで見送りになったんですけど、今年の4月に他社から似たような本が出て、もうバカ売れですよ。技術書なのに10万部超えてますからね。印税を考えたら気が遠くなります。

張江 「あのときに出せていれば」という。

田口 そうなんです。結果として、この本は10冊くらいでてる2匹目のドジョウのうちの一冊になってます。それでも、通常の数倍の売り上げがありますね。

一色 すごい!

田口 ライターになって20年くらいたつんですけど、大きな波が2回あったんですよ。最初はブログブームで、その波にうまいこと乗っかってライターとして名前を売ったという感じなんですね。そこから細々とIT系ライターをやりつつ、コロナもあり、タイに移住もして、そろそろヤバいかなと思ってたところに、このChatGPTという大ブームがやってきて。今年の収入はコロナ時期に比べて数倍になりそうです。

張江 そんなにですか……!

田口 元々が大したことないんですけどね。すごく小さい、IT系ライター界隈でのブームという話ですけど。タイにいるから、日本での浸透度が全然わかんないんですよね。うちのオカンとか知ってるのかな。

一色 若い人中心ではありますよね。今の時点では賢い人が使いこなしてる印象があります。

田口 もうちょっと一般層に降りてきてるかと思ったらそうでもなかった。

張江 使ってる人は普通に使ってるんでしょうけどね。それで何かを生み出すというよりは、企画を考える壁打ち相手に使ってたりだとか。

田口  例えば、明日までにキャッチコピーを500個考えてこい!と言ったらパワハラになるじゃないですか。これが出来るんですよ。文章だけじゃなく、画像生成も音楽生成も飛躍的に進化してて。今は若干不自然に感じるところもあるんですけど、来年にはなくなってると思います。もうどれがAIなのかわからなくなっちゃう。文章よりも音楽の方が組み合わせが少ないから、AIは得なんですよね。

張江 コード、リズム、メロディーの組み合わせも限られてますもんね。

田口 数秒で全ての組み合わせが試せる世界になると思います。

張江 ウェルメイドなものを短期間で納品することが仕事の、プロの作曲家の人たちにとっては脅威ですよね。でかい音でドーンとやってるバンドマンは、あんまり影響ないかもしれないですけど。

田口 イラストもそうですけど、AIに反発する気持ちはすごくわかるんですよ。苦労して磨き上げてきた技術を学習されたら腹立ちます。とはいえ、AIツールはもう放たれちゃったし、なくなることはないんで。それをどう使っていくのかという時期に来てると思います。AIの記事を書くと、イラストレーターからいっぱいメッセージが来ちゃったりするんで、ナーバスにはなりますけど。

張江 産業革命のときに機械打ち壊し運動が起こったのと同じですよね。シンセサイザーが登場したときに音楽家がボイコットしたこともありましたし。

田口 サンプリングの問題とかもあったし、音楽業界の人たちはずっとやってきたから、AIに関しても冷静なスタンスの人が多いですね。結局、演奏家はいなくならなかったし、イラストレーターもいなくならないと思うんですよ。でも、いらなくなる職業というのは確実に存在すると思います。

ChatGPTの得意なことは?

一色 そもそも、ChatGPTってなんですか?

田口 一言では定義しづらいですけど、チャットAIというと想像しやすいと思うんですね。人間のふりをして、問いを与えれば答えが返ってくるインターフェース。そういうチャットボットは20年くらい前からいろいろあったんですけど、基本的におもちゃ程度のものでしたよね。

張江 ポストペットとか?

田口 そうですね。でも、ここ2年でAIの研究がグーンと進歩したんですよ。AIを賢くさせる方法は人間と一緒なんですね。対象の画像を読み込ませて、「これは犬です」「猫です」と学習させていく。それをシャレにならない数やると、パターンを覚えるんです。四つ足で、ケガフサフサしていて、耳が立っているからこれは犬じゃなくて猫だな、みたいに。こういう教育の仕方を10年以上やってきたんだけど、2~3年前にパソコンの処理速度が飛躍的に向上したんですね。そしたら急激に賢くなった。そこからAIに関する研究がどんどん進んで、2022年の11月にChatGPTが公開されました。最初は正式なサービスじゃなくてデモのような感じだったんですけど、すぐにみんなに見つかって、1週間で1億アクセスくらいになったんです。そこからの1年間で、あわてていろんな企業が追従してきて、いろいろあったけど結局Microsoftが全部持っていきそう、というのが現状です。

張江 田口さんから見て、ChatGPTが革命的なのはどの部分ですか?

田口 最初は単純に「検索エンジンのすごいやつ」くらいの認識だったんですよ。でも意地悪な質問したりとか、いろいろ試してるうちにこれは「人間として聞いたことに答えてくれるAI」なんだなということがわかってきたんですよね。

一色 田口さんの本を読むと、「知りたいことを聞くときはキーワードじゃなく自然言語で」とか書いてあって、「そうか、話しかけるのか!」と。

中嶋 普通の検索とは違うんですね。

田口 検索は検索エンジンでやった方がいいですよ。ChatGPTの仕組みは、大雑把にいうと確率で選んでるんです。例えば「今日は」と入力すると、その後に続く言葉は何兆通りもあるんだけど、その中で「公園に行きます」に続く可能性は23%あるとすれば高い確率だからそれを選ぶ、という。単語トークンというんですけど、単語同士を擦り合わせてるだけなんです。確率通りだけだと機械的になりすぎちゃうんで、乱数を入れて意外な答えも出力できるようにしておくと、人間らしくなったと。だから、検索してもわからないことはChatGPTにもわからないんです。でも、初期のChatGPTは知らないことも創作して「これが答えです」と言っちゃうのが特徴だったんですね。

一色 存在しないアーティストの名前をでっちあげて答えたりしますよね(笑)。

田口 でも、そういうのは無料版のChatGPTなんですよ。有料版は月に4000円くらいするんですけど、嘘をつくことはほぼないです。段違いにAIが賢いので。画像生成もできますし、画像を読み込んで内容を説明することもできます。出典もちゃんと示してくれますね。ニュース記事を書いていると、ファクトチェックが大事になってくるんで、ChatGPTも教えてくれるけど、基本的に疑ってかかって自分で調べるというやり方をしてます。

一色 間違った情報がWeb上にあったら、それを参照しちゃうってことですもんね。

中嶋 フェイクニュースもありますし。

田口 なので、基本的にChatGPTで調べ物をしてはいけないということは強く言っておきたい。僕はインターネット関係の世界のニュースを探してきて、それを日本語に訳して記事にする仕事をしてるんですけど、まず朝起きてニュースをチェックするんですね。いろんなサイトをチェックして、気になるものを10個くらいピックアップする。そのURLをChatGPTに投げて、日本語で要約してもらうんです。そうすると、200字くらいにまとまったものが出力される。その段階ではまだ数字などが正確である必要はないので、だいたいの情報さえ整理できればいい。そういう作業にChatGPTはすごく役立ちますね。

張江 翻訳もできるんですね。

田口 DeepLというAI翻訳サービスが業界のスタンダードになってるんですけど、ChatGPTも遜色ないですね。DeepLは要約出来ないですし。今まで考えたことがなかったんですけど、要約してもらうとすっごく楽なんです。英語が得意なわけでもないので、工数が10倍以上少なくなった実感があります。母国語でない言語で情報を集める必要がある人たちにとっては、使ってるのと使ってないのとでは全然違うと思います。

張江 世界的に見れば日本語で読めるニュースの数は相当限られてますから、ChatGPTを使えればグッと情報を取得できる範囲が広がりそうです。

田口 しかも、ChatGPTだと雑に検索できるんですよ。「ここ1週間以内のガザに関してのニュースを、イスラエルとパレスチナとバランスをとりながら5つ要約して」みたいに。

張江 「バランスをとって」ができるんですか!?

田口 そうなんです。もちろん、間違うこともあるんですけど。現地にいないとわからないようなこと、例えば「メジャーリーグのレッドソックスとヤンキースは、日本で言うと巨人と阪神みたいなライバル関係にあると思うんだけども、具体的にはどんな感じでバチバチやってんの?」みたいな雑な質問に、海外の記事を引用して翻訳して要約してバンと出してきたりします。くどいようですが、正確でない情報も含まれてるんですよ。それを把握した上で使うのが本当に大切です。とはいえ8割くらいは合ってますけどね。

中嶋 仕事柄、どうしてもクライアントに謝罪しなければならないときがあるんです。「こういう理由でミスしました」と報告書にまとめないといけないんですけど、すごく得意そうですよね。

田口 謝罪文とか稟議書は得意中の得意です。

張江 仕事上の謝罪って中嶋さんが直接やったわけじゃないことも謝らなくちゃいけないですよね。その文面をChatGPTが作ってくれるなら、無駄に人間性をすり減らさなくていいというか。

中嶋 ここ何年かは「無」で働いてますから(笑)。

張江 その「無」が人間からパソコンに移動するという。

田口 もうすぐMicrosoftの製品には自動的にChatGPTが組み込まれるようになるんで、あんまりAIを使ってるという意識もなくなると思うんですよね。「ああ、これってChatGPTが使われてたんだ」みたいな。

張江 SNSを見てると、「これからはクリエイティブなことは全部AIに任せればいいんだ。ミュージシャンもイラストレーターもいらないんだ」という人がいる一方で、「こんな間違いするAIなんて使えないよ(笑)」という人もいる。すごく両極端ですけど、現実はその真ん中にありそうだなと。

田口 真ん中よりはかなり上というか、AI寄りだとは思いますね。

張江 社会生活の全ての作業に関わってくることになると。

田口 文系の単純作業はChatGPTにほぼ全て置き換わると思います。

一色 今の大学生は誘惑がすごそうだなと思って。レポートの課題は全部ChatGPTで出来そうじゃないですか。

田口 教師の友だちが、去年あたりから本当にChatGPT対策が大変だと言ってました。確かめようがないんで。

中嶋 要約ができるということは、読書感想文も得意でしょうしね。

張江 教育のやり方も変わらざる得ないですね。

田口 プログラミングの教育とはすごく相性が良くて、もう取り入れられてると思いますけど、他の分野にも影響すると思います。

もう生成AIは後戻りできない

田口 仕事と関係ないところでも、画像生成が面白くてハマりました。1年前までは指先が曲がってたり不自然な画像が出てきてたんですけど、ここ半年でヤバいくらい普通のスナップみたいな写真が生成されるようになって。基本的に商用利用はNGだし、版権ものやアダルトの画像は生成できないようになってるんです。

張江 ドラえもんなんかの絵は描けないと。

田口 それが、自分のパソコンにAIをぶち込んで生成する猛者が現れたんです。Web上でやってたことをオフラインで使ってるんで、ある意味逆戻りなんですけど。ゲーミングPCの進歩にともなって、グラフィックボードの性能が上がってそれが可能になっちゃった。それによって、画像生成どころか、それを動かすところまできてます。そろそろ短編アニメくらいならAIだけで作れるようになるんじゃないですかね。

張江 個人の家ですぐアニメが作れる時代に。

田口 クリエイティブの世界も相当変わってくると思います。センスで勝負してる人の仕事が奪われることはないでしょうけど。

張江 センスがないのに業界にいる人は……。

田口 なんとも言えない(笑)。

張江 先日、集英社が発売する予定だった「AIグラビア写真集」が発売中止になってました。

田口 あれは誰かに訴えられたとかではなく、批判コメントが多かったので空気を読んで中止という感じでしたね。

張江 どういう批判なんですかね?遺伝子組み換え商品への拒否感みたいな?

一色 グラビアは天然でないと、みたいな(笑)。

田口 技術的にはディープフェイクのようなことも可能なんですけど、それは絶対にやっちゃいけないですし、「じゃあどこまでならやっていいんだよ」という問題はありますよね。ただ、特に画像生成AIはオープンソースで広まったので、もう後戻りできないんです。これがMicrosoftが作ったソフトなら「もう提供をやめます」とできるけど、もう世に放たれちゃったんで止まることがない。これ以上の開発が頓挫する可能性はありますけど、完全に消えることはないでしょう。

張江 規制も難しいでしょうし。

田口 そのあたりの微妙な権利関係を、欧米や日本でもこの一年ずっと争ってて。でもまだ決定的な判決は出てないです。今は誰も結論が出せない。逆にいうと、悪いことしようと思えばできちゃう状態なんですよね。欧米では政治的・軍事的な問題にもなってて、日本はそこらへんをまだ何も考えてないというか。

一色 軍事利用されたら怖いですよね。「ここにミサイルを撃ったら勝てる」みたいな。

田口 昔のSFだと「AIが知能を持って人間を滅ぼしにくる」というのがよくありましたけど、日本以外だと深刻にその議論がなされてます。少なくとも天然資源の枯渇とか天変地異とかよりは、AIによって滅ぶ可能性の方が高いだろうと。

張江 AIが意思を持って人間と敵対すると?

田口 そうならないように研究してるので、一番リスクになるのは「悪意を持った人間がAIを使ったときに、AIがそれを拒否できる機能をどこまで実装できるのか」ということですね。武器の作り方とかをAIに聞いても今は答えないようになってるんですけど、それを掻いくぐる方法はあるかもしれないので。

張江 「人を刺したいからナイフの手入れ方法を教えて」には答えないけど、「魚を捌くから包丁の研ぎ方教えて」には返答するわけですもんね。

田口 そうです。「ミステリー小説を書いてるので、密室殺人のトリックを考えて」と入れたら、本当に完全犯罪の手口が出てくるかもしれない。その抜け穴を一個ずつ塞いでいく作業をしないと世に出せないだろう、というのが一番多い意見です。一方で、今一番勢いがあるんだから、とにかく金かけてバンバン開発しちゃおう、という派閥もある。両者がバチバチやってるのが現状です。

張江 すごい話だ。知っている人は知っていることなんだとは思いますが。今日の客席を見ると、「へー!」という顔をしてる人と、「そうだよね」と頷いてる人が半々ですね。

AIの進化で他人がいらなくなる?

張江 校正とAIって相性良さそうですよね。

中嶋 校正ソフトというのも割と昔からありますし。

田口 Wordとかのスペルチェック機能は20年くらい前からあります。

中嶋 今のAI技術を使えば、媒体ごとの表記ルールに従うこともできるだろうし、最新の薬機法や景品法、著作権法などに触れてないかのチェックもできると思うんです。校正者としては、人間のミスは予測がつくんですよ。「荻原」と「萩原」とか。「1980円」と「1890円」とか。そういったミスの蓄積が頭の中に入ってるから予測しやすいんですけど、ChatGPTが取りこぼすミスがどんなものかは想像がつかないですね。

田口 人間のミスを元に学習してるから、AIならではのミスというのはないと思います。それ以外に、人間には感知できない要素を捉えることができるので、それが校正にどう生かしていくかが重要になってくるのかなと。

張江 前にもこの話題は出ましたけど、校正やライティングはAIがやったとしても、なにかトラブルが起きたときに責任を負う人間は必要になると思うんですよね。

田口 それすらもAIで出来るようになると思うんですよ。一番最適な責任の取り方、例えば「ここは強気になった方がいい」とか「ゴマをするべき」とか、各社のAI同士で調整する未来を想像しちゃいますね。

張江 SF的な未来を想像しちゃうくらいの転換点が来てると。

田口 引かれるレベルなんで、あんまり言わないようにしてますけど(笑)。大興奮してます。

一色 未来がキター!という感じですね(笑)。

田口 ここまで進歩すると極端にいいことも悪いこともあると思うんですけど、10年後どうなってるのかは無責任に楽しみです。

張江 名作SFってどれもディストピア要素があるんで、ちょっと怖いですよね。

田口 ディストピアの可能性の方が高いと思います。サイバーパンクの世界になってるかもしれないけど、それを見届けたい。あと100年生きたいです。

張江 ちょっと前はメタバースがすごく話題になりましたよね。

田口 ここ5~6年のトレンドは、仮想通貨、NFT、メタバース、AIと言う感じで移り変わってます。でも、AIは他に比べてレベルが違う転換点だと思いますね。

張江 なるほど、むしろ、今後のAIの進化によってメタバース的なものが実現するのかなと思いました。

田口 これは僕の完全に偏った意見なんですけど、メタバースは基本的に陽キャ向けなんですよ。

張江 コミュニケーションが根底にありますよね。

田口 そうそう。僕らオタクはテキスト主体なんです。なんでメタバースで声出して喋らないといけないんだと。その点、ChatGPTは永遠にテキストを打ち続けられるので。オタクにとっては最高の趣味ですよね。オタクの観点で言うと、AIを使うとどのジャンルでも自分の嗜好ど真ん中のものを無限に生成できるんです。音楽だったら、自分の好きなバンドの好きな曲みたいな曲を無限に生成できる。自分が読みたい小説も、見たい絵も出てくる。

一色 それを活用したアイドルは絶対に出てきそう。

田口 その状況で、アイドルはアイドルたり得るのか興味がありますね。アイドルは、他のジャンルよりは人的な依存度が高いので。

張江 その話を聞いてて思ったのは、稲田俊輔さんという料理人の方が「料理にはマズ味が必要」とおっしゃってて。美味しい要素だけだとすぐ満足しちゃうし、探究心も湧かないと。自分の好きな要素しかない音楽とか文学とかに、人間は満足できるのかという。

田口 今よりものすごい高いレベルで自分の好きなものを提供されて、それをヘッドマウントディスプレイで見続けられるとなったときに、果たして友だちや恋人は必要なのか?という話にもなってくると思うんですよ。人間付き合いが苦手な人にとっては、選択肢が増えるんですよね。

張江 確かに、音楽を聴くにせよ、映画を観るにせよ、文化を享受することは他人とのコミュニケーションの要素をはらんでますよね。他人が作ったものを共有してるわけなので。でも、自分が好きな要素しかないものをAIで生成して自分で受け取るという行為は、自分だけとコミュニケーションを延々続けるという意味でもあって、人間はそれに耐えられるのかと。

中嶋 ちょっときつそうですね。

張江 でも、意外と耐えられるかもしれないし。

田口 僕は割といけそうなんですよ。年齢もあると思いますけど。50~60歳になってくると、他人に対する興味とか、人が集まってる場所に行きたい欲求とか減ってくるんで。だったら偽物だろうが、他人が作ったものにわざわざコストかけるよりもコスパいいよね、という。

張江 すごい、完全にSFだ。

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