「ライター入門、校正入門、ずっと入門。」vol.0
SNSやブログを通して誰もが文章を綴るようになって早幾月。
ピンからキリまで様々なクオリティーの文章が溢れている中で、一度立ち止まって「文章を書くとはどういうことか」「それを他人に見せるとはどういうことか」考えてみたい。というか、ここら辺で原点に立ち返って整理しておかないと今後ヤバい気がする。何ならついでに若い人材も業界に入ってきてほしい。
ということで、「校正・校閲の仕事を専門とするプロフェッショナル集団」聚珍社の中嶋泰と、フリーライターの張江浩司が多種多様なゲストお迎えしつつ、定期的に酒飲みながらぼんやりと話していくイベントを立ち上げました。
イベントの模様をダイジェストでお届けします。
vol.0スタート!
張江「ご覧のみなさん、こんばんは!『ライター入門、校正入門、ずっと入門。』というイベントの第0回でございます。私は司会を務めます、ライターの張江浩司です。よろしくお願いします」
中嶋「私はこのイベントの発起人ですね。聚珍社という校正専門の会社があるんですけども、そちらの営業担当役員をやっていまして、校正や出版に関わる話題の引き出しが増えてきたので話していきたいなと。中嶋泰です。よろしくお願いします!」
張江「おじさんが二人だけだと画面が持たないので、早速ゲストをお呼びしたいと思います」
中嶋「一色萌さんです。どうぞー!」
一色「普段はプログレッシブ・アイドル『XOXO EXTREME』で活動させていただいてます、一色萌と申します。よろしくお願いしまーす!」
張江「今日は生徒役ということで、セーラー服で来ていただいて」
一色「そうなんです、生徒役って聞いて、普段のキスエクの衣装も違うかなと思ったので、今朝思いついてカバンに制服を詰めてきました。でも詰めが甘くて、靴は普通のスニーカーです。足下はあんまり映さないでください(笑)」
張江「イベントの意図を汲んでいただいてありがたいですね。ただ、ここではっきりしておきたいのは、我々がセーラー服で来てくださいとお願いしたんじゃないということで(笑)」
中嶋「ご自身の意思なので(笑)」
一色「今日はたくさん勉強させていただきます!」
中嶋「一色さんのグループは何度かライブを拝見したことがあって、MCも含めてしっかりした方だなという印象だったんです。今回の企画は始まったばかりで不安定なところもありますので、ぜひ一色さんに調整していただいて、我々は安心したいなと」
一色「生徒役なのになかなかの大役じゃないですか(笑)」
張江「生徒に頼ろうという魂胆ですね」
一色「がんばります!」
そもそも校正ってどんな仕事?
中嶋「2016年の秋に『校閲ガール』という小説原作のドラマが放送されて、人気になったんですね。その時は会う人から『中嶋さんも校正校閲の仕事されてますよね?』って興味を持たれることが多くなったんです。それから3,4年過ぎるとそういうこともなくなってしまい……。普段の生活だと、校正という名前自体を聞かないじゃないですか。なので職業として色々知っていただきたいなというのが第一の目的ですね」
張江「確かにライターや編集者だと、出版に関わる職業の中でもわかりやすいほうですよね。それに比べると校正は具体的に何をやっているのかちょっとわかりづらいというか」
中嶋「縁の下の力持ちですからね。裏方として、文字に誤りがないか、不適切な表現がないかをチェックする人がいるんだよ、ということをお話しできればと」
張江「例えば聚珍社はどんな雑誌を担当しているんですか?」
中嶋「ファッション雑誌やゴシップっぽいものだったり、多岐に渡りますね」
一色「『この分野に詳しいからこの雑誌の校正はこの人にしよう』みたいに担当が割り振られるんですか?」
張江「確かに、急に60代のおじさんがファッション雑誌の校正をするのは大変そうですよね」
中嶋「これがですね、60歳の人でもやってるんですよ。もちろん、知識があるっていうのもアドバンテージになるんですけど、最終的には校正者としての能力が重視されます。それぞれの編集部でローカルなルールがあるので、そこをいかに把握しているかが問われますね。
用字用語ルールと言うんですが、例えばある編集部では『〜してください』という言葉を平仮名で表記するけど、別の編集部では『〜して下さい』と漢字で表記する。長く校正を続けるとそういったルールに関することが、それこそ本一冊くらい溜まっていくんです」
張江「経験がものをいう職業なんですね。いかに辞めずに長く続けるか、というか」
中嶋「聚珍社には300名近く校正のスタッフが在籍しているんですが、全員フリーランスなんです。なので、仕事が来る人は続けられるし、来ない人は辞めざるを得ない。芸能の世界に近いかもしれないですね」
一色「確かに……!そうですね」
中嶋「僕は営業担当なので、芸能事務所のマネージャーに近いかもしれないです。『うちの会社にはこういう優秀な校正者がいます』『こういったジャンルに強いです』とクライアントに提案しているので」
張江「僕も2019年までタレントのマネージャーをやっていたので、まさにそんな感じでしたね。バラエティーのオーディションの話がきて、『うちのタレントは貧乏エピソードあります!』とか『体がめちゃくちゃ柔らかいです!』みたいに売り込んで。本当はそこまで貧乏でも柔らかくもないんですけど(笑)」
中嶋「実は、校正は雑誌以外にも色々ありまして、聚珍社が扱っている仕事の中で雑誌や書籍などの文字媒体は3割ほどなんです」
一色「へー、そうなんですね!」
中嶋「全体の半分を占めるのは商業印刷と呼ばれるもので、新聞の折込チラシ、商品カタログ、遊園地や美術館のリーフレットなどです。残りの2割がWebで、最近比率が増えてきています」
一色「今年のはじめに新聞に載っていた美術展の日程が間違っていたことがTwitterで話題になっていたのを思い出しました」
中嶋「まさにそういうことをチェックしているんです。例えば2月10日(水)と書いてあったなら、それが本当に正しいのかどうか。間違っていた場合、日付が違うのか、曜日が違うのか」
張江「僕もそういうミスしやすいので、胃が痛くなるような話ですね……」
中嶋「校正の仕事を始める方には、まずこういったデータのチェックからやってもらいます。文章の校正校閲よりも、まず正しい情報なのかを判断する作業ですね。日付は合っているのか、商品の名前、値段、品番は合っているのかというような。付け合わせっていう作業なんですけど、まずはそこから慣れていってもらう感じですね」
張江「Webはまだまだ少ないのが意外でした」
中嶋「一昨年くらいから徐々に増えているので、今後も需要は伸びていくでしょうね。校正と同時にWebライターの数もどんどん増えてます」
張江「ライターは自分で『やります!』って言って、Twitterのプロフィールに『ライター』って書いたらなれます」
中嶋「自己申告制ですね(笑)。校正もそうなんですよ」
一色「アイドルもそうですよ。最近はセルフプロデュースも多いので。Twitterのアカウント作って、『アイドルです!』って書いたらもうその瞬間からアイドルです(笑)」
校正とライターのリアルな懐事情
張江「校正者の方って一日何文字くらい読んでるんですかね?書籍と商業印刷ではだいぶ違ってくるとは思いますが」
中嶋「読みやすいものとそうでないものがあるんですが、目安としては15000~20000字くらいですかね」
一色「へぇー、そんなに」
中嶋「逆に言うと、それくらい読めないと生活できないです。じっくり読んで確認してもらえるのはありがたいんですけど、お支払いできるお金は読んだ文字数をベースに計算するので。
通常、1文字につき0.6円ですが、空白も1文字に含まれるんですよ。まだ組まれていない、Wordファイルの状態で校正する時はちょっと値上がりして1円くらいになったりします。
仮に1文字1円で20000字読めば日給2万円になって、そこから税金など諸々引かれても、家族で生活できるかなという感じです。
校正は相場があるので、そこまで会社によっての振れ幅はないんですが、ライターは編集部によって原稿料違うんじゃないですか?」
張江「そうですね、僕が書いた中でも3倍くらいの振れ幅があります」
中嶋「超売れっ子のライターさんだと1文字何万円という話も聞きますし。糸井重里さんとか」
張江「コピーライターだと昔はあったかもしれませんが、今はどうなんでしょう」
中嶋「校正にも人気者というか、いつも編集部から指名されるっていう方がいるんです。案件が被ってしまった時は交渉して、納期を伸ばしてもらうかギャラを上げてもらうかしますね」
張江「校正の業界で誰もが知ってるスター校正マンみたいな人っているんですか?」
中嶋「それは……いないと思います。やはり裏方なので」
アイドルの文章が面白い理由
一色「私、学生の時に雑誌を作る部活にいたんですよ」
中嶋「そんな部活が!?新聞部とは違うんですか?」
一色「新聞部ではなく、校内で配るフリーペーパーを作る部活でなんです。私の猛プッシュで寺嶋由芙さんに取材させていただいたことがあるんですけど、そしたら私と一緒の班の女の子が寺嶋さんのファンになって、数年後TIF(Tokyo Idol Festival)の女性限定エリアで再会したんですよ!取材が繋いだ縁だなと思います」
張江「一色さんは元々文章を書くことに興味はあったんですか?」
一色「多分そうなんだと思います。雑誌も昔から好きだったし、出版社でバイトしてたこともありました。某ファッション誌の誌面をWeb用に組み直す作業とかやってました。
そしてキスエクに入って、まずお話いただいたのが、自分の身の回りのことを自由に字数制限もなく書いていいよ、と。自分とアイドルのことだったり思ったことなんかを月に一回書かせてもらってます。
最近始まったのが、私の好きな特撮ヒーローに関するコラムで、ドキドキしながら書いてます」
中嶋「長い文章でもちゃんと構成されてて、まっすぐ結論に向かって書かれてますよね」
張江「特撮ヒーローのコラムのように、自分の好きなものについて書くって難しいんじゃないですか?」
一色「そうなんですよ!特撮についての連載は字数制限もあり、文末で次回のテーマを発表する形式も決まっているので。特撮好きな方が読んでも不快にならないように、ちゃんと調べて愛を持って書こうと思うと難しいです」
中嶋「読んだ人を不快にさせちゃいけない、傷つけちゃいけないということは、校正者の立場からもとても気をつけています。書き手の中には、その言葉が誰かを傷つけるかもしれないと知らずに使ってしまう人もいるので、ちゃんと指摘できるようにと。一色さん、『記者ハンドブック』って知ってます?」
一色「あ、知ってます!」
中嶋「この本の中には不適切な表現の使用例が色々載っているので、こういう情報をライターが知っているならこちらも安心して校正できます。
誰でも発信できる世の中になりましたし、発信したものがあっという間に拡散されてしまう。その分言葉選びに気をつけないと、自分も傷ついてしまいます」
一色「SNSだと短くまとめないといけないから、誤解もされやすいですよね」
張江「何個かに分けてツイートすると、芯の部分じゃないツイートが何故かバズったりとか(笑)。一色さんはSNSと連載で文章の書き方を分けていますか?」
一色「そこまで意識してませんが、SNSは結論をわかりやすく書いても面白くないのかなと思います。なんでこういうことが起こったのか、ということがリアルタイムにわかるのがSNSなのかなと。ライブ感というか」
張江「プロセスを見せるのがSNSなんですね」
一色「例えば部屋にゴキブリが出た時には『ぎゃー、ゴキブリだ!どうしよう!』みたいに投稿して、ファンから対策を教えてもらったり、そういう双方向のやりとりを含めた面白さが大事なのかなと思います。
でも、やっぱり瞬間的なものなので、まずいこと書いてないかな、ということは気になりますね。吉田豪さんRTされると、本当にビクッとなるんですよ!(笑)」
一同「(爆笑)」
一色「豪さんのお名前を出してるツイートがRTされるのはまだわかるんですけど、そうじゃないツイートがRTされた時は「なんかヤバいこと書いちゃったかな……』ってめちゃくちゃ不安になります」
張江「最近は文章を書くアイドルの方もどんどん増えてますよね」
一色「もうみなさん書いてくれるので、読み切れないくらいですよ!
例えば、今はアイドルを卒業されましたけど、姫乃たまさんはずっとすごいなと思っていて、アイドルとライターをこんなに高いレベルで両立できる人がいるのか!と。書いている内容に振れ幅があってどれも素晴らしいんです。姫乃さんの文章から知らない世界を垣間見えるし、姫乃さんの人間性も伝わってきます。
絵恋ちゃんのroof topでの連載は短く纏まっているのに、絵恋ちゃんのキャラクターも考え方も伝わってきます。世界観を崩さずにクリティカルな表現を入れてくるのが流石です。
水野しずさんのnoteは、分量があるのに全てがパワーワードなんです。
他にも怠田ユニさん(元 回せ!グルーヴ開発部)や、ムラタ・ヒナギクさん(始発待ちアンダーグラウンド)の文章も好きです」
中嶋「僕も色々読ませてもらっていて、文章としては拙い方もいますけど、キャラクターが出来上がっていて、伝わってくる力がありますよね。いい文章ってこういうことだなと思っていて。このイベントは『ライター入門、校正入門』と銘打ってはいますが、テクニック論ではなく、『この文章が面白い!』『こういう切り口があるよね』というような話をしていきたいなと思っています」
次回は2月25日!
一色さんには続投していただき、老舗面白ポータルサイト「デリーポータルZ」編集部から古賀及子さん、カルチャーニュースサイトの第一人者「音楽ナタリー」の副編集長・岸野恵加さんをお呼びして、web媒体のあれこれをお聞きします。
詳細はこちらをご覧ください。
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