文体の舵をとれ 第ニ章 句読点と文法 その1

 僕は過激派レトリックエクストリームバトラーなので句読点もこれまでに散々いじくり回してきたわけだが……それでもセミコロンなんて使ったことがないし、これから先も使わないと思っている。
 これは持論だけど、大衆の共通言語として普及してない記号、そして言葉に関しては、あえて使うメリットがほとんどない。そういった日常的に使われない言葉をわざわざ使う理由と言ったら、主に雰囲気付けだと思っているし、特に聞き覚えのない熟語なんて不器用な書き手のための救済措置だと思っている。表現を細やかにしたいなら熟語なんてざっくりしたもんで済ますより、平易な言葉をいじり倒すべきだ。

 こういうことばっか言ってると嫌われるので程々にしておきたい。まあ僕みたいな名も無きザリガニボーイに否定されたところで、きみはきみの信じる道に沿って書いていくしかないのだけれど。


 ジョゼサラマーゴを知らない学の無い生徒で申し訳ない。
 句読点の使い方を学べってはなしなのに、なんでまた句読点を省いた文を作れなんていう練習問題が用意されたのかというと、
 曰くこういった理由らしい。

「今回の練習問題は、まずもって意識を向上させることだ。使用を禁止することで、どうか句読点の真価を考えるようになってほしい」

 解ったか? 俺はギリギリだ。ていうか日本語は漢字とひらがなで区別を付けられるので他の言語より有利だよなあ。句読点抜き表現自体も、詩の界隈ではちょくちょく使われる。僕自身もそこまで極端なものでないが過去作で使ったことがある。せっかくだから読んでいけ。短いし。

つめさきを濡らすたび、すうまいずつがめくられていく、縁々へとぼくを拠せて、であってしまう。つながってしまう。たちきえてしまう。みなもに削られる月のような、うすくいびつに折り目の残るセロファンに透かされて、月型に曲がったままのひとびとが、湖岸の泥濘みへと植わっている。花弁をかぞえるように、ちかくの細い茎などを、てあたり次第ひっこ抜いている。


せかい。とつぶやいて、丁寧にかおをあらう。

遠い、

すくわれたいろみずのいろがいまだれの手にもみなぞこの泥をわすれさせていた。あなたはほうぼうへとかぜを起こしながら何処までも何処までもとそれをはこんでいて、つまづくたびにまた、はっ、と、すうまいずつをめくってしまう。


 この詩の構成はほぼほぼ句読点で成り立っていると言っても過言ではない。特に最終段落の初めのあたりは意図的に句読点を減らし頭韻なんかも多用しながら一気にリズムを加速させ、「はっ、と、」の部分の読点で失速させている。構造的な部分以外を語ると僕がめんどくさいやつになってしまうし、そもそもこれはポエム紹介記事ではないのでここまでにしておこう。

 まったくだ。

 さて、練習問題だ。『300〜700文字で句読点の無い語り』ときた。普通に考えてこんなもんなかなか書かない。意図としては「失ってはじめて気付け」といったところなのだろうが、せっかくなのでここは一つ、なるったけ句読点無しを生かしてみたいと思う。
 ちなみにこんな長い文で句読点抜きのテッパンといえば「ヤンデレの語り」が挙げられる。感情の向けられた相手ですら差し込む余地のない、愛の一方通行を上手く表した表現だ。あれを最初に書いたのってだれ? まあいいかそれでは書いてみよう。


 ほら教室の中を見渡してごらんみんな話をしているよでもそれはきっと君のことじゃないね聞こえるかな今週のジャンププラスのこと部活に入ってきた新入生がカッコいいってこと隣のクラスの誰かが告白失敗しちゃったこと誰かと誰かが次の休みに何処かへ出掛けようとしていてそこに別の誰かが混ざろうとしているってことそんなやりとりのなかで君じゃない誰かが笑ってる他の誰かも笑ってるだいたいみんな笑ってる大きな笑い声がもっともっと大きな笑い声にかき消されているこの中で君だけは誰でもない存在なんだそもそも誰かが何かを話しているだとかなんてもう君の耳までは言葉として届いていないのかもしれないねじゃあ目で追うことはできるかなほら顔をあげて見てみなよ向こうで四着のスカートが揺れている二着のブレザーがドアを開けて勢いよく飛び出していく誰かの放った紙ヒコーキが机のうえに座る三人組のすぐとなりを横切って窓のそとへと行ってしまった何人かがそれを目で追っていたけどきっとすぐに忘れちゃうねあれそういえば君の席はどこだったっけほらほら左上に彫刻刀で彫られた落書きがあるあの机だよ君の椅子は休み時間になるとだいたい何処かへいってしまうね気にしてるのは君だけだよそうなんだこの教室で君だけが溺れているんだ蛍光灯ぎりぎりのところで顔を出して必死になって酸素を取り込もうとしているんだでもそれももうそろそろ限界でじきに君は終わる君のせかいは終わるんだそれは夢のはなしなんかじゃあないだって君はもうなにも見えない大声で叫びたくても空気がかすかにゆれるだけでなにも伝えられない君だけが君の肺だけが重い液体に浸されていてあたりまえにただ一人みんなと同じ空気を吸えていない


 「息が詰まる」というはなし。
 「あえてそんな表現にする理由」としては納得させられるけど、まあはっきりいって読みにくい。つまり独りよがりな表現方法だ。漫画なんかのヤンデレシーンは読者に「読み飛ばしてもらう」ことありきの表現なので成り立っているが、小説では読みやすさに重きを置くべきだと思っているので判断が慎重になる。
 ちなみにこれはどーでもいい話だが、前々回だかの例文で使って以降、二人称でばっか書いてる気がする。

 続きは『その2』で書く。付き合ってくれてありがとう。

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